「Realmente Emocionante」(本当にエモーショナルだった) ジェフユナイテッド千葉の指揮官であるフアン・エスナイデル監督は試合後の監督会見でご機嫌に語っている。 残り15分、0-3からPK3本で3-3に追いついたのだか…

「Realmente Emocionante」(本当にエモーショナルだった)

 ジェフユナイテッド千葉の指揮官であるフアン・エスナイデル監督は試合後の監督会見でご機嫌に語っている。

 残り15分、0-3からPK3本で3-3に追いついたのだから、その展開に興奮するのはわからないではない。



ジェフ千葉戦で2ゴールを決めた平戸太貴(町田ゼルビア)

 しかし、やり込められた町田ゼルビアのほうはたまったものではない。3点をリードしていた町田が3失点を喫して引き分けたのはなぜだろうか?

 その答えは、現状の一端を示していた。
 
 今シーズン、J2で首位争いをしている町田だが、現時点でJ1ライセンスを持っていない(ホームゲームを開催する町田市立陸上競技場は1万600人収容で、1万5000人以上収容するスタジアムなどの条件を満たしていない)。言い換えれば、たとえ優勝してもJ1へは昇格できない、という状況にある。

「2020年のJ1ライセンス取得を現場から後押しする」

 それがチームの基本方針となっている。つまり今シーズン、選手たちは”健闘精神”だけでピッチに立っているのだ。

 それを念頭に置くと、町田の戦いは賞賛に値する。第27節終了時点で2位。瞠目すべきはその順位だけではない。

「攻撃も守備も、形が見える。練度が高く、戦い方がデザインされている」

 その戦いは、対戦相手からも塩を送られるほどだ。

 前からプレスをはめ込み、出どころを塞ぐ。そこからのショートカウンターとセットプレーを武器に、戦局を有利に展開。MF森村昂太の左足はアクセントになっており、MF平戸太貴はエリア内での技術に恵まれている。サイドでタッチラインまで幅を取り、内側をコンビネーションで崩してチャンスメイクする形は、チームトレーニングの賜だろう。

 この日の千葉戦も、サイドで鮮やかに起点を作っていた。前半終了間際、2トップの一角の中島裕希が右サイドへ流れる。右サイドバックの大谷尚樹との連係でテンポを作り、その内側をゴールラインまで森本が走り込み、ヒールで落とす。走り込んだ大谷がそれを拾ってエリア内に侵入。つっかけたボールを、エリア内で受けた平戸が冷静にシュートを突き刺した。

 サイドを崩すコンビネーションは、J1でも通用するレベルにある。

 それにしても、レギュレーションは尊重されるべきだが、同じ国内の大会で、収容人数や練習場の問題によって選手が不利益を被るべきなのか?
 
 たとえば、世界最高峰リーガ・エスパニョーラでは、スタジアムや練習場についての条件はないに等しい。絶対的な実力主義。今シーズン、クラブ史上初の1部昇格を決めたウエスカのスタジアム収容人数は、わずか5000人である。

 天然芝のグラウンドもJリーグでは必須条件になるが、昨季まで乾貴士(ベティス)が所属していたエイバルには人工芝の練習場しかない。隣町にある天然芝のグラウンドまで、1時間近くかけてバス移動している。ちなみに本拠地のイプルアスタジアムは最近になって増築で7000席になったが、1部に昇格するまでは5000席だった。

 クラブの経営状況の確認は欠かせない。しかし、「箱」の大きさで条件を規定すべきなのか。それはJリーグ全体で再考する余地がある。
 
 町田がJ1にふさわしいクラブかどうかは、やはりピッチでのプレーによって問われる。

「3-0にするまでは、ひとつひとつのチャレンジ、球際の激しさで、相手を上回っていた」

 町田の相馬直樹監督がそう語ったように、完璧に近いマネジメントだった。しかし、8分間の3本のPKは、「運が悪かったから」でもない。

 後半に入って、町田は押し戻される時間が多くなっていた。千葉が左サイドに矢田旭を投入したことで、町田の右サイドは形勢が不利に転じ、ライン全体が下がってしまった。これでパスの出どころを塞げず、サイドへ活きたボールを蹴り込まれ、危険な状況は確実に増えていた。

 1失点目のPKは、その直前にクロスの処理をセンターバックがミスし、やらずもがなのCKを与えた後だった。”事故”が発生しやすい状況が、ずっと続いていたのだ。

 2点目のPKも、ボールの出どころを抑えられず、敵FWにラインを破られた形だった。さらに3点目のPKも、後手を踏み続け、慌てて外に釣り出されたセンターバックが腕を上げてハンドとなった。

 不運な部分はあったが、不当とはいえない判定で、流れから言えば必然だった。

「(3本のPK献上が)ホームゲームで起きたのは残念だが、我々の甘さ。そういう流れにしてしまった」

 相馬監督は自責の念に駆られるように語っている。

 悪化した状況を回避できなかった。それは優勝を狙うなら、物足りない部分だろう。昇格がない条件で戦っている選手たちにその甘さを突きつけるのは、少々、酷かもしれない。しかし、逆にそのことを指摘しないのも、健闘する選手に失礼だろう。

 戦況は矛盾を含む。その歪みが「エモーショナルなゲーム」を引き起こした、と言えないだろうか。

 2021年、町田市立陸上競技場は改築し、J1昇格条件を満たすための増席をする予定と言われている。