今やアジア大会を戦うU-21日本代表の生命線だ。 前線を形成する1トップ2シャドー、FW前田大然(松本山雅)、MF岩崎悠人(京都サンガ)、MF旗手怜央(順天堂大)のことである。岩崎悠人(中央)はサウジアラビア戦でも2ゴールを奪った 3…

 今やアジア大会を戦うU-21日本代表の生命線だ。

 前線を形成する1トップ2シャドー、FW前田大然(松本山雅)、MF岩崎悠人(京都サンガ)、MF旗手怜央(順天堂大)のことである。



岩崎悠人(中央)はサウジアラビア戦でも2ゴールを奪った

 3人はいずれも初戦のネパール戦ではベンチスタートだったが、パキスタンとの2戦目で初めてトリオを組むと、2分の岩崎のゴールを皮切りに、9分に旗手、10分に前田、35分に岩崎と、4ゴールを奪って森保一監督の期待に応えてみせた。

 さらに、ラウンド16のマレーシア戦でも揃って先発すると、中2日と厳しい日程で行なわれたサウジアラビアとの準々決勝でも先発出場を果たし、前田のふたつのアシストから岩崎が2ゴールを決めたのだ。

 なぜ、彼らが生命線なのか――。

 その理由のひとつが、前線からのプレッシングだ。3人ともスピードがあり、運動量が豊富で、泥臭い仕事をいとわないタイプ。なかでも、前田と岩崎は国内でもトップクラスのスピードを誇る。猛ダッシュで相手DFとの距離を詰め、フィードミスを誘ったのは一度や二度のことではない。

 サウジアラビア戦が、まさにそうだった。前田が相手GKまでプレッシャーをかけてタッチラインにクリアさせ、相手の攻撃のリズムを狂わせていた。

「前でボールが取れたり、外に出してくれたりしたら、うれしいんですよ。ベンチからも『ナイス』って言われるので、そういうのもやり甲斐あるなって」

 サウジアラビア戦のあと、前田は笑顔をのぞかせた。立ち上がりから3人が仕掛けるプレッシングは、機先を制する意味でも、流れを手繰り寄せる意味でも、チームに欠かせない武器なのだ。

 韋駄天トリオのコンビネーションも、試合を追うごとに深まっている。

 もともと感性が似ているのか、初めてトリオを結成したパキスタン戦のときから、阿吽(あうん)の呼吸のようなものが築かれていた。だが、そのころは「なんでなんですかね?」(前田)と、理由ははっきりしなかった。

 しかし、3試合を経験した今は、それぞれの役割が整理されてきた。たとえば、サウジアラビア戦後半の攻撃のメカニズムについて、岩崎が説明する。

「大然くんが背後を狙い続けてくれていたので、相手のラインも警戒して低くなっていたと思う。そこで(三好)康児くんだったり、怜央くんだったり、僕もそうですけど、(相手のディフェンスラインと中盤の)間でうまくターンしながら使い分けて、いい攻撃ができたんじゃないかと思います」

 前田が相手の最終ラインを押し下げることで、バイタルエリアにスペースが生まれるわけだ。

 背後を狙うのは、前田に限ったわけではない。裏を狙うときと間で受けるときの割合は、前田が「裏8・間2」、岩崎が「裏5・間5」、旗手が「裏3・間7」くらいだろうか。それぞれが自身と相手の役割と長所を把握し、活かし、生かされる関係を築いているのだ。

 とりわけ前田の存在は、攻撃に幅をもたらしている。

 チームは攻撃を組み立てる際、GKからパスをつなぐことをファーストチョイスにしているが、目的はつなぐことではなく、安全にハーフウェーラインを越して攻め込むことにある。ロングボールが禁止されているわけではなく、むしろ、ロングボールを織り交ぜて相手を揺さぶり、相手に圧力をかけられてもロングボールでかわせばいい。

 そのメリハリについて自信をのぞかせたのは、DF板倉滉(ベガルタ仙台)だ。

「ボールを持つときは持つ、動かすときは動かす。そのなかで裏を狙う状況判断はよくなったと感じます。大然は足が速いので、その精度をもっと高めたらチャンスがもっと増えると思う」

 こうした彼らのパフォーマンスと役割を考えれば、森保監督がここまで彼らを重用してきたことに疑問はない。

 もっとも、それに納得できないのは、FW上田綺世(法政大)とMF三好康児(北海道コンサドーレ札幌)だろう。ふたりはいずれもネパール戦でスタメンだったが、前田、岩崎、旗手のトリオに先発の座を奪われてしまった。

 上田はDFとの駆け引きに優れ、スルーパスの引き出し方やクロスへの入り方がうまい本格派のストライカーだ。途中出場したマレーシア戦では試合終盤に自ら獲得したPKを決めて決勝ゴールを奪った。

 その試合のあと、「自分は大学生なので、プロに負けたくないという気持ちがある。絶対に何かを持ち帰ろうという強い気持ちで毎回臨んでいる」と決意を語り、指揮官も「彼を起用しているときは、毎回チャンスを作ってくれる」と高く評価したが、サウジアラビア戦もベンチスタートだった。

 キャプテンを務める三好は、シャドーアタッカーとして攻撃の中心になることを期待されたが、ピッチ状態の悪さに苦戦し、持ち前の技術を存分に発揮できずにいると、マレーシア戦、サウジアラビア戦はベンチスタートを余儀なくされた。

 途中出場したサウジアラビア戦では右サイドで攻撃を活性化したが、「点を獲りたかったので、まだまだ足りない」とアピール不足を悔やんだ。

 U-21日本代表はベスト4に進出したことで、準決勝、決勝もしくは3位決定戦と、あと2試合戦うチャンスを得た。準決勝のUAE戦は中1日で行なわれるため、メンバーの入れ替えは十分あるだろう。韋駄天トリオのさらなる活躍とともに、結果に飢える上田、三好のパフォーマンスにも期待したい。