最少得点による辛勝にも、まずは初戦を勝利したことに、監督も、選手も意外なほど前向きだった。 8月18日の開会式に先立ち、競技がスタートしたアジア大会の男子サッカー。日本はグループリーグ初戦で、ネパールを1-0で下した。「どの大会でも、…
最少得点による辛勝にも、まずは初戦を勝利したことに、監督も、選手も意外なほど前向きだった。
8月18日の開会式に先立ち、競技がスタートしたアジア大会の男子サッカー。日本はグループリーグ初戦で、ネパールを1-0で下した。
「どの大会でも、初戦は難しい戦いになる。選手がいい準備をしてくれたことが、勝利につながった」
チームを率いる森保一監督は、穏やかな表情でそう語り、選手たちを称えた。
アジア大会初戦、日本はネパール相手に1-0で勝利した
今大会に出場しているU-21代表は、2年後に控えた東京五輪を目指すチーム。アジア大会の男子サッカーは、23歳以下(1995年以降生まれ)の選手に出場資格があり、年齢制限を受けない選手(オーバーエイジ枠)を3人まで加えることができるが、日本は過去のアジア大会も含め、五輪へ向けた強化と位置づけて、U-21代表で出場するのが恒例となっている。
ただし、これまでと違うのは、2年後の五輪が東京で開かれるということ。今回のチームは、過去のU-21代表、すなわち五輪代表と比べても、ケタ違いの注目を集めていくことになるだろう。
加えて、今大会に出場しているU-21代表が、これまで以上に大きな関心を集めるのは、森保監督がA代表監督を兼任することになったからだ。
「正直、兼任になって”初戦”という意識はなかった。アジア大会に臨むU-21代表の監督として、この大会に最善の準備をして臨むということで、今回インドネシアにも来ている」
そう語る森保監督からは、特別な意識の変化は感じられない。指揮官は「ただ、兼任でA代表と東京五輪世代の監督をやっているので、まずこの大会を最高の大会にできるようにすることと、次につなげることを当然考えていかなければいけない」とも話しているが、それはA代表との兼任とは無関係に、五輪代表監督なら誰もが当たり前に考えることである。
「選手にも話しているとおり、まずは目の前のことをしっかりとやりつつ、前進していきたい」
それが、五輪代表監督としての本音だろう。
とはいえ、周囲の見る目は、これまでの五輪代表や五輪代表監督に対するものとは、間違いなく変わる。たとえ五輪代表の試合であろうと、その結果や内容が、A代表監督としての森保監督の評価にも直結しかねない。
それを考えれば、兼任後の初陣となる今回のアジア大会は、単に東京五輪への強化の一環というレベルを超え、新たに選ばれたA代表監督が信任を得られるかどうかの重要な大会になったとも言える。
さて、こうした前提を踏まえて、大会初戦のネパール戦を振り返ろう。
日本は立ち上がりから圧倒的にボールを支配し、攻撃し続ける展開のなか、開始7分にしてMF三苫薫(筑波大)のゴールで先制した。
日本の大量得点を予感させた試合は、しかし、その後はあっけなく停滞。実質6バック+3ボランチで守りを固めるネパールに対し、日本は有効な攻撃を繰り出せなかった。
「日本がどのようにプレーするのかは、よくわかっていた。対策はできていた」
かつてFC岐阜の監督を務め、現在はネパール代表を率いる行徳浩二監督がそう語ったように、ネパールが採った万全の対策の前に、日本の攻撃は封じ込められた。公式記録によれば、日本が放ったシュート数は22本。だが、決定的と呼べるチャンスは限られた。
日本のグループDは、ネパールの他に、ベトナムとパキスタンが入る。実力的に考えれば、事実上、日本とベトナムの一騎打ちと言っていい。
ベトナムと聞くと、一般的には日本よりかなり力が落ちるというイメージがあるかもしれないが、ベトナムはU-23代表+オーバーエイジ3人で臨んでおり、しかも日本が準々決勝敗退に終わった今年1月のアジアU―23選手権で準優勝している。今大会に出場しているチームに限っての比較で言えば、日本よりも”格上”と言ってもいいチームだ。
だとすれば、今後のグループリーグの展開を見通したとき、得失点差で優位に立っておくメリットは大きく、ネパール相手に勝ち点3の確保だけでは、やはり物足りなさが強く残る。森保監督は、「まったく試合の流れが悪ければ、違う手を打ったかもしれないが、チャンスは作れていて、そこで決め切れるかどうかだった。攻守の切り替えもスムースだったので、そのままいって追加点を取れればなと思っていた」と言うが、結果的にベンチも効果的な打開策を講じられなかった印象は拭えない。
それでも、2000年シドニー五輪で指揮を執ったフィリップ・トルシエ監督以来となるA代表との兼任で、一躍”時の人”となった指揮官は、「試合を決める追加点を取れなかったのは、次への課題」としつつ、まずは無失点での勝利を評価する。
「集中してよくやってくれた。追加点を取れなかったというところはあるが、相手にチャンスを与えなかったという部分では、選手に油断やスキがあったり、相手を見下すような感じで試合に入っていたりしたら、もっとピンチは増えていたと思う」
今大会に臨むにあたり、チームは直前のJリーグを終えてから集合したため、事前練習は実質ゼロ。十分な準備をせずに初戦を迎えたことを考えれば、最少得点であろうと、勝ち点3を確保したことを評価されるべきなのかもしれない。
「このチームは、どの遠征でも守備のミスから失点することがすごく多い。(奪ったボールを)つなぐことは大事だが、それが裏目に出ないようにしないと。まずは守備を、という意図を持ってやれた」
DF立田悠悟(清水エスパルス)はそう語り、「欲を言えば、もう1、2点ほしかったが、(失点を)ゼロで終えたことはよかった。今日はポジティブにとらえていい試合だと思う」と話す。
ひとまず勝利を収めた初戦を経て、若いチームにどう上積みをもたらしていくのか。この試合が本当にポジティブなものだったのかどうかは、今後の展開にかかっている。
森保監督の手腕に注目である。