痛み分け――。スコアレスドローに終わったJ1第22節の川崎フロンターレvs.サガン鳥栖の一戦は、そんな表現がふさわしいだろうか。ただ、試合内容に目を向ければ、一方的だった。終始、川崎が鳥栖を圧倒し、浴びせたシュートは25本。逆に被シュ…
痛み分け――。スコアレスドローに終わったJ1第22節の川崎フロンターレvs.サガン鳥栖の一戦は、そんな表現がふさわしいだろうか。ただ、試合内容に目を向ければ、一方的だった。終始、川崎が鳥栖を圧倒し、浴びせたシュートは25本。逆に被シュートをわずか2本に抑え、注目のフェルナンド・トーレスに対してもまったく仕事をさせなかった。
川崎Fはフェルナンド・トーレスにまったく仕事をさせなかった
センターバックとして守備を担う谷口彰悟が言う。
「とくにトーレス選手が(相手に)いるからといって対策はしていなかったんですけど、いつもやっていることの延長線上として、より厳しくいくというのは意識していましたね。トーレス選手が注目されていることはわかっていましたし、Jリーグ初得点を許したくはなかった。そういう意味では、おかげさまでというか、いつも以上に集中できたというのはありますね」
そのフェルナンド・トーレスをターゲットに、ロングボールを蹴り込もうとする鳥栖に対し、川崎はボールを握ることで相手の狙いを無効化した。ただ、それだけではない。前線からのプレッシャーや中盤でのボール奪取を含め、川崎の守備が機能していたからこそ、フェルナンド・トーレスに決定的な仕事をさせなかったし、鳥栖にシュートすら許さなかったのである。ふたたび谷口が言う。
「まずは(トーレスに対して)、ボールが入らないようにする、というのはチームとして意識していました。仮にボールが入ってしまっても、しっかりとケアして、必ず前の選手が戻ってきてサンドする。(やられなかったのは)そういうところを忠実にやった結果かなと思います」
前半25分には、鳥栖の原川力が出した浮き球のパスに、藤田優人が右サイドを抜け出した場面があった。その藤田がゴール前に折り返そうとしたボールの先にいたのはフェルナンド・トーレスで、通っていれば間違いなく決定機を迎えていたはずだ。
ただ、そこに戻って対応したのが、ボランチの大島僚太だった。ダブルボランチを担う大島と守田英正は、川崎の攻撃の生命線となる縦パスもさることながら、守備における危機察知能力も研ぎ澄まされていた。
まだまだ、ある。1トップを務める小林悠を筆頭に、前線から高い位置でボールを奪おうとする守備意識こそが、フェルナンド・トーレスへの供給を阻んでいたし、ひるがえって川崎Fの攻撃を具現化させていた。キャプテンが板についてきた小林の言葉を借りる。
「チーム全体としてしっかりとラインを上げられているということが、まずはひとつですよね。それができているから、僕らは相手陣内に押し込んでハーフコートでサッカーができているんです。だからボールを失っても、すぐにまた守備にいけますし、すぐにまたマイボールにすることもできている。攻守の切り替えも含めて、相手コートで潰す守備が浸透していきている証拠だと思います」
パスワークを活かしたサッカーを標榜しているため、攻撃ばかりが着目されがちな川崎だが、着実に守備もレベルアップしている。暫定ながら2位に浮上した川崎は、ここまで21試合を終えて16失点。これは首位を走るサンフレッチェ広島と並び、リーグ最少失点である。ふたたび最終ラインを統率する谷口のコメントを引用する。
「『守備は一番前から始まっている』というのはオニさん(鬼木達監督)も言っているところですし、みんながコースを限定してくれるから、僕らDF陣がボールをきっちり狙えたり、奪えているところもある。そういう意味では、みんな高い守備意識を持ってくれていますし、その分、攻撃も一番後ろから始まるという気持ちでプレーしています」
そのすべては攻撃のため、得点のためにある。「攻撃は最大の防御」と言わんばかりに、鳥栖戦でも攻めに攻めた。
前半15分に左サイドでテンポを作ると、一気にスピードアップ。大島の縦パスを中村憲剛がヒールでつなぐと、走り込んだ阿部浩之がシュートを放った。前半41分にも大島がゴール前に駆け上がると、守田からのパスをダイレクトで折り返し、ふたたび阿部がシュートした。
後半に入り、さらに攻撃の圧力を増した川崎は、後半15分に阿部のクロスから小林がヘディングシュートを狙った。その直後には、阿部のスルーパスからエウシーニョが決定機を迎え、後半42分にも大島の気の利いたラストパスから、途中出場した齋藤学が最大のチャンスを迎えた。
その多くを防いで、勝ち点1をもぎとった鳥栖のGK権田修一の活躍を褒めるべきでもある。だが、攻撃力に自信があり、そのサッカーに矜持があるからこそ、川崎の選手たちの矢印は自然とそこに向く。キャプテンであると同時に、エースでもある小林は言った。
「内容でも圧倒できていたし、いいサッカーもできていましたけど、やっぱり結果がほしかった。どんなシュートでも入れば1点ですし、結果がすべてです」
数え切れないほど作り出した決定機の演出に、一役買っていた家長昭博も思いは同じだ。
「毎試合、同じくらい崩せているし、だからこそ決めるところで決めなければいけない。シュートまでいけない試合や決定機がない試合というのは、どんな対戦相手であってもないので、決め切ること。そこにフォーカスしていかなければならないのは、チームとしてもわかっていますし、自分自身もそこに目を向けていかなければと思っています」
中村憲剛も続ける。
「僕らは(これを)やり続けるしかないですし、それを決めるしかない。(これだけ攻めて)決まらないのであれば、もっとチャンスを作らなければいけない。そういう結論にしかならないですよね」
圧倒的に攻めながら無得点に終わり、引き分けた結果に悔しさをにじませつつ、「切り替えるしかない」と、川崎の選手たちはスタジアムを後にした。彼らが目指しているのはリーグ連覇であり、追求する攻撃的なサッカーにも完成や、ましてや終わりはない。
フェルナンド・トーレスという世界屈指のストライカーが相手にいたからというわけではないが、強固になりつつある守備にも川崎の強さを見た。