プロボクシング・スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す八重樫東選手(35)と、競輪界で「ボス」の愛称で親しまれる後閑信一氏(48)のスポーツ対談。前回の対談では「ネコ科の身体の使い方は最強」と意気投合。 ついに人類の域を超えるとこ…
プロボクシング・スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す八重樫東選手(35)と、競輪界で「ボス」の愛称で親しまれる後閑信一氏(48)のスポーツ対談。前回の対談では「ネコ科の身体の使い方は最強」と意気投合。
ついに人類の域を超えるところまで行ってしまった対談。最終回は、「先人から学ぶ事」や八重樫選手の次戦に向けての意気込み、後閑信一さんからのアドバイスなど白熱した。
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トップ選手がネコ科の動物の走りを見ていて気が付いた事 「やっぱ、チーターって身体の使い方、最強でしょ」(http://cocokara-next.com/athlete_celeb/akirayaegashi-shinichigokan-conversation-05/)
ベテランになってからの練習量
後閑:最近の練習量は減ってないですか。ぼくが引退したのは、練習で出し切れないと思うようになったのも一因でした。
八重樫:練習量はずっと落とさずにきています。トレーナーがすごく体のことを考えてくれる人で、僕のやりすぎちゃう性格を知っている。昔、先輩ボクサーがオーバーワークで、世界戦に影響したことがあった。僕が突っ走っていても、トレーナーが止めてくれるのでありがたいです。
後閑:競輪選手は1人なので、うらやましいです。後輩に感化されて「あと1本」の練習走をやって、感覚がずれちゃうことがある。若いときと同じように、つられてやっちゃう。40歳をすぎると、それで調子が狂うことも多かったですね。性格的に、やらないとサボっていると思っちゃうんですよね。
八重樫:分かります。昔から人が休んでいる時にやらないと、絶対強くなれないと思っていた。人がやっていたら、そいつよりもやらないと勝てないと。
後閑:木の年輪と一緒で、成長する時に必要な分だけやれるのが一番いい。そこを目指していたんですよ。でも自分がわかるようになったのは、40歳をすぎてから。助言、苦言を言ってくれる存在はありがたいです。いま競輪では師匠を持たないで、1人でやる選手も増えています。引きこもりでやる。体は格好良くなる。夏場の暑いときは室内にこもってクーラーの効いた部屋で練習して、人と触れあわない。ある程度強くなるけど、レプリカというか、個性がない。
八重樫:ネットで調べれば、ある程度の情報は集まりますからね。
「先人は偉大」 先輩と言う経験者から学ぶ、教わると言う事
後閑:肌を合わせて練習しないで、自分のいいところもわからず、中途半端な成績でやめていく選手もいます。先輩の経験って間違いないじゃないですか。自分より下のランクを走っている年上の人たちを、ただのおじさんだと思っている若手もいる。長年やってきて、ここにいるんだから、経験という宝を持っているんですよ。あいさつにいけば、嬉しいからいっぱい話してくれる(笑)。ひと声かければ、裏切らないんですよ。あいさつだったり礼儀だったり、最近の子は軽く思っちゃっている。1着をとれば、何をやってもいいんだろと。地元選手の足元をすくうような勝ちをしたって、おれだったら10倍でやり返す。下克上ばっかりやっても、次につながらないってことがわかってない。
八重樫:本当に、社会に出ても同じことが言えます。
後閑:先輩たちの理不尽さも昔はあったし、腹の中におさめていく。耐える時期があったから、キレずにもめないで済む。いまの若い子は耐え忍ぶ時期がない。レースでも頭にきたら、つかみかかって戦いにいっちゃう。結果、レースを批判されてしょんぼりしちゃったり、それをキッカケにいなくなったりする人も多い。不義理をしちゃいけないし、モノには順序、下積みがある。そういうことを言ってくれる先輩と話す機会をつくってほしい。ネットやSNSに科学的なトレーニングのことは載っていても、文字では言い表せない感覚的なこと、大事なことは書いてない。
八重樫:先人は偉大です。近くにいるなら、聞かない手はない。
後閑:例えば、レースの周回でも誘導員が人間なんで一定にひけない。ペースが速くなったり遅くなったりする。自転車にブレーキがないので、若い子は足で止めたり距離をつめたりする。レースの前に足を使っちゃっているんですよ。自分の場合、ペダルは一定に回しておいて、体を前かがみにして前輪に体重をかけてやると進む。馬と一緒で、頭を立てると止まる。これだけで緩急をつける。若い選手は足に自信があるから、4周する間に、何十回も足を使っちゃうんですよ。そこにも勝負がある。自分も若い時は分からなかったから、今の子たちを見てると、もったいないなあと思うんです。
決戦に向けて
八重樫選手は8月17日、東京・後楽園ホールで向井寛史選手(32歳)とノンタイトル戦を行います。世界へとつながる大事な一戦になります。
八重樫:試合は消耗戦になると思います。12ラウンドの試合では、中盤の7、8、9ラウンドあたりが疲労とダメージできつくなる。「疲れた」、「きつい」と頭の中で考えるようになると、動きも落ちてしまう。だから脳をうまくだまして、頭の中を空っぽにして、オートマ(無心)の状態を作れるように、毎ラウンドごとに切り替えていきたいですね。
後閑:八重樫さんは、気持ちをつないでいく選手なんですね。
八重樫:タイプ的に、相手が落ちた時に上げられないと勝てない。井上尚弥みたいに、いきなりドーンとKOするパンチはないし、実力もない。コツコツと長丁場ありきの試合。後半からいけるって自分自身で分かっている。ミニターボを搭載してるので。切れ味の悪いナイフで、相手が落ちてきたときに出し抜く。そういう試合展開が、自分のボクシングだと思う。
後閑:苦しくなってから上げられると言えるのが、すごい。
八重樫:今回の相手はぼくより10センチ身長が高いんです。
後閑:10センチ高いと全然違うんですか。
八重樫:こっちは見上げる感じですね。
後閑:じゃあ、さっきのチーターの動きが使えるじゃないですか。
八重樫:使えますね(笑)。ぼくが相手の懐に入って、死力を尽くしたグチャグチャな試合になると思う。負けたら終わり、という覚悟でいます。ファンのみなさんに、気合と根性を見せたいと思います。会場に来ていただけたら、すごく力をもらえますので、応援よろしくお願いします!
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
八重樫 東(やえがし・あきら)
1983年(昭58)2月25日、岩手県北上市生まれの35歳。拓殖大学在籍時に国体でライトフライ級優勝。卒業後、大橋ジムに入門。元WBA世界ミニマム級王者、元WBC世界フライ級王者、元IBF世界ライトフライ級王者と世界3階級制覇を成し遂げる。スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す。プロ通算32戦26勝(14KO)6敗。162センチ。右のボクサーファイター。
後閑 信一(ごかん・しんいち)
1970年(昭45)5月2日、群馬県前橋市生まれの48歳。前橋育英高校卒業後、65期生として日本競輪学校に入学。在校成績5位で卒業。90年4月に小倉でデビュー。96年G2共同通信社杯(名古屋)でビッグレース初V。GⅠ優勝は05年競輪祭(小倉)、06年寛仁親王牌(前橋)、13年オールスター(京王閣)。通算2158戦551勝。愛称は「ボス」。獲得賞金12億6420万4933円。176センチ、93キロ。