森保ジャパンを語る~杉山茂樹×浅田真樹(前編) 9月7日のチリ戦(札幌)、11日のコスタリカ戦(大阪)で発進する森保ジャパン。新しい日本代表は何を目指し、どのようなチームになるのか。杉山茂樹氏と浅田真樹氏が語りあった。杉山 まずこの時期…

森保ジャパンを語る~杉山茂樹×浅田真樹(前編)

 9月7日のチリ戦(札幌)、11日のコスタリカ戦(大阪)で発進する森保ジャパン。新しい日本代表は何を目指し、どのようなチームになるのか。杉山茂樹氏と浅田真樹氏が語りあった。

杉山 まずこの時期の代表戦をどう位置づけるのかという問題があります。日本代表の試合が昔に比べて少なくなっているんです。ジーコ時代、ザッケローニ時代とどんどん減っていて、とくにハリルホジッチになってからは顕著でした。このままインターナショナルマッチのスケジュールに合わせて代表戦をやっていたら、増えることもないと思います。そうすると、昔に比べて1試合1試合が、貴重といえば貴重なんです。この機会をどう使うのか。

 その一方で、ロシアW杯の余韻をまだ引きずっている時期でもあるわけですよ。もう断ち切ったほうがいいのに、惜しくもベスト16だった「西野ジャパンをもう一度」というムードで興行をしようとすると、W杯に出ていた人をなるべく使いたいムードになる。そうすると、ちょっとスタートが鈍くなる気が僕はします。



アジア大会でU-21代表を指揮している森保一監督

浅田 選手をどう選ぶのかということで、森保一監督の姿勢が見える2試合でもありますね。やはり最初こそ、若い選手をどんどん使ってほしい。ただ、東京五輪に出場する世代は、バルセロナ五輪からサッカーが年代別の大会になって以降、たぶん過去に例がないぐらい強化されると思うんです。地元開催のオリンピックに対して、お金も時間もつぎ込まれることになる。そういう意味では、今年の年齢で21歳以下の選手たちは、ある程度、放っておいても自然に強化される。だとすると、ここでA代表として力を入れたいのは、そのちょっと上。リオ五輪世代の下のほうの年代ですね。

杉山 ロシアW杯のメンバーを見ると、若いといっても大島僚太(川崎フロンターレ)、遠藤航(浦和レッズ)が25歳、フィールドプレーヤーで一番下が24歳の植田直通(鹿島アントラーズ)。そのあたりから21歳までの選手が今後3年の間で代表の8割ぐらいを占めるようになると、計画的に強化されたということがいえると思います。もっと若い、21歳以下の選手を入れて「オリンピック代表をフル代表に入れて鍛えます」という言い方をしてもいいけれど、急に21歳だけにしたら勝てない。やはりロシアW杯の代表に選ばれなかったその上の世代を入れていく必要があると思います。

浅田 それでも24、25歳は、大島や遠藤を含めて、コンスタントにとまでは言わないけれども、それなりに呼ばれている。でも、井手口陽介(22歳/グロイター・フェルト)や三竿健斗(23歳/鹿島アントラーズ)らの世代の選手は、結局、全部切っちゃってロシアに行ったわけです。だから、どうしてもその年齢層が手薄になっている。そこはやはり、ちょっと意識的にテコ入れをすべきなんじゃないかという気がします。

杉山 そこの世代を6、7人を入れると、上の差代を同じ数だけ切らなきゃいけないじゃないですか。ところが森保監督は、就任記者会見でそこを「融合させる」という言い方でお茶を濁していました。「100%、こうします」ではなくてもいいけど、「どちらかというと若手を使っていきたい」ぐらいのことは言ったほうがよかったんですよ。

 本来はここで気分を入れ替えるべきなのに、せっかく新監督にしたのにもかかわらず、気分を一新したという感がない。これが外国人監督だったら、「なんでこの人を選んだの?」というのも含めて、メンバーをガラッと変えていったでしょう。それで芽が伸びるかどうかは別にして、呼んだということに価値がある。そこに監督としての姿勢が見えるし、他の選手も頑張ろうという気になる。

浅田 どういうサッカーをやるのかについては、森保監督も田嶋幸三会長も、「日本人らしいサッカー」とか、「あのロシアW杯のサッカーを踏襲する」と言っています。ロシアW杯の日本のサッカーはすばらしかったと思うけど、はっきり言ってしまえば偶然できたようなものじゃないですか。4年間、何かを積み上げてきて、全員に叩きこんで、そのなかから選ばれたメンバーが成し遂げたというものではない。

 とりあえず、とにかくヨーロッパでやっている経験のある選手を集めて、直前の2、3試合、とっかえひっかえ組み合わせを変えてやってみて、「ああ、見つけた」という形が、たまたまうまくいった。W杯前から1カ月間、一緒に合宿をしてきた控えメンバーでさえ、ポーランド戦でちょっと入れ替えたら、全然同じことができないわけですから。

 森保監督は「それをベースに」と言うけれど、それができる選手もいない。本田圭佑も長谷部誠もいないなかに新しい選手を入れて、「ああ、なるほどね」という形で若い選手がそのサッカーを吸収していくこともなかなか難しいと思います。ある意味、森保監督は一から作っていかなきゃいけない。「日本人らしいサッカー」「ロシアでやったサッカー」と言っても、実は、それを落とし込むという意味でいうと、具体的なものをわかっている人は少ない。そういうなかで森保監督がどういうことをやっていくのか、ちょっと見ものです。

杉山 アギーレのときもそうだったんだけど、まず問題になるのが来年1月に行なわれるアジアカップなんです。アジアカップで勝とうとするのかどうかという問題がまた出てくる。アギーレの場合、その前の親善試合では若手を思い切り使っちゃって、ブラジル戦にもベストメンバーで臨まず0-4で負けたりして、結構叩かれたんです。それでアジアカップになったら、長谷部や遠藤保仁、今野泰幸を呼び出すことになった。

 本来は、ここからアジアカップまで、どういうプロセスを踏むのかを明確にしなきゃいけない。そしてアジアカップで勝とうと思うんだったら、監督は代えず、そこまでは西野さんのままでいったほうがよかったと思うぐらいです。

浅田 勝ちにいくんだったらそうでしょうね。結果的に2011年のカタール大会は優勝できたし、2015年のオーストラリア大会はベスト8で敗退でしたが、最後のUAE戦はPK戦で負けており、内容的には押していたので、たいした問題にはなりませんでした。そこには「まだチームも固まっていないし……」といったエクスキューズもあるし、結局、アジアカップはどういう位置づけの大会なのか、ずっと曖昧なままなんです。

 まして、2020年のカタール大会の前年は、コンフェデレーションズカップをやらないという話もある。優勝したらコンフェデに出られるという副賞がないとなると、アジアカップをどうとらえるか、いよいよ考えないといけない。日本人は「最初から負けることを想定して臨む試合などない」という話になりがちでしょう。実際に試合になったら、負けていいということはないけれど、長い目で見たら、必ずしも勝負だけが優先されるわけではないと思うんです。

杉山 もうひとつの価値観というのがありますね。少なくとも価値観を勝ち負けだけにしてはいけない。

浅田 アジアカップは、ある意味で若手を試すにはちょうどいいハードルかもしれません。ライバルになるのは、韓国とオーストラリア、それに中東勢。そういう厳しい相手に対して、いわばアウェーの中東に乗り込んでやれるというのは、「強化の場」としてちょうどいいわけです。

杉山 日本との戦力比較でいうと55対45ぐらいのところが多く、もしかしたらオーストラリアや韓国あたりはちょっと上かもしれない。環境的にはW杯のアジア最終予選に似ているわけです。いい経験を積める、実戦トレーニングの場になるでしょう。

浅田 とくに、先ほど言った22、23歳の選手はアジア予選で負けてU-20W杯に出場できていない。リオ五輪のときは20歳ぐらいだから、五輪代表にも入れていない。どうしても国際経験を積むうえで不利な状況にあるので、あまり厳しい経験もしていないのだから、うまくアジアカップを使ってほしいと思います。
(つづく)