検証・女子ゴルフ「黄金世代」(後編) 勝みなみ、畑岡奈紗らを筆頭に、女子ゴルフ界で日増しに存在感を増している1998年生まれ(&1999年早生まれ)の『黄金世代』。今後も彼女たちの躍進は続くのか? さらに、2年後に迫った東京オリンピック…

検証・女子ゴルフ「黄金世代」(後編)

 勝みなみ、畑岡奈紗らを筆頭に、女子ゴルフ界で日増しに存在感を増している1998年生まれ(&1999年早生まれ)の『黄金世代』。今後も彼女たちの躍進は続くのか? さらに、2年後に迫った東京オリンピックで彼女たちは活躍することができるのか? ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏に聞いた――。



「黄金世代」の代表格となる畑岡奈紗

 今後も若い女子選手たちの躍進は続くでしょう。そして、2年後の東京オリンピックの主軸になるのは間違いなく『黄金世代』の選手たちです。

 最大のライバルとなるのは、もちろん韓国。さらに、現在、フランスやスウェーデンといったヨーロッパの国々は、オリンピックを念頭に置き、国を挙げてアマチュア強化に乗り出しています。特にフランスなどは、アメリカやオーストラリアなどに60人もの留学生を送り込んでいるほどの力の入れようです。

 日本人選手にも、アメリカの名門大学の門戸は開かれているのですが、障害になるのが語学です。アメリカの大学では、入学できても一定の成績を残さなければ、ゴルフをプレーすることが許されない決まりがあります。そこで、語学の苦手な日本人選手にとって、英語が大きな障壁となっています。

 とはいえ、日本ゴルフ協会(JGA)もただ手をこまねいているわけではありません。ナショナルチームのコーチにオーストラリア人が就任しているように、グローバル化を進め、諸外国の最先端のノウハウを取り入れる努力を怠っていません。

 また、外国人コーチは、最新のスイングや技術を指導するのはもちろん、ゲームマネジメントやメンタル面といった部分に、より重点を置いて指導をしています。彼らは、指導中の言葉をひとつ取っても、表現力やたとえ話がうまく、モチベーターとしての役割をも担っているのです。

 そうした状況にあって、『黄金世代』のライバルは、まずは自分自身といっていいかもしれません。

 現在、20歳前後の彼女たちはある意味、挫折知らずで今日まできている選手が多くいますが、近いうちに必ず”壁”に当たります。

 たとえば、勝みなみはアマチュア時代、何も考えずにプレーしていても、いいスコアが出ていました。しかし、プロになって上位進出はできても、なかなか勝てません。「どうして勝てないのか?」と考えるゆえ、迷いが生じるからです。

 また、アマチュア選手の多くは、学校と家と練習場の3カ所だけが”世界のすべて”といった生活を送っていきます。しかも、練習場や試合会場に行く際は、両親などに送迎してもらって、競技だけに集中することができます。

 しかしプロになると、嫌が応でも”世界”は広がり、見える景色も変わって、周囲からはさまざまな声が聞こえてくるようになります。

 ゴルフのプレーにしても、それまでは深く考えることなく、ガムシャラにプレーするだけで、それなりの成績が残せたとしても、プロではそうはいきません。プレーの引き出しを増やし、自分で考え、判断し、決断しなくてはいけないことが急激に増えます。

 そこを乗り越えないと、プロでは勝てません。頭を使うゴルフをどのタイミングで覚えるか――とりわけ女子の選手にとってはそれが、プロになってから”大きな壁”として立ち塞がります。

 怖いのは、ある意味で挫折をしたことがない若い世代は、それをどう乗り越えるかを知らないということです。ゴルフエリートたちは、一度失敗すると、人生の終わりのように感じるものです。

 ルーキーイヤーでいきなり2勝を挙げた比嘉真美子も、その直後からスイングに悩み、なかなか勝てない時期が続きました。彼女はアマチュア時代から、ゴルフ人生の設計を緻密に作っていましたが、それがズレてしまったことで、ドロ沼にはまった可能性があります。

 それでも、比嘉は見事にスランプを脱出。最近はメンタル面も強くなって、素晴らしい活躍を見せていますが、こういう選手は稀(まれ)です。男子に比べて、女子選手はなかなかスランプから抜け出せないことが多いです。

 女子選手の場合、肉体の成長過程によって、今までのスイングが合わなくなるということも、つまずくポイントのひとつです。それまで真っ直ぐ飛んでいたドライバーが曲がる、ずっと入っていたパターが入らなくなる……など、うまくいっていたことがうまくいかなくなる。

 そこで、「昔はよかったのに、なぜダメなんだろう?」と迷い始めると、どんどんドツボにハマっていくことになります。

 そんなとき、以前なら「何をやっているんだ!」「がんばれ!」と、精神論で選手を鼓舞する指導者が多かったと思います。もしくは、「インに入りすぎているから、クラブをもっとアウトから……」などと、事細かくアドバイスする指導者もいたことでしょう。しかしそれでは、自ら考える力を養うことができず、言われたことを言われたとおりにやるだけの”ゴルフロボット”になりかねません。

 かつてアメリカでは、大学のコーチの言うとおりに練習をして強くなった選手がたくさんいました。ただ、そういう選手たちは皆、アマチュアでは好成績を残していたものの、プロになってから一向に成長することができませんでした。そうした時代もあって、今のアメリカでは選手自身に考えさせる、ということに重きを置いています。

 日本でも、最近はそうした傾向が強くなっています。ナショナルチームやIMGのテクニカルコーチなどは、選手から「ここがうまくいかないので教えてください」と相談を受けたら、まずは「キミはどう思うの?」と聞くことから指導を始めます。

 そして、選手が「原因はここにあるだろうから、これをこう直す必要があると思う」と言えば、「キミが言うことは正しい」と答えたうえで、「今、キミが言った問題を解決するためには、5つの方法がある」という話をして、指導を進めていくような感じです。逆に言えば、選手が自らの意見、考えを示さなければ、指導にあたることはありません。

 第一、ゴルフのスイングは身体のさまざまな部分の動きと連動しているため、ひとつの動きを直そうとすると、その他の複数の動きにも関わってきます。結果、ひとつの動作を直すためには、全体的に変えなければいけないことが結構あります。

 そこで、最近の指導者は「キミが言っている問題を直そうとすると、ここと、ここと、ここに関わってくる。だから、いくつもの修正方法がある。例えば右の股関節を鍛えるのがひとつ。他にも、こういう方法で修正していくと、1カ月はかかる」と選手に伝えます。それに、選手が納得すれば、指導を進めていきます。あくまでも、選手の自主性に任せることが多いです。

 ちなみに、松山英樹のすごさは、他の選手は直すべき部分を指導者に見てもらい、指導者と相談して修正していくところを、彼は自分自身で問題を発見し、その解決方法も自分で考えて実践していくことです。

『黄金世代』の話に戻しますが、女子選手によく見られた挫折も、『黄金世代』の選手なら、従来の選手以上にスムーズに乗り越えていくのではないか、と私は思っています。

 ゴルフは精神的な部分が非常に重要な競技ですが、『黄金世代』の特徴として、ハートと頭の切り替えの早さが挙げられます。大会で大叩きして落ち込んでいるだろうなと思った選手が、「今日、ちょっと叩いちゃった(笑)」と、あっけらかんとしていたりすることが多々あります。

 男子の米ツアーで活躍するジョーダン・スピース(アメリカ)は、パットを外しても何とも思っていないように見えます。ハートと頭の切り替えがうまいというか、どこか「これはゲームなんだ」と割り切っているようにさえ思えます。

『黄金世代』は、このスピースと似たような感覚を持っているように見えます。この感覚は、それ以前の世代にはありません。

 宮里藍らの世代や、その下の世代とはちょっと違う。同じゴルフをしていながら、思い詰めることがなく、どこかカラッとしている。『黄金世代』のゴルフは、従来のゴルフとは微妙に競技が違うのではないか、とさえ感じることがあります。

『黄金世代』は、「入れれば勝てる。外せば負ける」というシビアな一面を幼少期から経験しています。そのうえで、もちろん個人差はありますが、応援してくれる人やスポンサーなどからの期待を、過度に背負っていないように映ります。ひと世代前までの選手が持ち合わせる、「この一打を外したら……」といった悲愴感のようなものを一切感じさせません。

 それも、『黄金世代』の特徴のひとつです。思考がよりシンプルで、「勝ちたい」という気持ちに、より純粋であると言えるのではないでしょうか。

 最後に『黄金世代』の中でも、海外を主戦場として好成績を残している畑岡奈紗の存在は、世代を牽引する大きな力になっていると思います。引っ張っていく人間がいると、同じ世代の選手は特に、そこに早く追いつこうとするものです。

 勝みなみも、今年、来年で、もう一度勝つと自信がつき、ひと皮剥けるのではないでしょうか。さらに今後、まだ見ぬ『黄金世代』の新星が複数人出てくる可能性も大いにあります。

 東京オリンピックは、日本はホスト国であるため、2選手が出場できることは確定しています。3選手以上出場するためには、世界ランキングで上位にいる必要があり、ヨーロッパの選手のように、ポイントが高い大会を転戦する必要が生じます。同様に『黄金世代』の選手には、国内ツアーのみならず、世界に打って出てほしいと願っています。