青山敏弘インタビュー@前編 昨シーズンは降格圏目前の15位――。過去3度のJ1優勝を誇るサンフレッチェ広島は、まさかの残留争いを強いられた。ところが今シーズン、広島は見事に蘇った。開幕から9戦負けなしで勝ち星を積み重ね、首位の座をがっち…
青山敏弘インタビュー@前編
昨シーズンは降格圏目前の15位――。過去3度のJ1優勝を誇るサンフレッチェ広島は、まさかの残留争いを強いられた。ところが今シーズン、広島は見事に蘇った。開幕から9戦負けなしで勝ち星を積み重ね、首位の座をがっちりとキープ。そのチームをひとつに束ね、牽引しているのが、2004年から在籍する青山敏弘だ。キャプテンを務める32歳の青山に、現在の心境を語ってもらった。
サンフレッチェ広島ひと筋の青山敏弘が今年の快進撃を語る
―― 昨シーズン残留争いに巻き込まれて苦しんだサンフレッチェ広島が、今シーズン見事に蘇りましたね。序盤は隙のないタイトな守備で勝ち点を積み上げてきましたが、今は攻撃のバリエーション、コンビネーションも増えた印象です。
青山敏弘(以下:青山) 昨年ぎりぎりで残留して、何からどうすればいいのか、っていうところで城福(浩)さんが監督に就任して、しっかりオーガナイズしてくれて。前半戦は本当に隙のない戦いができたし、何より結果が出たので、自信を持つことができましたね。
―― やはり、結果がすべてですからね。
青山 そのなかでも、守備から攻撃、攻撃から守備のつながりをすごく感じられた。これが自分たちの強みだなって。それと、個人の強みがそのままチームの強みになっている。個人のよさを出すのにもっとも合ったスタイルが、今のチームのやり方だなって。
昨年は個人としても苦しんだから、今年、自分が少しずつよくなっていくのが本当にうれしくて。チームのなかで自分が生きている……そう感じられたことが自信になった。優勝したいとかじゃなくて、それだけで十分。1試合、1試合、みんながすべてをかけて戦えていると思うし、リーグ戦とルヴァンカップのふたつのチームが互いに高め合えたと思うので、みんなでつくり上げている、という感覚がすごくありますね。
―― 城福監督のチームづくりや指導については、どう受け止めていますか?
青山 シーズンに入る前に、グループミーティングに呼んでもらったんです。そこで「こういうサッカーがしたい」とか、「理想はつなぐサッカーだけど、まずは守備から入る」という話を聞いて。ただ、おっしゃっていることはわかるんですけど、果たしてそのサッカーをみんなで作っていけるのかどうかはわからなかった。でも、まずは守備のところから徹底してやっていったんです。
―― できるかどうかわからないけど、やるしかないと。
青山 新しい監督が来て、チームが変わっていくんだな、というのはやっぱり感じていたし、新しい広島をつくっていかなきゃいけない、それには自分たちも変わらなきゃいけない、というのもわかっていた。新しいサッカーにチャレンジするのは、非常にエネルギーがいるんですけど、昨年は誰もが悔しい想いをして……そんな簡単な言葉じゃ表せないですけど、誰もがもう一度、いい方向に向かっていきたいと思っていた。日本人の監督なので、そうした僕らの想いを理解してくれたし、城福さん自身の気持ちも伝わってきた。そういうのがマッチしたのかな、と思います。
―― チームが変わらなければならないなかで、青山選手自身も、新しい自分を見つけたい、という期待があったのではないですか?
青山 いや、正直、自分のことはあまり考えてなかったです。チームが新しいサイクルに入っていくなかで、その流れにうまく乗れたらいいな、くらいは思っていましたけど。そもそも自分自身にあまり期待してなかった。だから、シーズンが始まって、自分が変わっていくことにびっくりしたというか。本当に1試合、1試合、自信になっていきました。でも、正直、半分は自信になっていたけれど、半分は疑ってもいて。
―― 信じ切れない、というような?
青山 まだ気を緩ませたくないというか。ここまで戻ってきたんだ、という喜びがあったけど、またできなくなるんじゃないか、という怖さもあった。でも、身体のことに関しては、池田さんがそばにいてくれたから。
―― フィジカルコーチの池田誠剛さんですね。
青山 いつも気にかけてくれて、「アオは大丈夫」「アオはもっとよくなる」って言葉だけじゃなく、常に寄り添って指導してくれた。池田さんは自分の不安を一番理解してくれたし、自分もその不安を正直に伝えたんです。それに対して、的確なリアクションが返ってきて、身体にも反映されて、結果もついてきたから、本当にすごいなって。
―― オフに「自分のことはあまり考えてなかった」という気持ちはわかるんです。青山選手はこれまでもチームと向き合ってきたし、人一倍責任を背負ってきたと思うので。だけど、「自分にあまり期待してなかった」という言葉は驚きました。なぜ、自分に期待できなかったのか……。
青山 2015年に優勝したあと2016年、2017年と2年間やってきて、ここまで動けなくなるのか、っていうくらい身体が動かなかったし、ボールを蹴ることすらダメで……。プロ選手として失格だろうっていうくらいパフォーマンスがひどかった。それが本当に苦しくて。それでも試合に出ていたから、その葛藤があって……。昨年、チームの足を引っ張ったのは間違いなく自分だと思っているし、それに対して、周りは何も言ってこない。周りに気を使わせてしまっていたんです。
―― それも苦しかった?
青山 うん。だから今年もダメなら……っていう覚悟はしていたし、自分が退いて新しい広島がつくれるなら、それでもいいと思っていたし。
―― チームが新しくなって好転していくなかで自分の場所がなくなるなら、それも仕方ないというか……。
青山 そうなるべきだと思ったし、若い選手たちが活躍するなら、その手助けになりたいなと思ってシーズンに挑んだんです。
―― そうした覚悟で臨んだなかで、城福監督と池田コーチがやって来た。池田コーチにすべてを委ねてみよう、この人にかけてみようと思ったきっかけはありますか?
青山 人間性ですね。チームが始動してすぐにタイキャンプに行ったんですけど、毎晩、メディカルルームに池田さんがやって来て、僕がマッサージを受けたあと、身体のこととか、チーム状況とか、これまでどう苦しんで、どういう想いをしてきたのか、聞いてくれたんです。毎晩話し込んで、それがすごく楽しくて。
池田さんも体験談を話してくれて、たとえば、(横浜F・)マリノス時代に誰々がどうだったとか、マリノスが優勝したとき、チーム状況はどうだったとか。自分も優勝経験はあるし、この2年間うまくいかない経験もしたから、池田さんの話がスッと入ってくるんですよ。なんだろう……グチャグチャに絡まっていた紐を1本ずつ、解きほどいてくれるような感覚があって。
―― 身体のこと以上に、まず気持ちの面だったんですね。
青山 そうですね。自分がどう苦しんできたか、わかってくれる人がいるんだと思って、それがうれしかった。
―― 池田コーチ自身も若くしてひざのケガで現役を引退したあと、ブラジル代表に帯同したり、ACミランで学んだり、マリノス時代にはリーグ2連覇に貢献し、韓国代表ではロンドン五輪で銅メダルを獲得したり、豊富な経験を積まれていますからね。
青山 僕、池田さんの経歴とか、全然知らなかったんです。でも、いろいろな話を聞いて、僕の言うこともわかってくれて、池田さんほどの経験をされている方だったら、自分の身体もどうにかなるかもしれないって。この2年、ずっと長いトンネルに入っていたんですけど、希望の光が見つかった気がして。
―― 体型を見ても、シャープになったように感じます。身体へのアプローチというのは、どういう風に二人三脚で取り組んで、どう好転していったんですか?
青山 最初は何も言われなかったんですけど、タイキャンプの終盤にかけて、筋肉系のトラブルが出てきたんです。そうしたら、池田さんが「アオにはこのメニューはちょっとキツすぎたかもしれないね。ゴメンな。でも、今やっていることは絶対アオに必要なことなんだ」って。池田さんは日本で誰もやってないようなメニューをやるんですけど、何のためにやるのか、そこを理解させてくれるんです。
―― やみくもではなく、こういう目的で、今、ここを鍛えているんだよ、と。
青山 はい。それに、一気に変えるんじゃなくて、少しずつ身体のなかから変化させていくというか。宮崎キャンプではすごく走った。これまでは身体が動かないから走れない、という感じだったんですけど、タイムを低く設定して、無理してでも走ってみたら、これ、自分には必要だなって感じられた。
練習後に、水本(裕貴)が池田さんのもとでラダーを使ったステップに取り組んでいたんです。「自分もやらせてください」と言ってやったら、池田さんが「アオ、ちょっと違うな」って。小・中学生がやるような基本的な足の運びだったんですけど、「もっと歩幅を狭くして動いてほしいんだよ」とか。それで、言われたとおりに修正したら、自分の身体が喜んでいるような感じがして。
―― 正しい形、正しいバランスに修正されることで、身体が喜ぶというか。
青山 最初、ラダーをやることで何か変わればって、藁(わら)にもすがる想いだったんですけど、池田さんが「すごくよくなった」と言ってくれて。最終的に「アオは足首が硬いな。これを柔らかくしたら絶対に良くなる。毎日エクササイズするようにトレーナーに言っておくから」って。
そこからよくなっていって、(第3節の)鹿島(アントラーズ)戦だったかな。ハーフタイムに池田さんから「アオ、すごくいいぞ、チームのなかでお前が一番いい」と言われたんですけど、そのとき初めて自分でも、変われている、と思ったんです。こんなに動けるようになったんだっていう実感があったんです。本当に、うれしかったですね。
(後編に続く)