スパ・フランコルシャン(第13戦・ベルギーGP)はF1全21戦のなかで、もっともパワーセンシティビティが高いサーキットだ。つまり、パワーの多寡(たか)がもっとも大きくラップタイムを左右する。超高速サーキットとして知られるモンツァ(第1…

 スパ・フランコルシャン(第13戦・ベルギーGP)はF1全21戦のなかで、もっともパワーセンシティビティが高いサーキットだ。つまり、パワーの多寡(たか)がもっとも大きくラップタイムを左右する。超高速サーキットとして知られるモンツァ(第14戦・イタリアGP)よりも、その度合いが高いのだ。



トロロッソ・ホンダはスペック2のままでベルギーGPに臨んだ

 現状で最大出力が最下位のホンダは、スパ・フランコルシャンで極めて厳しい戦いを強いられることを覚悟していた。

 メルセデスAMGとフェラーリがスペック3パワーユニットを投入してきたのに対し、ホンダはスペック2のままでの戦いで、出力差はさらに広がった。ルノーはスペックCが完成したものの、向上シロと信頼性不安のために実戦投入を見送った。しかし、予選ではスペシャルモードでホンダにはわずかな差をつけてくるはずだった。

 実際、金曜の走り始めは決して楽ではなかった。FP-2(フリー走行2回目)ではスーパーソフトでのアタック時にトウ(スリップストリーム)が使えなかったという事情はあったにせよ、15位・17位に沈んでしまった。

 問題はやはり、シーズン前半戦に何度も苦労したダウンフォース量とストレートでの空気抵抗のバランスをどう取るか、という点だった。

 金曜の走行後、ピエール・ガスリーはこう語った。

「セクター1とセクター3では、とくにフォースインディアやザウバーと比べてかなり苦しんでいるのは事実だ。トップスピードを稼ぐために、ダウンフォースを削ってバランスを調整する必要があるかもしれないけど、僕らは今までそういうことをやったことがないし、コーナーでどのくらい失うのかもわからない。

 また、それをトライしてうまくいかなかったときに、そのレース週末は他のことを試すことができなくなってしまうリスクもある。トップスピードを稼ぐために何かをやらなきゃいけないことは確かだし、ウイングレベルを調整することも考えているけど、実際にそれを実行するかどうかはまだわからないんだ」

 ラップタイムを速くするためには、ストレートよりもコーナーを速く走れるようにしたほうが効果は大きい。その観点からいえば、ダウンフォースをつけるのは「あり」だった。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「ラップタイムへの寄与度から考えると、ストレートを伸ばすこととコーナリングスピードを上げること、どっちのほうがラップタイム的に得なのかといえば、それは当然コーナーのほうなんです。コーナーが速ければ、ストレートの立ち上がりスピードも速くなりますから」

 それでも、空気抵抗が大きく最高速が遅ければ、決勝では簡単にストレートで抜かれてしまう。だからこそ、どのチームもできるだけダウンフォースを削ろうと躍起になり、スパ・フランコルシャンには極めて薄い前後ウイングを持ち込んでくる。

 トロロッソはやや厚めのウイングで走行し、土曜のFP-3(フリー走行3回目)では薄いリアウイングをトライしてみたが、最高速は伸びなかった。ウイングよりも車体全体の空力効率の問題だったのだ。

「ライバルと比べて僕らは最高速が低かったし、もっとスピードを稼ぎたかったから、金曜に使っていたものよりも薄い別のスペックを装着して走行してみた。だけど、ウイングを削ってもダウンフォースが減るだけでストレートが伸びなかったから、元のウイングにまた戻したよ。これよりも薄いのは、もうモンツァ仕様しかない。それでも最高速はうまく伸びてくれなかったんだ」(ガスリー)

 トロロッソは結局、ダウンフォースレベルを削ることなく予選・決勝に臨んだ。最高速よりもラップタイム優先、そしてタイヤのデグラデーション(性能低下)を防ぐことを優先した。

 苦しいレースになるかと思われたが、スタート直後の大混乱をうまく切り抜けたガスリーは、フェラーリ製パワーユニットのハース勢とザウバーのマーカス・エリクソンに挟まれながら、しっかりとポジションを守って走り続けた。



「流れ」に乗って9位入賞を果たしたピエール・ガスリー

 ピットストップ直後にはブレンドン・ハートレイの後ろでコースに戻ったが、ハートレイが大幅に減速してまでガスリーをストレートで早々と先行させ、翌周ピットインしたエリクソンに対してはケメルストレートでDRS(※)を使って抜き、一度はターン1で抜かれたものの、ふたたびケメルストレートで抜き返すなど抑え込んで、ガスリーへの援護射撃をした。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

「あの戦略自体は100%正しいものだと思うよ。最初にスワップしろと言われたときは、後ろのピエールとのギャップが大きかったから『どうしてだよ!?』って思ったけど(苦笑)。彼を行かせてからは、できるかぎりエリクソンをホールドアップすることに専念したよ。それがチームのためにベストなことだと理解していたからね。

 僕自身のレースは、スタート直後のターン1でウイリアムズやエリクソンに先行された時点で終わったようなもので、もうポイント獲得のチャンスはなかったから。あとは残る1台ができるだけポイントを獲得できるよう、貢献するのがベストだということは重々わかっていたよ」(ハートレイ)

 ハートレイの貢献もあって、ガスリーはエリクソンを引き離して9位でフィニッシュ。上位で2台がリタイアしたおかげの入賞とはいえ、パワーセンシティビティの高いスパ・フランコルシャンでハースやザウバーと同等の走りができたことは、極めて大きな意味があった。

 トロロッソ・ホンダにとって幸運だったのは、周りのチームがダウンフォースをつける方向にセットアップを振ってくれたことだろう。どのチームも周りの最高速を見ながらダウンフォース量を最終決定していく。その「流れ」がトロロッソ・ホンダに味方したのだ。

 ホンダの田辺テクニカルディレクターは言う。

「予選あたりから周りのチームがダウンフォースをつけ始めてきたので、(直線主体の)セクター1とセクター3の我々との差が小さくなれば、こちらとしてはいい方向にいきますよね。おかげで、セクター2できちんと走れるセットアップを施した状態でもストレートで簡単に抜かれてしまうことにならなかったのは幸運だったといえますし、我々のポテンシャルを最大限に引き出すセッティングが当たったともいえます」

 もし、周りのチームがダウンフォースを削る方向にいっていればどうなったか。トロロッソ・ホンダは最高速の速いマシンに次々と抜かれていたかもしれないが、ダウンフォースを削ったマシンはタイヤのブリスターやデグラデーションに苦しみ、その点で優位なトロロッソ・ホンダは結果的にもっと上位にきたかもしれない。

 重要なのは、トロロッソ・ホンダが自分たちのマシンパッケージの性能をフルに引き出せたということだ。

 ただし、シーズン前半戦で度々問題になり、第12戦・ハンガリーGP後の合同テストでさまざまなトライを行なったセットアップの方向性の課題は、このベルギーGPでも依然として解消できていない。土曜のFP-3でウイングを削る方向に持っていけず、唯一の妥協点として落とし込んだダウンフォースをつけ気味のセットアップが、周りがダウンフォースをつけてきたことで正解になったというだけのことだ。

 次のモンツァでは、さらに薄い仕様の空力パッケージで走ることになる。パワーセンシティビティはスパ・フランコルシャンよりも低いとはいえ、コースのほとんどがストレートで全開率の高いモンツァでどこまで戦えるか。

 もっとも苦しいこの2連戦をどう乗り切るか、トロロッソ・ホンダの成長ぶりを見せてもらいたい。