日本でもっとも多くのゴールを奪ってきた男――大久保嘉人は、それほどの実績がありながら、少しゴールから遠ざかっただけで、「もう二度とゴールできないんじゃないかっていう不安に襲われる」と明かしたことがある。 そんなとき、自信を取り戻すきっ…

 日本でもっとも多くのゴールを奪ってきた男――大久保嘉人は、それほどの実績がありながら、少しゴールから遠ざかっただけで、「もう二度とゴールできないんじゃないかっていう不安に襲われる」と明かしたことがある。

 そんなとき、自信を取り戻すきっかけは、やはり「ゴールを奪うことしかない」という。



パキスタン戦で2ゴールを決めた岩崎悠人

 だとすれば、かつて「高校ナンバーワンストライカー」と称され、鳴り物入りでプロ入りしながら、ゴールの味を忘れつつあった岩崎悠人(京都サンガ)にとっても、アジア大会のパキスタン戦で奪った2ゴールは、大きな意味を持つかもしれない。

「あの2点で吹っ切れた部分がある」

 パキスタン戦の2日後、岩崎はそう、きっぱりと言った。その言葉は、復活を感じさせると同時に、これまで岩崎がいかに苦悩してきたかをうかがわせた――。

 インドネシアで開催されているアジア大会。U-21日本代表は決勝トーナメント1回戦でマレーシアを1−0で下し、準々決勝進出を決めた。

 劣悪なピッチ状態、過密日程、年上の対戦相手、練習環境の悪さなど、厳しい状況が続き、チームパフォーマンスは決していいわけではないが、そのなかで自身の持ち味を発揮しているのが、2シャドーの一角を務める岩崎だ。

 2戦目のパキスタン戦では1分にディフェンスラインの裏に飛び出し、ロングフィードを胸でトラップして流し込むと、35分にも小刻みなステップワークで密集をかわし、豪快なミドルを突き刺した。

 3戦目のベトナム戦では後半から登場し、トップ下に入ってボールに絡み、ラウンド16のマレーシア戦でも躍動感のある力強いドリブルを何度も披露した。

 マレーシア戦後に、岩崎が振り返る。

「今日はシャドーのポジションはスペースがあって、あそこで前を向いて仕掛けるプレーが出せましたね」

 もっとも、「あの2ゴールで吹っ切れた」と語ったように、これまで岩崎はU-21日本代表で存在感を示せていたわけではない。今年1月のU-23アジア選手権では得点源として期待されたが、4試合中3試合に出場して、ノーゴールに終わった。

 ゴールが遠いのはなにも代表だけではない。所属する京都でもこの2シーズン、思うようにゴールが奪えていないのだ。

 プロ1年目の昨季、35試合に出場したのは高卒ルーキーとして立派だったが、ゴールネットを揺らした回数は2回しかなかった。シーズン序盤は途中出場が多く、先発の座を勝ち取ってからは、サイドハーフでの起用が続いた。求められたのは、スピードを生かして突破し、中央で待ち構える田中マルクス闘莉王やケヴィン・オリスにチャンスボールを供給すること。なかなかゴール前まで入っていけなかった。

 そのため、1月のU-23アジア選手権で岩崎は、「これだけゴールが奪えないのは初めて」と悩ましげな表情を浮かべていた。

 今季もサイドハーフとして起用され、チャンスメーカーの立場に変わりはない。さらに、チームの不調もあいまって、25試合に出場して1ゴールにとどまっている。

 ウイングバックでの起用もあるかもしれない――。

 今大会前、岩崎はそう思っていたという。それは、クラブでチャンスメーカーの役割をこなす自分を冷静に分析しているようで、ストライカーとしての自信が揺らいでいるようでもあった。

 だが、U-21日本代表を率いる森保一監督は、岩崎の魅力を理解していた。

「自分の持ち味を自由に出してほしい」と岩崎に声をかけると、ウイングバックではなく、これまでどおりシャドーとして送り出したのだ。

 パキスタン戦の2ゴールは、その期待に最高の形で応えたものだった。

 なかでも、豪快なミドルシュートを突き刺した2点目は、自信になったという。

「高校のときからずっと取り組んでいるトレーニングがあって、その成果が出てきているかなって。無駄な動きを削ぎ落として、効率的な動きを手に入れるトレーニングをずっとやっていて、あの2点目はその効果が感じられてきたので、大きいですね」

 一方、岩崎の持ち味をある程度出せたように見えたマレーシア戦では、自身のプレーに満足していなかった。

「仕掛けたあと、チャンスメイクだけになっていた。ゴールがほしいし、アシストもほしかった。パスを出したあと、ゴール前に入っていって、最後に押し込む気持ちでやっていきたい」

 準々決勝の相手はサウジアラビアに決まった。2016年のU-19アジア選手権の決勝で対戦し、0−0のままPK戦にもつれ込んで倒した因縁の相手である。

「サウジもU-21と聞いて、あの決勝で戦った相手なので負けたくないし、相手もリベンジしたいという気持ちでくると思うので、入りを含めて勢いで劣らないように、自分たちも戦う姿勢をしっかり持ってやっていきたい」

 2年前の対戦では日本は劣勢を強いられた。サウジアラビアが強敵なのは間違いない。だが、ストライカーにとってもっとも大切で、最近薄れつつあったゴールへの強い欲求を取り戻した岩崎が、日本を準決勝へと導く大仕事をやってのけてくれるはずだ。