2018-19シーズン、レアル・マドリードのゴールマウスは、開幕節ヘタフェ戦、第2節ジローナ戦と、昨シーズン同様、コスタリカ代表GKケイロル・ナバスが守っている。結果は2連勝と盤石のスタート。欧州チャンピオンズリーグ(CL)3連覇の立…

 2018-19シーズン、レアル・マドリードのゴールマウスは、開幕節ヘタフェ戦、第2節ジローナ戦と、昨シーズン同様、コスタリカ代表GKケイロル・ナバスが守っている。結果は2連勝と盤石のスタート。欧州チャンピオンズリーグ(CL)3連覇の立役者であるナバスは、不動の地位を築いているかに見える。

 しかし、欧州王者に挑み続けるチームはナバスに満足していない。



開幕からレアル・マドリードのゴールを守っているケイロル・ナバス

 レアル・マドリードは昨シーズン途中、スペイン代表の新鋭GKケパ・アリサバラガ(現チェルシー)に熱烈オファー。内諾を得たものの、ジネディーヌ・ジダン監督の「補強は必要ない」のひと言で、交渉は打ち切られた。

 意気に感じたナバスは、神がかった反射神経と勘のよさでファインセーブを連発した。これがCL3連覇につながったわけで、「ジダンならではの選手マネジメントだった」といえるだろう。

 ところがそのジダンは、シーズン終了後、突然、監督を辞任。クラブは間髪を入れずに動いた。ロシアワールドカップでベストGKに選ばれたベルギー代表ティボー・クルトワを獲得したのだ。

「マドリードで自分の仕事をするだけ」

 ナバスは気丈にそう言って、残留する決意を示している。そんなGKのポジション争いに、「欧州王者レアル・マドリードの実像」が見える。

 レアル・マドリードにおいて、フロレンティーノ・ペレス会長の存在は絶対的だ。

 ペレス会長は、チームを経済的に立て直している。その点では偉大な会長に数えられるだろう。しかし、選手補強では”人気主義”が強く、若手を偏って好むところがある。裏を返せば、それがマーケティングで有利に働くためだが、かつてはその理念を象徴する「ジダネス・パボネス」(ジダンのようなスター選手とフランシスコ・パボンのような下部組織の若手選手の融合)という言葉があった。人気を誇ったデイビット・ベッカムも、その一環で入団したのだ。

 一方で、ペレスは現実的補強には消極的だ。昨シーズンも、アルバロ・モラタの代わりとなる選手を補充していない。また、給料アップを望むベテランは簡単に切る(クリスティアーノ・ロナウドは給料アップを断られた格好だ)。そして、自分の政策に反する人間を著しく嫌い、ジダンのように実績をあげた監督でも切ろうとしていた(CL決勝に負けた場合には、マウリシオ・ポチェッティーノ監督との間に密約があったといわれる)。

 そのペレスの構想において、ナバスは”人気”一番手ではない。クルトワは体格に優れ、手足が長く、立ち姿も威風堂々としている。飛び出しに優れ、守備範囲も広く、いわゆる見栄えがいいGKだ。

 興味深いのは、マドリディスタ(レアル・マドリーファン)も現状に満足していない点だろう。

「ナバスorクルトワ」

 スペインの大手スポーツ紙「マルカ」がインターネットサイトで投票を呼びかけたところ、7割近い人が”新参者”クルトワを支持している。

 もっとも、人気主義というのは危ういものだ。現場はその運用を間違えると、内部から崩れていく。新監督に就任したフレン・ロペテギにとっては、腕の見せどころとなる。元GKというアドバンテージはあるが、不安も尽きない。

 8月27日現在、レアル・マドリードには5人の代表クラスのGKが”乱立”している。ナバス、クルトワ以外にも、昨シーズンは第2GKだった元スペイン代表フランシスコ・カシージャ、今シーズン獲得したばかりのウクライナ代表アンドリー・ルニン。さらに昨シーズンは第3GKだったルカ・ジダン(ジダンの息子)もいる。

 ナバスが残留の決意を固めたことで、まずはルニンが割を食うことになりそうだ。「クルトワのセカンドGKとしてチームに慣れながら、カップ戦で試合経験を積み、将来的にファーストGKに」という形を目指しての入団だったが、このままではよくてサードGKが定位置だ。実戦を求め、スペイン1部レガネスへの期限付き移籍が濃厚といわれる。同じマドリードのクラブで、近日中に発表されるはずだ。

 GKの登録は基本3人。実力者のカシージャも引く手あまたで、移籍の道を探るのではないだろうか。

 気になる「正GK」は、分担制が有力だ。たとえば「ナバスが国内リーグ、クルトワがCLと国王杯」といった具合だ。

 タイプは違うが、2人は相当な実力者である。GKは特別なポジションで、競争を煽る起用をすると、チームが殺伐とした空気になることもあるだけに、はっきりと担当を決めたほうがベターだろう。

 たとえば、2013-14シーズンのレアル・マドリードは、ディエゴ・ロペスが国内リーグ、イケル・カシージャスがCLという分担制で戦った。そして国内リーグは3位、CLと国王杯では優勝を飾っている。ただし、カシージャスは地力の高さを見せたものの、最後は試合出場が足りなかったのか、調子を崩した。

 いずれにせよ、レアル・マドリードはどのポジションも争いは熾烈だ。それがチーム力の源になってもいる。実力なき者は去る。それだけのことなのだろう。

 2人のGKの動向が、今シーズンも覇権に挑むレアル・マドリードを測る目安になるかもしれない。