アジア大会の男子サッカーは、グループリーグ第3戦が行なわれ、日本はベトナムに0-1で敗れた。 何とも、あっけない負け方だった。 立ち上がり、じっくりとボールを動かして攻撃を組み立てたい日本は、自陣でGKオビ・パウエルオビンナ(流通経済…

 アジア大会の男子サッカーは、グループリーグ第3戦が行なわれ、日本はベトナムに0-1で敗れた。

 何とも、あっけない負け方だった。

 立ち上がり、じっくりとボールを動かして攻撃を組み立てたい日本は、自陣でGKオビ・パウエルオビンナ(流通経済大)がMF神谷優太(愛媛FC)へパス。何でもないプレーだったが、神谷がトラップミスして、はじいたボールを相手に拾われ、楽々とゴールに流し込まれた。試合開始からわずか3分のことだ。

「失点の仕方が崩されてのものではなかったので、チーム的にもどよ~んとした雰囲気があった。あの時点で、もう少し自信を持ってできればよかった」

 DF初瀬亮(ガンバ大阪)はそう言って悔やんだが、日本の選手たちは失点をきっかけに明らかに浮足立ち、ベトナムが高い位置から仕掛けてくるプレスに対し、余裕を失った。恐る恐る”逃げのパス”をつなごうとするばかりでは、相手の思うつぼだった。DF杉岡大暉(湘南ベルマーレ)が振り返る。

「(先制して勢いづく)相手のエネルギーをかなり感じたし、1点取れば同点なのに、(点差以上に)”負けている感”が出てしまった」

 加えて、ボールを奪い合う局面、いわゆる球際の勝負で、日本はことごとく負け続けた。「(互いが同じフォーメーションのため、1対1の局面が多くなる)ミラーゲームなのに、強くボールへいけなかった。個のところで、はがされることが多かった」とは、杉岡だ。

 中盤でボールを失っては、相手にテンポよくパスをつながれ、次々にゴール前まで攻め込まれる。追加点こそ奪われなかったが、前半の日本はダウン寸前だった。

 後半に入ると、日本は3-4-2-1から4-2-3-1へとシフトチェンジ。相手のフォーメーションとのミスマッチを作り出したことで、前半に比べると、効果的な縦パスが入るようになった。サイド攻撃にも厚みが生まれ、コンビネーションで相手を崩しにかかる場面は増えた。

 また、球際での勝負でも、「前半は相手に上回られたが、後半は選手の勇気や、そこで絶対に勝つんだという気迫を出せた。ルーズボールに対する予測の一歩も、前半よりも後半はギアが上がった」(森保一監督)。

 だが、試合の流れが変わったとはいえ、日本に決定機は多くなく、その一方で、ベトナムは押されながらも、カウンターからいくつかのチャンスを作り出した。MF松本泰志(サンフレッチェ広島)が語る。

「相手もかなりカウンターを狙っていて、ちょっと(ボールを)回させられていた部分はあった。そういう面では、もう少しフィニッシュまで持っていきたかった」

 つまりは、攻勢に立った後半にしても、完全に主導権をつかみ切るところまではいかなかった。0-1の敗戦は、90分間の内容に照らして、妥当な結果だったと認めるしかない。

 やらずもがなの得点を相手に献上し、それに足を引っ張られる形で、思うように試合を進められなくなる。経験の少ない若いチームなのだから、仕方がない面はあるにしても、やはり歯がゆい試合だった。



ベトナム相手に成す術なく敗れた日本

 ロシアW杯でのA代表がそうだったように、日本が世界と戦ううえで、(程度はさておき)ボールポゼッションを高めることは非常に重要だ。簡単にボールを失うことなく、できるだけ自分たちがボールを保持した状態で試合を進めたい。

 しかしながら、年代別日本代表がしばしば見せる”この手の試合”を見ていると、ポゼッション重視の意識が裏目に出ているような気がしてならないのだ。

 ベトナム戦の前半はその典型だが、相手の圧力に対し、明らかに腰が引けているにもかかわらず、パスをつながなければいけないという意識だけは捨てられない。

 結果、相手を崩すことよりも、(おそらく無自覚に)安全にパスをつなぐことを優先する。そのため、確実にボールを受けられる位置にしかポジションを取れない。はたして、前記したような”逃げのパス”が増える。せっかく効果的な縦パスが入っても、パスを受けた選手は自分で仕掛けるどころか、前を向くことを考えもせずにバックパスしてしまう、といった具合だ。

 逃げのパスが怖いのは、自分たちはセーフティーな選択をしているつもりでも、相手にとってはプレスの狙いを絞りやすい状況を作るからだ。

 もちろん、「Jリーグでもこれくらい(のプレス)はみんなやっているので、外せないとダメ。勝ち上がっていけば、もっと強いプレッシャーをかけてくるチームがあると思うし、それをはがしていかないと上にはいけない」(初瀬)のは確かだ。相手のプレスを外してパスをつなぎ、自分たちが志向するスタイルで攻撃に転じられるならベストだろう。

 だが、ポゼッションは手段であって、目的ではない。どうも自分たちが思うようにパスをつなげていないというなら、たとえば、1トップのFW前田大然(松本山雅FC)のスピードを生かし、相手DFラインの背後にアーリークロスを放り込む時間帯があってもいい。

 守備にしても、相手ボールに寄せ切れていないというなら、リトリートして後ろで守りを固め、一度相手の勢いを削いでもいい。

 ところが、「自分たちのやり方はコレだから」というこだわりが悪い方向に働き、自ら傷口を広げてしまう。そんな展開が、年代別代表の試合を見ていると少なくない。

 もちろん、ベンチから適切な指示を送ることも必要だろう。だが、この試合がそうだったように、実際の試合のなかでは、いつ何が起こるかわからない。ピッチ上の選手が、もっと自分たちで何をすべきかを判断していかなければ、刻々と変化していく試合の状況に対処するのは難しい。

 森保監督も、「与えられるだけではなく、ピッチ内での修正能力とか、問題解決能力を養っていってもらえるように働きかけをしていかなければいけないと思う」と話しているとおりだ。

 Jリーグであろうと、大学サッカーであろうと、日本国内の試合であれば、似たタイプのチームが多く、ある意味で予定調和にゲームが進みやすい。しかし、国際試合となると、まったく異なる文化、習慣のなかで育まれたサッカーと対峙することになる。従来の常識からは起こりえない、不測の事態に遭遇する可能性は格段に高まる。

 だからこそ、ピッチ上で選手自らが判断できなければならないし、そのためにも国際経験が重要なのだが、彼らは年代別とはいえ、すでに21歳以下の代表である。Jリーグを経験している選手も多く、にもかかわらず、まだこの段階にあることが寂しくもあり、負けたことよりも、”あっけない負け方”が気にかかる。

 森保監督は「我々にとって幸いだったのは、決勝トーナメントに進出できることが決まっていたこと」だと語り、こう続ける。

「ここから先、ノックアウトステージでは(ベトナム戦のような試合は)あってはいけないことだと思う。今日のことを教訓にして、私も働きかけるが、選手にもいい判断をしてもらいたい」

 日本はベトナムとの全勝対決に敗れたことで、グループDを2位で通過することとなった。決勝トーナメント1回戦では、優勝候補の韓国からまさかの大金星を挙げ、グループEを首位突破のマレーシアとの対戦が決まっている。