ほんの1年半前まで、ゴールやアシストこそがサッカーの醍醐味だと思っていた。 ゴール前でアイデアを膨らませ、決定的な仕事をするのが何よりも楽しかった。 だから、パスコースの消し方やちょっとしたポジションの取り方に、自分がこんなにも面白い…
ほんの1年半前まで、ゴールやアシストこそがサッカーの醍醐味だと思っていた。
ゴール前でアイデアを膨らませ、決定的な仕事をするのが何よりも楽しかった。
だから、パスコースの消し方やちょっとしたポジションの取り方に、自分がこんなにも面白いと感じるようになるなんて、夢にも思っていなかった。
森保ジャパンで攻守の要となっているボランチの松本泰志
「最近、ボランチが楽しくて仕方ないんですよ。攻守においてたくさんボールに触れるし、ピッチ全体を見渡せるじゃないですか。数的優位をどうやって作ろうかな、とか考えるのはすごく面白いですね」
じゃあ、これからはボランチひと筋で生きていく――?
そう訊ねると、松本泰志(サンフレッチェ広島)は人懐っこい笑顔をのぞかせながら、答えた。
「そうですね。もうここしかないなって――」
インドネシアで開催されているアジア大会。2勝1敗の成績でグループステージを突破したU-21日本代表において、ここまで出場時間がもっとも長いのが、225分に出場した松本だ。ネパール戦(1-0)とパキスタン戦(4-0)には先発フル出場を果たし、ベトナム戦(0-1)では後半からピッチに立った。どの試合もボランチとして。
なかでも好パフォーマンスを見せたのが、ベトナム戦である。
序盤にミスで失った1点が重くのしかかり、最後までゴールをこじ開けられなかったが、試合の流れを大きく引き寄せたのは、後半から投入されたふたり――推進力をもたらした岩崎悠人(京都サンガ)と、リズミカルにボールを動かした松本だったのは間違いない。
もっとも、1、2戦目では思い描いたプレーができたわけではない。ネパールも、パキスタンも、自陣に引きこもり、スペースを消してきたうえに密着マークを敢行してきたからだ。
「あれだけ引かれてしまうと、難しかったですね。散らしながら揺さぶっていたんですけど、ボランチのところに相手がけっこう出てきていたし、シャドーのところにもみっちりついていたので、厳しかったです」
ボールを横に展開しながら、前線の選手のマークが外れる瞬間を探りながら横パスを繰り返す一方で、「なぜ、早く縦に入れてくれないんだ」という攻撃陣の焦れる気持ちも手に取るようにわかった。
昌平高時代は自身も2列目に入り、ボランチの縦パスを受ける立場にいたからだ。
「だから、2列目の気持ちはほんと、よくわかるし、彼らのストレスもよくわかる。そこは考えながらやっていますね」
プロ入り後にボランチにコンバートされ、あらためて実感することがあるという。
高校時代のチームメイトである針谷岳晃(ジュビロ磐田)がいかにすごかったか――である。
磐田に練習参加した際、名波浩監督が「昔の自分を見ているよう」と絶賛した小柄なプレーメーカーがゲームを組み立ててくれていたから、高校時代の松本はゴール前の仕事に専念できたのだ。
「高校時代はタケ(針谷)が全部やってくれていたので、楽でしたね。僕は前で受けて、どんどん仕掛けていくだけ。タケの高校時代のプレーとかは今、参考にしてますね。タケから学ぶことは多いし、あらためて、すごかったなって」
その盟友とは違うユニフォームをまとうことになったが、ボランチでプレーするようになった松本とって幸運だったのは、森﨑和幸、青山敏弘、柴﨑晃誠、稲垣祥、吉野恭平……と、身近に最高のお手本がいたことだ。
なかでも、ゲームコントロールに関して、森﨑から学ぶことが多いという。
「カズさんは、勝っているときと負けているときとのコントロールの仕方が全然違うんですよ。勝っているときは、無理に縦にいこうとせず、受けて、さばいてを繰り返して時間を作って、隙があったらいく感じ。でも、負けているときはどんどん運んで、縦パスをつけていく。そのコントロールの仕方がすごいなって」
そうした森﨑の職人技に、最初は気づかなかったという。しかし、松本にとってデビュー戦となった17年5月のルヴァンカップのセレッソ大阪戦で森﨑とコンビを組んでプレーしたとき、衝撃を受けるのだ。
「あのすごさは、一緒にやらないとわからない。地味な作業なんですけど、すごいなって感じます。僕もカズさんみたいにゲームをコントロールできる選手になりたい」
まさにベトナム戦の後半に松本がトライしたのも、ゲームコントロールだった。
「前半ベンチから見ていて、ゲームをコントロールできていないな、と思ったので、僕が入ったら、たくさん受けてリズムを作ろうって。あと、ベトナムの真ん中の守備がルーズだと感じたので、縦パスを入れられそうだなって。実際、リズムよく縦パスを入れていけたんで、よかったです」
もっとも、松本が森﨑の域に達するには、試合経験が圧倒的に足りない。それを積むには、不動のコンビである青山と稲垣の牙城を崩すしかないことは、ほかでもない松本自身がよくわかっている。
「最近は勝っている試合が多いんですけど、観察していると、守備のコースの消し方とか、守備のときの球際とか、そういうのができないとJ1では通用しないし、試合には出られないなって感じています。だから、それを学んでいるところです」
思い描くボランチ像のスケールは、果てしなく大きい。
「見ていて面白いのは、セルヒオ・ブスケッツ(バルセロナ/スペイン代表)。あと、(ケビン・)デ・ブライネ(マンチェスター・シティ/ベルギー代表)も好きですね」
中盤の底で攻守に舵を取るブスケッツと、ドリブルで持ち運んでゴールまで決めるデ・ブライネ。そのふたりを足して2で割ったような選手になれたなら――。
「それが理想です。そうなれるといいなって思います」
8月22日が誕生日だった松本にとって、決勝トーナメント1回のマレーシア戦は二十歳になって最初に迎える公式戦となる。
「自分がゲームをしっかりコントロールして、できたら点も獲りたいですね」
二十歳のボランチが冷静なゲームメイクと大胆な攻撃参加を披露したとき、ベスト8進出だけでなく、その先のメダル獲得まで見えてくる。