インドネシア・パレンバンで行なわれている、アジア大会準々決勝で、なでしこジャパンは強豪北朝鮮と激突。事実上の決勝戦と目されたこの大一番を2-1で制した。 ようやく出た「なでしこらしい」2発だった。互いのよさを消し合いながら進んだ40分…
インドネシア・パレンバンで行なわれている、アジア大会準々決勝で、なでしこジャパンは強豪北朝鮮と激突。事実上の決勝戦と目されたこの大一番を2-1で制した。
ようやく出た「なでしこらしい」2発だった。互いのよさを消し合いながら進んだ40分、中島依美(INAC神戸)の右CKはファーサイドへ、田中美南(日テレ・ベレーザ)が頭で折り返したところを岩渕真奈(INAC神戸)が押し込んだ。
今大会も安定したプレーでチームに貢献している長谷川唯
欲しかった先制点は、チームを牽引してきた岩渕が叩き出した。この形は何度も練習してきたもので、今大会、日本はCKの際にショートコーナーやニアサイドのスペースを使うことが多かった。この試合でも1本目の選択はニアで、2本目のCKで選んだファーサイドから先制弾につなげた。ここぞというときにチームを救うセットプレーが実らず、苦しい展開を崩しからのゴールで切り抜けてきたなでしこにとって、やはりセットプレーからのゴールを見出せるのは心強い。
そして、62分に2点目を決めたのは長谷川唯(日テレ・ベレーザ)。左サイドハーフでありながら、前線や逆サイドに顔を出す豊富な運動量と質の高い動きは、彼女の真骨頂。大会直前に行なわれたアメリカ遠征でもなでしこは3連敗を喫したが、彼女自身の調子は上々だった。今大会でもそれは継続されていたが、ここまでゴールはなかった。
その判断が光ったのが、2点目だった。ワンタッチパスで自ら前線の菅澤優衣香(浦和レッズレディース)に預けると、菅澤がDFをかわす柔らかいボールで戻す。「ダイレクトで打とうとは思ってなかった」(長谷川)と、完璧なラストパスを、腿(もも)でコントロールしてからゴールネットを揺らした。長谷川と菅澤の技術が融合した豪快なゴールだった。
相手が強豪国であろうとも、常に冷静な目を失わない長谷川。相手がアメリカであっても北朝鮮であっても彼女にとっての課題はシンプルだ。
「毎回のことなんですけど、(裏に蹴り過ぎると)攻撃が速くなっちゃって……。裏に行くときは行くで、みんなでもっとタイミングを合わせて裏へ意識を持っていかないと結局こぼれ球も拾えなくなって苦しくなる」
焦って裏へ蹴らなくても、落ち着いて視野を確保すれば、どんな相手でも必ずゴールへの道筋を見つけることができる――。彼女は確信をもって断言する。攻め手はある。その意識を共有することが大事なのだと。時間はかかったが、攻撃のバリエーションが出始めた。あとは、イメージを迅速に全員が共有できるか否かだ。
もちろん守備面でも課題はある。グループBの首位通過を争った北朝鮮と中国の一戦は、力技のような展開で90分が進んだ結果、中盤で守備がハマった中国が2-0で勝利している。日本は、それを考慮したうえでコンパクトに守備陣形を保って、相手のラインの間でボールを受けたかった。
だが、組織力を誇る北朝鮮も中国戦から立て直し、日本をしのぐコンパクトさを徹底してきた。互いにスペースを生じさせない状況に攻撃陣は苦労したが、それでも日本はポゼッションの優位を譲らず、北朝鮮はカウンター狙いに絞るしかなかった。守備を狙い通りにハメることができず、後半にはかなり攻め込まれたが、阪口萌乃(アルビレックス新潟)が与えてしまったPKの1点に抑えて逃げ切ったことは大きい。
「ポジショニングで(次の韓国戦)は修正できると思います。バランスが一個ずつズレていた」と修正の可能性を口にしたのは鮫島彩(INAC神戸)だ。彼女は、前回北朝鮮と対戦した昨年のE-1選手権の映像を何度も見直したという。鮫島が本格的にCBを任された初めての大会だったが、慣れないポジションで右往左往しながら戦い、完敗していた(0-2)。同じ轍は踏まない。この日は、相手に合わせるのではなく、自ら意図を持って最終ラインをコントロールした。
「E-1のときよりはコンパクトにできた。少しは修正できたと思います」(鮫島)
守備陣もメンバーを少しずつ入れ替えながら、課題をクリアして一歩ずつ成長している。
攻撃では、岩渕、長谷川という決めるべき選手が、取り組んできた形でゴールを生み、練りに練って修正をかけてきた守備でしのぎ切った。国内組で北朝鮮を倒したことで、初めてこの2年の成長を多少なりとも実感したはずだ。ここから2勝でアジアの頂点を目指す。そこに立ったとき、ようやく”自信”を手にするのかもしれない。