おっとりとしたしゃべり口調はいつもと変わらない。言葉にとりたてて力強さが感じられたわけでもない。 しかし、秘めたる闘志と今大会に懸ける意気込みは、しっかりと伝わってきた。ネパール戦では3バックの中央でピッチに立った立田悠悟 インドネシ…

 おっとりとしたしゃべり口調はいつもと変わらない。言葉にとりたてて力強さが感じられたわけでもない。

 しかし、秘めたる闘志と今大会に懸ける意気込みは、しっかりと伝わってきた。



ネパール戦では3バックの中央でピッチに立った立田悠悟

 インドネシアで開催中のアジア大会。パキスタンとの第2戦の翌日、練習を終えたばかりの立田悠悟(清水エスパルス)はときおり汗を拭いながら、語った。

「Jの試合に出るうちに自信がついてきて、やれるな、っていうのを感じているなかで迎えたアジアの大会なので、選ばれたときからモチベーションはすごく高いですし、目の前の相手を倒してやるっていう意識でプレーしている。自分がやらなければならないっていうのは、強く思っています」

 もちろん、代表に選出されれば、誰もがモチベーションを高めて大会に臨むものだろう。しかし、立田にとって大きな意味を持つのは、今大会が”アジアの大会”ということだ。

「あれがあったからこそ、今、Jリーグで出られていると思うし、あそこでいろんなことを学んだ。いろんな経験をして、今ここにいる。前回逃しているぶん、今回は優勝するという強い気持ちがチームにあるので、本当に優勝したい」

 今年1月に中国で開催されたU-23アジア選手権。3戦全勝でグループステージを突破したU-21日本代表は、準々決勝でこの大会で優勝したU-23ウズベキスタン代表と対戦すると、次々とゴールを割られて0−4の完敗を喫し、優勝の夢を打ち砕かれた。

 この試合で、3バックの中央を務めていたのが、立田だった。

 試合後、立田はやや呆然とした様子で、自身が関与した2失点目――ゴール前で立田がボールを奪われ、ゴールを許したことを悔やむと、「もっとプレーの質を上げないといけない。今の自分のレベルではアジアの2、3歳上には通用しないと感じた」と、言葉を絞り出すように言った。

 このとき、立田にはJ1でプレーした経験がなかった。あったのは、ルヴァンカップで3試合に出場した経験だけ。国際大会で臆せず戦うために必要な確固たる自信が、まだなかった。7ヵ月前のミックスゾーンで、立田は自身に言い聞かせるように言った。

「ここに選ばれているメンバーで、試合に絡んでいないのは自分だけ。Jリーグを経験していないとわからないことがあることを、一緒にいた人たちから感じた。Jリーグで出られれば絶対に成長できると思うので、出ることを目標にやっていきたい」

 レギュラー奪取を強く誓ってクラブに戻った立田は、清水にケガ人が続出したこともあり、本職のセンターバックではなく右サイドバックとして開幕スタメンを掴み取る。するとその後、ケガ人が復帰してきてもポジションを守り抜くのだ。

 第21節を終えた時点でJ1での出場試合数は「0」から「17」へと大きく増加した。こうして立田は、国際舞台で強敵と渡り合うために必要な、経験に裏打ちされた自信を手に入れる。

 そして、今大会のメンバーに選ばれたことで、リベンジの機会を迎えたのだ。

 ネパールとの初戦では、3バックの中央としてプレーした。

 もっとも、日本が終始押し込む展開で、見せ場といえるのは、後半35分に強烈なミドルシュートを放った場面くらい。「後ろは焦れずにやることがテーマだった」と振り返ったように、相手FWとしびれるようなマッチアップを繰り広げる場面はなかった。

 メンバーを入れ替えたパキスタン戦はピッチに足を踏み入れる機会はなかったが、90分間ただ戦況を見つめていたわけではない。8月19日に行なわれるベトナムとの第3戦に向けて、イメージを膨らませている。

「後ろの3枚がもっと起点になってもいいんじゃないかって思います。2戦目では3枚の両脇の選手がしっかり結果を残している。それが3バックの強みだと思うので、そこを生かしていきたいのと、フィードや組み立てを自分がもっとやっていかないといけないと思います」

 もっとも、ベトナム戦で立田が任されるのは、3バックの中央と決まったわけではない。3月のパラグアイ遠征では3バックの右でも起用されているのだ。もしそうなれば、右サイドバックとして積んだ経験を活かせるはず、と立田は自信をのぞかせる。

「サイドバックをやって、持ち出しの部分やつなぎの部分で自信がついてきているので、自分が右に入っても、それと同じことができればいい。なおかつ3バックの脇の選手がもっと簡単にクロスを上げたり、くさびのパスを入れられたりすれば攻撃の幅が増えると思うので、どこをやっても同じプレーができるようにしたいと思っています」

 チームコンセプトのひとつに、最終ラインからのビルドアップがある。それゆえ、パスを無理につなごうとしてボールを簡単に失ってしまう――それが、このチームのもっとも多い失点パターンで、ウズベキスタン戦で犯した立田のミスは、その最たる例だ。

 ベトナム戦で気をつけるべき点がそこにあるのは、立田も十分理解している。

「つなぐサッカーですけど、自分たちは守備の選手なのでゴールを守らないといけないから、割り切りも必要になる。この半年、Jリーグでやってきて、状況判断は前回よりもよくなっていると思うので、はっきりと判断していきたい」

 日本と同じく、ここまで2連勝を飾っているベトナムは、今年1月のU-23アジア選手権で準優勝に輝いたチームでもある。日本の練習場にまで訪れるベトナムメディアの多さを見るかぎり、本気度はかなり高そうだ。

 U-21日本代表にとっても、立田にとっても、真価を問われる戦いになる。