試合後の記者会見の檀上で、この日2得点のMF岩崎悠人(京都サンガ)は涼しい顔だった。「初戦にはなかった複数得点ができてよかった。初戦をベンチから見ていて、押し込んでプレーする時間が長かったが、もっと簡単に(相手DFラインの)背後を狙っ…
試合後の記者会見の檀上で、この日2得点のMF岩崎悠人(京都サンガ)は涼しい顔だった。
「初戦にはなかった複数得点ができてよかった。初戦をベンチから見ていて、押し込んでプレーする時間が長かったが、もっと簡単に(相手DFラインの)背後を狙っていいんじゃないかな、と。そこを意識してプレーした」
アジア大会の男子サッカーは、グループリーグ第2戦を迎え、日本はパキスタンを4-0で下した。初戦のネパール戦は、勝利こそ収めたものの、得点は試合開始早々の1点のみ。攻めあぐむ時間が長く続いた末の辛勝だっただけに、その反省が生かされた4ゴールと言っていいだろう。
パキスタン戦で2ゴールを挙げた岩崎悠人
冒頭の岩崎のコメントにもあるように、ネパール戦の日本は圧倒的にボールを保持し、相手を押し込むものの、そこからの打開策が見いだせなかった。だからこそ、この試合ではスピードがある前線の選手の動き出しに合わせ、シンプルに相手DFラインの背後を突くことで、得点を重ねた。
1点目は、3バックの右に入るDF岡崎慎(FC東京)から岩崎へ。2点目は、3バックの左に入るDF大南拓磨(ジュビロ磐田)からFW旗手怜央(はたて・れお/順天堂大)へ。いずれもDFラインの裏へ斜めに走り込む動きに合わせ、シンプルに送られたパスから生まれている。
岩崎とともに記者会見を終え、囲み取材に応じた森保一監督は、「相手のことを分析しても、我々の第1戦を振り返っても、もっと背後をつけたんじゃないかと、選手にはミーティングで伝えた」と言いながらも、苦笑交じりにこう続けた。
「でも、私が言わずとも、岩崎のコメントにもあったが、『背後をもっと狙えた』と(選手は気づいていた)。選手が(自分で)考えてくれていたので、チームとしても狙えたと思う」
日本はこの試合、前半のうちに4点を取ったものの、後半は攻撃がやや停滞。無得点に終わったことは物足りなくも映る。
だが、今大会は、中1~3日で最大7試合を戦わなくてはならないこと。また、パキスタンにかなりラフプレーが多かったうえ、レフリーもそれに対して適切なジャッジができておらず、ケガの危険があったこと(実際、GK小島亨介〈早稲田大〉が前に出てボールを処理したとき、相手選手のタックルを受け、負傷交代となっている)などを考えれば、やむを得ないペースダウンだろう。むしろ、当然のゲームマネジメントと言ってもいい。
ボランチのMF松本泰志(サンフレッチェ広島)は後半について、「前線の選手は(点を取りたくて)ストレスが溜まってくるので、もうちょっと前にいってもよかったかもしれない」と苦笑いしながらも、「4点取っていたので、バランスよく、リスクを背負わないようにやっていた」と振り返る。
欲を言いだせばきりがないが、まだ経験の浅い若い選手たちが、前の試合で生じた課題を踏まえて勝利したことは、ひとまず評価されていいだろう。森保監督が語る。
「時間とスペース、とくにスペースが消されているなかで、選手たちはどうやったら相手をこじ開けられるかを、1戦目も考えながらやってくれていたと思うし、2戦目はさらに得点の可能性が高いところを考えて、プレーを選択してくれていたことを頼もしく思う。
もちろん、チームとしてやるべきコンセプトは提示するが、サッカーはピッチのなかで選手たちが相手と駆け引きしながら進めるもの。そこは、選手にとって楽しみのひとつでもあると思うので、積極的に考えてやってほしいし、もっともっといいサッカーができるように、意思統一してやってほしいと思う」
この勝利で、日本はグループリーグ2連勝。グループDの2位以内が確定し、決勝トーナメント進出が決まった。
しかし、通過順位は最終戦の結果次第。ここを1位で通過するか、2位で通過するかには、あまりに大きな違いがある。1位通過の場合、決勝トーナメント1回戦はグループB、E、Fいずれかの3位通過チームとの対戦だが、2位通過の場合、グループEの1位通過チーム、すなわち優勝候補筆頭の韓国との対戦が濃厚だからだ。
もちろん、韓国との対戦は望むところ。だが、それはもっと後でいい。2年後の東京五輪を目指した強化途上のチームだけに、できるだけ勝ち上がり、多くの試合を経験することが重要だ。そのためにも、まずは確実に1位通過を果たしたい。
グループDの1位通過をかけ、日本とグループリーグ最終戦で対戦するのは、こちらも2連勝と好調のベトナムである。
今大会のベトナムは、今年1月のアジアU-23選手権で準優勝したU-23代表をベースに、オーバーエイジ3人を加え、高い本気度と自信を備えて臨んできている。チームを率いる韓国人指揮官、パク・ハンソ監督は「すべての試合が決勝のつもりで1戦1戦やってきたので、日本戦のことは考えていなかった。2日あるので、これから分析して準備したい」と語っていたが、その言葉を真に受けることはできない。
ベトナム・メディアの反応を見ても、ひと昔前なら考えられなかった「打倒・日本」を現実的な目標と捉えており、かつてないほどに鼻息は荒い。すでに両チームとの対戦を終えた、ネパールとパキスタンの監督や選手へも、盛んに「ベトナムと日本、どちらが1位になると思うか」と質問していたが、それなりの自信があるからこそ、だろう。
それもそのはず、2試合を終えた時点で、日本とベトナムは勝ち点6、得失点差プラス5、総得点5と、数字のうえでは完全に並んでいる。最後の直接対決が、まさに雌雄を決する場というわけだ。もし引き分けに終わった場合は、大会規定により試合後にPK戦が行なわれ、順位を決めることになっている。
とはいえ、贔屓目抜きで客観的に見て、ベトナムがそれほど怖い相手とは思えない。実際、ベトナム・メディアの質問に対してのネパールやパキスタンからの回答は、(白黒はっきりとは口にしないまでも)概ね日本有利をにおわせた。
不安があるとすれば、ベトナムがPK戦勝負に持ち込むため、徹底して守備を固めてきたときだろう。初戦のネパール戦同様、日本が攻めあぐんだまま試合が終わる。あるいは、焦れた日本がカウンターから失点する、などということがないとも限らない。
はたして、日本はグループ最大のライバルを退けて、1位通過できるだろうか。1試合ごとに成長を見せる若い選手たちが、パキスタン戦同様、臨機応変に相手の穴を突けるかどうかにかかっている。