8月7日から8月13日にかけて、三重県を舞台に全国高等学校総合体育大会(通称:インターハイ)の男子サッカー競技が開催された。優勝したのは山梨学院高校(山梨)で、これが初優勝。準優勝の桐光学園高校(神奈川2)も、夏の大会は初めての決勝進…

 8月7日から8月13日にかけて、三重県を舞台に全国高等学校総合体育大会(通称:インターハイ)の男子サッカー競技が開催された。優勝したのは山梨学院高校(山梨)で、これが初優勝。準優勝の桐光学園高校(神奈川2)も、夏の大会は初めての決勝進出だった。



インターハイ初優勝を飾った山梨学院イレブン

 そもそもベスト8が出そろった時点で「どこが優勝しても初優勝」という状態だったのだから、少々予想外の展開を見せた大会だったのは間違いない。その背景には、今大会から導入された「6分割の熱中症対策」があったのではないかと思う。

 サッカーは”番狂わせ”が多いスポーツで、事前の予想が難しい競技ではある。それが世界中の賭けの対象としても好まれてきた理由でもあるくらいだから、今回の大会についてもそうした特性を用いて説明できなくはない。ただ、「別の理由があるのではないか」というのが、大会の全日程を取材してきての個人的な見解だ。

 東福岡高校(福岡)、青森山田高校(青森)、市立船橋高校(千葉2)といった有名校の前評判は高かったし、実際に戦力的な部分で8強に残ったチームに見劣りするということはないだろう。昨年度の高校サッカー選手権を制した前橋育英高校(群馬)にしても、昨年度ほどの戦力はないとはいえ、十分に強健なチームだった。

 何より、理由は後述するが、近年の高校総体はそれほど番狂わせの起きない大会になってきていたので驚きはあった。8強に残った顔ぶれの中では、大津高校(熊本)と昌平高校(埼玉1)も事前に優勝候補と目されていたチームであり、勝ち残ったのはサプライズではない。ただ、その両チームも決勝には届かなかった。なぜか。

 もちろん、それぞれの高校で個別的な課題はあるし、負けた試合についてはそれぞれ別個の敗因がある。それは大前提だが、今大会の特徴を考えるとひとつの原因が思い当たる。

 今夏は異例の猛暑にさらされたため、選手の安全対策が大きな議論となった。この総体で導入されたのは「クーリングブレイク+飲水タイム」という方式による熱中症対策だった。

 国際試合で採用されることもある一般的なクーリングブレイクは、前後半の半ばに3分間の休憩を挟む。選手は日陰で水分を補給したり、水を浴びて体を冷やしたりすることができる。また、この時間は作戦タイムとして活用してもいいことになっているため、このブレイクが挟まれる試合は通常の前後半2分割方式ではなく、4分割の”クウォーター制”のような戦いに様変わりすることになる。

 今回はこのクーリングブレイクに加えて、飲水タイムも追加された。これはもともと日本独特のやり方で、タッチライン沿いに選手を集めて1分半の水分補給タイムを取る。通常は暑さ指数(WBGT)に応じてどちらかを採用するのだが、今回は両方を採用した。35分ハーフに設定されている試合のうち、まず15分ほどでクーリングブレイク。さらに30分経過で飲水タイムを取る形である。




飲水タイムで水分を補給する選手たち photo by Kawabata Akihiko

「30分に飲水タイムを取るなら、残りは5分しかないじゃないか」と思われるかもしれないが、この2つの休憩で約4分半のアディショナルタイムが自動的に発生するため、通常の試合進行で生じる3分程度のアディショナルタイムと合わせて、今大会は8分ほどのアディショナルタイムが一般的になった。「残り5分」だった試合が「残り約13分」になるため、前後半ともにだいたい3分割される。つまり、試合全体が6分割されるようになったということだ。

「鍛えているチームにとっては不利なルール」

 大津の平岡和徳総監督は「選手の安全が第一なのは当然で仕方ない」と強調した上で、こう述べた。なぜかといえば、「相手を疲れさせるのもサッカー」(同総監督)だからだ。

 ボールを支配し、暑さの中で相手を走らせて追い込んでいくと、メンタル的にも追い詰められてミスも出てくる。近年、高校総体で番狂わせのような優勝が出ていないのは、酷暑の中でボールを支配できるチームが優位性を確保できることが大きかったのだが、今大会の様相は違った。

「こっちが押し込んで『いけるな!』となったときにブレイクにされてしまう」と平岡総監督は苦笑いを浮かべた一方で、「クーリングブレイクに救われた」と振り返る監督も多かったのが印象的だ。

 体力面のリカバーや戦術的な修正ができるのはもちろんだが、何よりパニックに陥っていたメンタル面をリセットできることが大きい。選手個々の経験値に欠けるチームはなおさらだ。劣勢のチームからは「ブレイクまで頑張れ!」という分かりやすい指示が飛ぶこともしばしばで、試合中の心理的な意味でも押し込まれがちなチームに有利なルールだった面はある。

 走って戦うスタイルを徹底して貫いた”ストロングスタイル”の山梨学院が優勝したのは、こうした大会の傾向と無縁ではなかったように思う。ターニングポイントとなった市立船橋との2回戦も、ボール支配率では圧倒的に上回られながら最後まで粘り、前半に挙げた1点を守り切って勝利を収めている。

 これが例年のような飲水タイムのみのレギュレーションだったら、果たしてどうだったか。規定に合わせて戦えるチームがいいチームなのは間違いないが、今大会に関してはルールの妙があったのも事実だろう。

「冬の選手権も、有名校にとって厳しい大会になるのでは?」という声もあるが、以上のような理由で総体がこうした結果になったからといって、選手権も同じような展開になるとは言いがたい。

 冬の大会は涼しい中で走り切れるため、夏の大会よりもガッツ系のチームが勝ちやすい傾向がある。なので、今年度の高校サッカー選手権もいつもと変わらず予測不能な波乱の大会になるだろうし、夏に早期敗退した有名校の巻き返しも大いにありそうだ。