新生・森保ジャパンにオススメの選手(1)MF田口泰士(ジュビロ磐田) 久しく日本代表の舵を取ってきたミッドフィルダー、長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)が代表引退を決意した。これによって、中盤のポジション争いは激化するだろう。 ロシアW…
新生・森保ジャパンにオススメの選手(1)
MF田口泰士(ジュビロ磐田)
久しく日本代表の舵を取ってきたミッドフィルダー、長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)が代表引退を決意した。これによって、中盤のポジション争いは激化するだろう。
ロシアW杯にも出場した柴崎岳(ヘタフェ/スペイン)が一歩リードしているものの、大島僚太(川崎フロンターレ)、三竿健斗(鹿島アントラーズ)らに期待する声も多く、いわゆる”本命”はいない。9月に新たに発足する森保ジャパンでは、彼らを含めて誰がチャンスをつかんでもおかしくはない状況だ。
ジュビロ磐田でチームの舵取りを任されている田口泰士が、代表メンバーに入ったとしても、何ら不思議はない。
「走れて、技術が高く、チームを動かせる。(当時)バルサのMFシャビ・エルナンデスのような存在だ」
名古屋グランパスで田口を抜擢したドラガン・ストイコビッチ監督は、かつてそう激賞している。
今季、ジュビロ磐田に移籍して存在感を示している田口泰士
足もとのボールタッチに長けたMFはJリーグに有り余るほどいるが、田口はそれだけでなく、ずっと先を見渡せる。選択肢が多く、判断力に優れ、数手先を呼んだパスを選択する目のよさと技術を持っている。高いプレー強度の中でも決してへこたれず、プレーの渦を創り出せる。
その点で、柴崎、大島というW杯組と比較しても遜色はない。事実、代表でポテンシャルが見込まれたこともあった。
「ポスト・遠藤保仁」――2014年夏、日本代表監督に就任したハビエル・アギーレに、田口はその候補のひとりとして指名されていた。
ただ、同年10月のブラジル戦で先発出場したものの、その後は度重なるケガで調子を崩し、苦しい時期を過ごした。当時所属していたグランパスの降格や、J2でのシーズン、さらには移籍などもあって、次第に代表リストからその名前は消えていった。
しかし、実力は申し分ない。今やジュビロでは、攻守において圧倒的な存在感を示している。
田口は、どこか捉えどころのない性格の選手ではある。本田圭佑(メルボルン・ビクトリー/オーストラリア)、長友佑都(ガラタサライ/トルコ)、岡崎慎司(レスター/イングランド)らのように、「反骨心むき出しで成功する」というタイプではない。
「自分はそもそも、『プロになってやる!』と深いことは考えず、(軽い気持ちで)『県外に行ってみるか』とふらふら出てきた感じですから」
5年前、初めてインタビューしたとき、田口は飄々(ひょうひょう)と答えている。
沖縄県出身。千葉県の流通経済大柏高でのプレーが注目を浴び、グランパスに入団した。3シーズンはトップチームでほとんどプレーできていない。「なんくるないさ(※沖縄の方言でどうにかなるの意)」という、どこか流れに身を任せるところがあった。
しかし話にのめり込むと、奥にある熱っぽさを露(あら)わにした。
「親には、『サッカーは好きで始めたんだから、やりたいようにやれ』と言われてきました。自分は、やっぱりサッカーが楽しいんでしょうね。
たとえば中盤の球際、(相手に)ガツガツ来られるのは嫌いじゃないんですよ。『絶対にボールを取られない』という感覚のときがたまにあるんですけど、そのときはずっと先の風景が見えて……。”世界の中心に立っている”と感じるんです。毎試合、そうなればいいんですけどね」
訥々(とつとつ)とした話し方だったが、胸の中にはとんでもないサッカーへの熱さを抱えていた。そのおかげだろう。プロでの出足は遅かったが、4年目にポジションをつかみ、5年目で中心選手になった。
「まー、見てるばやー!(どこ見てんだ!)」
ピッチ上で田口の声が響く。周りが見えていないプレーには口さがない。プレーに対しては、誰よりも正直に向き合う男である。
もともとセンスはあったが、守備も上達した。パスコースを切り、侵入を許さず、防御線を作り出せるようになった。仲間を使い、コンビネーションを使った形でボールを奪い返せるようになっている。
昨シーズンまで9年間在籍したグランパスを退団。今シーズンからは心機一転、多くのオファーの中からジュビロを選んだ。そして、すぐにチームの舵取りを任せられ、攻守でチームを動かしている。
「次のワールドカップ? 俺はそんな選手じゃないっすよ。サッカーを楽しめれば、それで十分です」
田口は相変わらず功名心を見せず、本心をはぐらかす。
「勝負は大事だけど、サッカーを楽しむことは忘れないようにしています。”チームのため”という気持ちはあるし、そういう心構えは当然、持っているつもりです。
でも、そればっかりだと自分が楽しめなくて、結果的にチームのためにもならない。自分が楽しめていれば、必ずチームのためにもなる。俺はそういうふうに考えています」
“なんくるないさ”の精神か。虚栄心を見せるのを著しく嫌う。
「自分は運だけっすよ。いろんな人との出会いに恵まれて、それに感謝です。自分のどこがいいとかは、あまりわからない。でも、サッカーを楽しんでやれているときは、不思議といいプレーができていますね。やっぱり、メンタルは大事っていうか。それは、アギーレの代表に呼ばれたときもそうだったんで」
田口は白く輝く歯を見せて言う。もしも今、プレーする喜びを味わえているとするなら――それは、彼が”世界の中心に立つ”兆しなのかもしれない。