検証・女子ゴルフ「黄金世代」(前編) 現在、先日のCAT Ladiesで優勝した大里桃子をはじめ、小祝さくら、勝みなみ、新垣比菜らが日本女子ツアーの賞金ランキング上位に食い込んで活躍。他にも原英莉花や三浦桃香などが奮闘し、さらには畑岡奈…
検証・女子ゴルフ「黄金世代」(前編)
現在、先日のCAT Ladiesで優勝した大里桃子をはじめ、小祝さくら、勝みなみ、新垣比菜らが日本女子ツアーの賞金ランキング上位に食い込んで活躍。他にも原英莉花や三浦桃香などが奮闘し、さらには畑岡奈紗が米女子ツアーで初優勝を遂げるなど、1998年生まれ(&1999年の早生まれ)の、いわゆる『黄金世代』が女子ゴルフ界を席巻中だ。新世代の彼女たちの強さの秘密はどこにあるのか? ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳(しょうほう)氏に話を聞いた――。
シーズン序盤で脚光を浴びた三浦桃香
『黄金世代』の強さについてお話しするにあたって、まずは男女の発育の違いについて触れておきたいと思います。
一般的に女子のほうが男子より発育が早いのはご存知のとおり。日本ゴルフ協会(JGA)は毎年、17歳以下の選手でJGAナショナルチームを結成、トレーニングを行なっていますが、男子と女子で同じ体力トレーニングメニューを行なうと、男子のほうが先にへばったりすることも多くあります。
つまり、男子選手よりも女子選手のほうが、身体の完成が早い分だけ、技術の成長も早く、早い段階からプロツアーで活躍できる素地があるということが言えます。男子選手が頭角を表すのは、体力的にも、体格的にも、もう少し時間を要します。
次に、これは私見ですが、男子選手と女子選手では、メンタリティーにも大きな差があるように思えます。
男子選手は、石川遼が高校1年生でプロツアーを制しましたが、同世代の選手がそれに続くことはありませんでした。一方、女子選手は、高校3年生でミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンを勝った宮里藍の登場により、20歳前後の若い選手たちが躍動。以来、10代の選手でもプロトーナメントで結果を出すようになりました。
最近では、勝みなみが高校1年生でツアー最年少優勝を果たしたり、畑岡奈紗が高校3年生で国内メジャーの日本女子オープンを制したりして、その勢いは一段と増しています。同世代の選手の活躍を見ると、男子選手は同年代の活躍に憧れを抱きますが、女子選手は「私も勝てる!」と大きな自信を手に入れます。この違いが大きいように思えます。
高校生や10代でも優勝できるということを目の当たりにした『黄金世代』の選手は、「今度は自分の番だ」と、まるで暗示にも似たような揺るぎない自信を持ちます。現状、日本国内で圧倒的に強いのが韓国人選手です。その韓国人選手にも浮き沈みがあるため、若い選手も、「私にもチャンスがある」と思いながら日々プレーしているのです。
ここ5、6年の日本女子アマチュアゴルフ選手権において、よく目にする光景があります。数年前までマッチプレーで行なわれていたのですが、負けた10代の選手は皆、泣き崩れています。これは、彼女たちが自分は優勝するつもりで大会に参加しているということの証左です。男子選手の場合は、負けて悔しがっても、もう少し大人しいものです。
『黄金世代』の台頭には、「同世代に負けるつもりはない」という強いライバル心が、相乗効果をもたらしているようにも思えます。
2016年、2017年と日本女子オープンを連覇した畑岡奈紗は、2014年の日本ジュニアゴルフ選手権(15~17歳の部)で、最終日に勝みなみに6打差を逆転されて優勝を逃すという苦い経験をしています。そういった経験が、より「同じ世代の選手には絶対に負けたくない」という思いを強くし、その後の活躍につながっていると思います。
また、これも私見ですが、『黄金世代』はまさに「新人類」とでも呼ぶべき、怖いもの知らずに近いメンタルを持った選手が多いように思えます。
前述の畑岡奈紗が初優勝した2016年の日本女子オープンは、烏山城カントリークラブで開催されました。彼女は18番で下りのバーディーパットを沈めて優勝をもぎ取りますが、この一打は外れたら下の池までいってしまう危険性をはらんでいました。それでも、彼女は恐れなかった。
同世代の男子選手なら怯んでいたのではないでしょうか。もしくは、プロで何年もプレーする選手であれば、より臆病になってしまった状況だったと思います。
次に『黄金世代』の躍進を支えている要因のひとつとして、ギアの進化が挙げられると思います。
今や、ゴルフクラブはきちんと当てれば飛ぶ時代。あれこれ迷わずに振り切ることができれば、曲がらないようにできています。
この”迷わず振り切る”というのが、ゴルフを始めたばかりの若い選手の、技術的な成長を後押ししています。それに、今の選手はほとんど小学校、早ければ低学年ぐらいからゴルフを始めています。そうすると、自分の力ではクラブを制御できないため、腕力ではなく、ヘッドの重さと身体の回転で振るということが自然と身についていくのです。
さらに、『黄金世代』のスイングを見ていると、体幹を利用した、昔では考えられない体の使い方が自然とできています。女子選手もインナーマッスルをしっかりと鍛え、ひと昔前の女子特有の小さなスイングをする選手は、ほとんど見かけなくなりました。どの選手も男子のようなスイングをするのが当たり前の時代に突入したのです。
ギアの進化同様、ジュニア世代のゴルフを取り巻く環境自体が、ここ数年で急速に発展しています。『黄金世代』の躍進とゴルフ環境の向上は、”卵と鶏”のようなもので、「若い世代の台頭があったからこそ、環境が整った」とも「環境が整ったからこそ、若手が台頭した」とも、どちらとも言えるのではないでしょうか。
また、ゴルフは個人競技なので、これまでは孤独に練習を積み重ねるというのが一般的でした。それが現在では、小学校、中学校、高校、すべてのカテゴリーで全国大会が開催され、全国各地でさまざまなジュニアの大会が開催されています。つまり、年齢が早い段階から競うことが普通になり、「負けたくない」という気持ちが自然と芽生えやすい状況が生まれています。
アメリカでは、以前から「ピーウィートーナメント」と呼ばれる、6歳が6ホール、7歳が7ホール、10歳以上が18ホールで競う大会が、毎週末各地で行なわれています。5、6歳のときから、「これを入れたら勝てる」という経験を彼らはしているのです。
1992年、トム・カイトが全米オープンを制した際に、「6歳の頃に『このパットを入れたら、全米オープンを勝てる』と思いながら過ごしていたのが現実になった」というスピーチをしたのは有名です。
日本は、昔は若いうちからゴルフを始めたとしても、鳥かごネットでひたすらボールを打って、そのスイングを親が確認するのが一般的でした。ラウンドをしたとしても、誰かと競うということはしません。
しかし『黄金世代』の選手たちは、幼少期から勝敗を意識しながらプレーしています。それも、『黄金世代』の強さの理由のひとつでしょう。
子どもたちの競技人口が増え、その両親がゴルフ未経験であることも最近は多く、近年はティーチングプロが増えて、ティーチングプロが食える時代にもなってきました。おかげで、以前よりもティーチングプロが切磋琢磨するようになって、それが『黄金世代』の躍進にひと役買っているとも言えます。
同時に『黄金世代』の活躍は、ゴルフに関わる多くの人間にとっても、プラスの影響をもたらしているとも言えるでしょう。
『黄金世代』以降も、若い世代の躍進は続くと考えられます。日本女子アマにおける出場選手の低年齢化は急速に進んでおり、もはや「日本女子ジュニアアマチュア選手権」と言ってもいいほどです。2003年に宮里藍が優勝して以降、10代の選手が優勝し続けていることが、その裏付けと言えるでしょう。
宮里藍が高校生ながらツアー初優勝を果たしたのが、2003年。その活躍を見てゴルフを始めた1991年~1993年生まれの成田美寿々、比嘉真美子らは、まさしく「宮里藍・チルドレン」と呼べます。
それから約5年後、さらなるゴルフ環境やギアの進化・発展などによって、1998年生まれの『黄金世代』が登場。彼女たちの多くも、すでに海外で活躍していた宮里藍の影響を受けている。そういう意味では、『黄金世代』は「宮里藍・チルドレン第2世代」と言えるかもしれない。
(つづく)