野球をきっかけに国民みんなを健康に、そして元気にするというビジョンを立て、パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)はパ・リーグウォークを開始した。新たな取り組みはスポーツ界だけでなく、産官学の連携が取れた新たな試みである。パ・リー…
野球をきっかけに国民みんなを健康に、そして元気にするというビジョンを立て、パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)はパ・リーグウォークを開始した。新たな取り組みはスポーツ界だけでなく、産官学の連携が取れた新たな試みである。パ・リーグウォークが生まれたきっかけを中心にPLM執行役員を務める根岸友喜氏に話を伺った。
「パ・リーグウォークが生まれたきっかけ」
きっかけはボストン・レッドソックス球団のアジア戦略担当吉村幹生氏のひょんな提案から始まった。ハーバード大学の公衆衛生学大学院で研究員である林英恵氏と鎌田真光氏を紹介したいという話からだった。ボストンでの1時間半程度の初顔合わせで、即座に意気投合した。短い時間ではあったが、お互い目指している道が一緒であると分かった。
以前からパシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)は、健康をはじめ、教育や環境など社会が抱える問題へ貢献できる取り組みを模索していた。観客動員数を増やすような素晴らしいエリアマーケティングは、すでに各球団が着手している。PLMとしては球団単位では出来ないことを担うのが果たすべき役割だからである。
外部環境の変化に敏感となり、ITを中心とする時代の流れや社会環境の問題を捉え、連動して課題解決をしていくことがPLMの担う宿命である。野球ファンだけでなく、ファンでない人々も社会的な流れから野球に興味を持ってもらうことが、PLMの「新しいファンを増やす」というミッションとも一致する。
プロ野球の力で社会に起こっている問題を解決する一つの形として、公衆衛生学(パブリック・ヘルス)を研究するハーバード公衆衛生学大学院の研究員の二人と思惑が一致した。
「プロ野球観戦を公衆衛生学的に考える」
人々は誰もが健康でありたいと考えているはずだ。病気になってしまった後も薬を飲んだり、治療を受けたりする手段もあるが、病気をする前に予防を考える者もいる。予防をするためにはさまざまな要因を考える必要がある。タバコを吸うか吸わないか、食生活、友達を含めた周囲の環境、そして運動をすることだ。
運動は病気を予防するためには大切であるという考えを持っている人が多いにも関わらず、三日坊主で終わってしまう人が多い。それは個人の意志の弱さを指摘する者も多いが、公衆衛生学の考え方としては、個人を三日坊主にさせてしまう社会が悪いという考えが存在する。
周りに運動を促すスポーツジムが多く存在したり、安くランニングシューズが購入できるであったり、周りがみんなランニングをしているなど社会全体で健康になっていこうと考えていくのが公衆衛生学の考え方である。
この社会問題を解決するためには、プロ野球観戦が一躍を担える可能性を持っている。球場へ足を運ぶためには歩くこと、運動することが不可欠であるという考え方が公衆衛生学の考え方と上手くマッチした。新しく何かを始めることに抵抗がある人は多いが、すでに行っているプロ野球観戦という行為自体が運動であるという考え方は効果的となる。
プロ野球における価値提供は試合であることは間違いないが、試合を見に行くためには家から駅までそして球場まで歩くというエクササイズを必要とする面もある。”歩くことが健康に繋がる”このプロ野球観戦に行くためには当たり前のことが、新たな価値を来場客に提供することが出来る。
運動しよう、歩こう、健康になろうというメッセージはそのまま伝えるとなかなか響かないものだ。何故なら多くの人は自分自身が健康体であることを疑わないからだ。
だがプロ野球球団の強みとしては、各チームがファンからロイヤリティー(忠誠心)を得ているということ。チーム、選手、住んでいる街に対してそれぞれのファンが思い入れを持っている。応援するチームや選手に自分たちが歩くことで貢献出来るのであれば、自然と足が動くだろう。
試合観戦に行くことで根岸氏は、成人男性の平均歩数7,000歩が、例えば1万4000歩と歩数が2倍近くになったりすると話す。理由は、自宅から最寄駅までの間や乗り換え時、球場到着後に席を探したり飲食物を買いに行ったりすることで、日常生活よりも歩数が増えるからだ。健康を意識的に考えた取り組みではなく、自分が歩くことでチームを応援しようという考えだ。その結果、みんながより健康的になれば良いという趣旨がある。
一方ハーバード大学院で研究員を務める二人も歩くことが長続きしない国民に対して、スポーツとタイアップ出来る機会をうかがっていた。スポーツを通じて、社会を巻き込む取り組みを模索していた。そうすることで公衆衛生学を日本でもより広めていきたいという思いも持ち合わせていた。なかなか日々の生活や個々の習慣を変えることは難しいが、スポーツを中心に取り組んでいくことでそれを可能の出来るのではないかという思惑がPLMのものと一致した。
文:新川 諒