「天変地異」。それが2018年シーズン前半戦のF1を象徴する言葉だった。 ドイツ(第11戦)やハンガリー(第12戦)では、フェラーリとセバスチャン・ベッテルが突然の豪雨に泣き、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンがまさかの逆転勝利を掴み…

「天変地異」。それが2018年シーズン前半戦のF1を象徴する言葉だった。

 ドイツ(第11戦)やハンガリー(第12戦)では、フェラーリとセバスチャン・ベッテルが突然の豪雨に泣き、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンがまさかの逆転勝利を掴み獲った。逆にオーストリア(第9戦)では、予想外の酷暑でブリスターが多発し、それをうまくマネージしきったマックス・フェルスタッペンがレッドブルの地元初優勝を挙げた。



フェラーリのパワーユニットがついにメルセデスAMGを追い越した

 天候だけではなく、セーフティカーやVSC(バーチャルセーフティカー)といった外的要因で、優勝の行方が180度変わってしまうことも何度もあった。VSCの間に逆転勝利を手にした開幕戦オーストラリアのベッテルに続き、中国(第3戦)とアゼルバイジャン(第4戦)では優勝が確実だったバルテリ・ボッタスが、セーフティカーの出動や路上のデブリ(パーツ破片)で勝利を奪われた。

 シーズン前半の12戦を終えて、結果はメルセデスAMG=5勝、フェラーリ=4勝、レッドブル=3勝という近年稀に見る接戦になった。しかし、その12戦で本当に速かったドライバーが実際に勝てたのは、わずか5回だった。

 第2戦・バーレーン(ベッテル)、第5戦・スペイン(ハミルトン)、第6戦・モナコ(ダニエル・リカルド)、第7戦・カナダ(ベッテル)、第8戦・フランス(ハミルトン)。それ以外の7戦は、勝てたはずのドライバーが「天変地異」によって勝てないという波乱のレースだった。

 波乱が起きやすかったのは、ほんのわずかな外的要因によって順位が入れ替わってしまうほど、3強チームの差が小さかったということでもある。

 3強のマシン車速データを分析すると、それぞれが異なる特性を持っていることがわかる。

 フェラーリSF71Hは、ストレートは速いが低速コーナーが遅い。そして高速コーナーでは、メルセデスAMGにやや劣る。

 レッドブルRB14はストレートが遅いが、250km/hあたりまでの中低速・中高速コーナーが圧倒的に速い。そして、ダウンフォースを削らなければならないがゆえに、高速コーナーは速くない。

 メルセデスAMG F1 W09はストレート、低速、高速コーナーがバランスよく速い。オーストリアGPで空力パッケージを大きくアップデートしてからは、さらにその完成度が高まった。

 それでも、マシン特性は違えども各マシンのトータル性能差が小さいため、サーキット特性によって毎戦のように最速が入れ替わる混戦状況を生んだ。また、マシン性能差が小さいからこそ、接触やクラッシュといったアクシデントも多くなった。

 そこに「天変地異」が加わったことで、今年のシーズン前半戦は波乱に満ちたエキサイティングなものになったというわけだ。その傾向は後半戦も続くだろう。

 パワーユニットでフェラーリがメルセデスAMGに追いつき、追い越したというのが、シーズン前半戦の大きな出来事のひとつだった。

 テストが厳しく制限され、実戦で使用するコンポーネントは封印がされて、分解検査や火入れができない現状では、アグレッシブな開発は容易ではない。だが、フェラーリは入念なベンチテストと今季1基目の使用後分解分析によって、ノッキングが多発するほど点火時期を早めて出力を上げる「予選スペシャルモード」を進化させてきた。

 また、ERS(エネルギー回生システム)面でも特殊な制御を行なっている。バッテリーをふたつに分けてMGU-H(※)からの充電とMGU-K(※)への放電を同時に行なうことができるという噂は眉唾(まゆつば)ものとしても、ライバルよりもディプロイメント(エネルギー回生)が切れる時間が短いことは確かだ。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。
※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。

 夏休み明けには、どのチームも今季3基目の新スペックを投入してくる見込みで、この進化度がふたたび勢力図をシャッフルすることになるかもしれない。現状のままなら、後半戦はフェラーリ優位のサーキットが多いが、メルセデスAMGがスペック3でフェラーリにふたたび追いつけば、メルセデスAMGの牙城は確固たるものになる。また、ルノーがスペックCで大きく飛躍して2強パワーユニットとの差を縮められれば、レッドブルは低速サーキットでなくとも優勝争いに絡んでくるかもしれない。

 いずれにしても、シーズン後半戦も接戦が続き、ちょっとしたことで波乱が起きやすいエキサイティングな戦いが続くだろう。そんななかで、チャンピオン争いが終盤戦までもつれ込むためには、安定した速さを見せるメルセデスAMGに対して、フェラーリが前半戦に何度か見せてしまった自滅や戦略ミスをいかに少なくすることができるかにかかっている。

 よくも悪くもそれがフェラーリの伝統のように語られるが、現行体制では初めてのタイトル争いに挑むフェラーリが、最後まで冷静に戦うことができるか。選手権を盛り上げるキーファクターは、「フェラーリがフェラーリらしくないフェラーリになること」ができるかどうかだ。

 一方、中団グループも大接戦のシーズン前半戦だった。

 0.7~1秒に7チーム14台がひしめくような状況で、こちらもサーキットごとに勢力図が入れ替わる。使用しているパワーユニットによる影響も小さくはなかったが、ワークスチームに比べればカスタマーチームは抑えた使い方を余儀なくされており、その影響はワークスほど色濃くはなかった。

 そんななかで、もっとも安定して中団トップの速さを発揮したのが、ハースだった。

 12戦のうち6戦で実質的な中団トップ。ロマン・グロージャンの自滅やオーストラリアのホイールナット装着ミスなどで失ったポイントが多く、実際の結果では中団トップは3回、ランキングでは5位にとどまった。

 しかし、マシンパッケージとして、中団でもっとも高い競争力を誇っているのはハースだ。いちばん苦手としていた低速のハンガリーでトロロッソ・ホンダに次ぐ速さを見せたことから、後半戦はランキング4、5位獲得に自信を深め、2019年に向けた開発にシフトすることになりそうだ。

 ハースが落としたポイントをもっとも多く拾ったのは、序盤戦はマクラーレンだったが、中盤戦以降はルノーだった。ルノーはワークスチームとして予算を拡大し、チームの人員もファクトリー設備も増強が進んでいる。その効果が着実に表れ、安定した速さを見せるようになってきている。

 ドイツGPに投入した独創的なフロントウイングは、その週末はうまく使いこなすことができなかったものの、4日後のハンガリーGPには改修を施し実用化してきた。この短期間できちんと修正するというのは、チームとしての対応力の高さがなければ容易にできることではない。

 トロロッソ・ホンダはバーレーンとハンガリーで計2回の中団トップの座を獲ったが、それ以外でアップダウンの幅が大き過ぎた。第9戦・オーストリアに投入したフロントウイングは結局最後まで使いこなすことができず、チームとしての対応力という点ではルノーに大きく後れを取っていることが如実になった。

 その一方で、中団トップが一度もなく、抜きん出た速さがあるわけではないザウバーにしても、マクラーレンにしても、彼らは持っているポテンシャルを最大限に引き出し、安定してポイントを獲得している。

 トロロッソ・ホンダが12戦で入賞5回なのに対し、マクラーレンは11回、ザウバーは8回。トロロッソ・ホンダは4位と6位で大量得点を稼いでなんとかランキング8位につけたが、安定感では遥かに劣っている。これはマシンそのもののポテンシャルの善し悪しというよりも、ポテンシャルを結果につなげるためのセットアップ能力、レース運営能力、ドライバーの腕といった総合力の差といえる。

 ホンダはパワーユニット4社のなかで唯一、スペック3の投入がシーズン終盤戦にずれ込むという。つまり、ライバルたちが進歩する分、後退を余儀なくされ、後半戦が始まってもしばらくは苦しい戦いを強いられることになりそうだ。まずは「使い方」の面で予選スペシャルモードの投入を急ぎたいところだが、なによりスペック3でライバルたちよりも大きな進歩幅を見せられるかが勝負だろう。

 フォースインディアは資金不足でマシン開発ができずに苦戦を強いられたが、空力性能があまり問われないアゼルバイジャンとモナコでは中団最速で、ランキング6位に踏みとどまった。チームの売却が成立し、財務状況が改善されるシーズン後半戦はさらにポテンシャルを増してきそうだ。

 ウイリアムズも前半戦は空力失敗で、マシン挙動の不安定さに苦しんだが、ようやくマシンを安定させるための空力パーツが出来上がった。これからは、その土台にさらなる空力性能を上乗せするアップデートを投入していくところだ。

 中団グループにおいても後半戦は混戦が続くだろうが、じわじわと「中団上位」と「中団下位」に分かれつつある。トロロッソ・ホンダが中団上位にとどまるためには、チーム全体としての底上げが必要だ。

 3強チームも中団グループも、それぞれ激しい戦いが続く。大混戦の2018年シーズンは、後半戦も我々にエキサイティングなレースを見せてくれそうだ。