イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)。 セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)の「22」番目のグランドスラム・シングルス・タイトルについてのお喋りは、ほかの人たちに任せると彼らは言う。彼らとは、セレナ…

 イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)。  セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)の「22」番目のグランドスラム・シングルス・タイトルについてのお喋りは、ほかの人たちに任せると彼らは言う。彼らとは、セレナと彼女のコーチ、パトリック・ムラトグルーだ。彼らはこの数字について話すことはないと言う。  「そのことについてはいっさい話さない」

 ムラトグルーは、セレナの1回戦を見たあとにこう言った。なぜだろうか?

 「話すことは何もないからだよ。勝ち獲るべきグランドスラム大会がそこにあり、そのことがもっとも重要だ。それを得たあとのことについてなんて、話したりはしない。僕らはやらなければならない仕事について話し合う必要があるんだ」とムラトグルーは言う。  その仕事には、精度の悪いサービスの緻密なチューニングに、特に時間を費やすことも含まれるだろう。彼女は1回戦で、予選を勝ち上がったアムラ・サディコビッチ(スイス)を6-2 6-4で下したが、その内容はムラのあるものだった。5度のダブルフォールトをおかし、そのうち3本は、同じ1ゲームの間に起きた。グランドスラムの本戦出場は初めていう世界148位のサディコビッチに対し、5度もブレークポイントを与えてしまった。  「1回戦ですべてが完璧にいくというのは、非常に稀なこと。これは今日の僕らがあまり得意ではないことのひとつでもあるから、なんとか直していくつもりだよ」とムラトグルー。「でも、大したことじゃないさ」。  昨年、ウィンブルドンで6度目の優勝を飾り、グランドスラムで「21」番目のタイトルを手にして以来、セレナのグランドスラムの戦績は18勝3敗。その3敗が、全米準決勝、全豪決勝、全仏決勝でのものとなる。  そしてそのことが、グラフが打ち立てたオープン化後の最多記録、グランドスラム優勝「22」回を追う中で、彼女がどこかナーバスになっているのではないかという憶測を呼んでいる(オープン化以前を含めると最多記録はマーガレット・コートの「24」タイトルである)。  セレナは、メンタルが障害になっている、という見解を否定した。 「単に全豪オープンで勝つか、全仏オープンで勝つかという、シンプルなことよ。それは起きなかった。いま私は、ウィンブルドンで勝つことを考えている」とセレナ。「だけど必ずしも22番目のタイトルを獲ると考えているわけではないのよ」。  それから、例えば2010年に患った肺血栓のような、彼女を数ヵ月も病院にとどめ、ツアーから遠ざけたような、様々な健康問題を指したような口ぶりでこう続けた。

 「精神的に、私は過去にほかの誰よりも深く落ち込んでいたことがある。ほかの誰より、というのが言いすぎだとしても、とにかくかなりどっぷり落ち込んでいたのよ。だから今、メンタル的に辛すぎるなんてことはないわ」  母親がセンターコートのロイヤルボックスから見守る中、1回戦を戦ったセレナは、いきなり15-40と劣勢に置かれたが、そこから13ポイントを連取して3-0とリードを奪った。第2セットのセレナは、1ゲームの間に4本のアンフォーストエラーをおかしてブレークされ、1-2でサディコビッチにリードされたが、すぐにブレークバックした。  セレナのリターンエースが試合に終止符を打ったとき、ふたりはネット際で、旧友同士のように抱擁し合った。そうしたのは、サディコビッチの考えからだったようだ。彼女はこの出来事に畏敬の念を抱いていた。それも無理はない。

 27歳のサディコビッチは2年前に、選手としてのプレーを一度やめた。それはツアー生活を楽しめなかったからであり、財政的な問題を抱えていたからでもある。コーチなどをしつつ過ごした1年以上のオフのあと、彼女はふたたびツアーに戻ってきた。そういうわけでサディコビッチは、ほかの選手と対戦したほうが、よほど勝つチャンスがあると知りながらも、セレナとの対戦にわくわくしていた。  「いつも彼女に憧れていたの。まるで野獣のよう。もちろんいい意味でよ」とサディコビッチ。「私は常に自分にこう尋ねていたの。世界最高のプレーヤーと対戦するというのはどんな感じがするものなんだろう? って」。  今や、彼女はそれがどんなものかを知った。  「正直いって、私はただ彼女を抱擁したかった」とサディコビッチ。「そうしていい? と尋ねたら、彼女は『ええ、もちろん!』て言ってくれたの」。(C)AP