ボクシング元3階級王者・八重樫東選手(35歳)は8月17日、東京・後楽園ホールで向井寛史選手(32歳)と進退をかけてノンタイトル戦を行う。試合まで1カ月を切り、競輪でG1レース優勝3度の後閑信一氏(47歳)と試合直前のコンディショニングや…

 ボクシング元3階級王者・八重樫東選手(35歳)は8月17日、東京・後楽園ホールで向井寛史選手(32歳)と進退をかけてノンタイトル戦を行う。試合まで1カ月を切り、競輪でG1レース優勝3度の後閑信一氏(47歳)と試合直前のコンディショニングや独自の調整理論、ルーティーンについてたっぷり語った第二弾。

 

八重樫「人の目とか怖くて見られない…(苦笑)」

 

後閑:ボクシングの試合前の記者会見で、挑発ポーズをするのはどうしてですか。

八重樫:記者会見は計量の前にやるので、減量でピリピリしてるんです。とくに外国人は感情の赴くままに「なんだ、おまえ」となる。ぼくはやられる方の立場。人の目とか怖くて見られないような人間なんで苦手です(笑)。

後閑:あれは計量前のことだったんですね。試合のとき、感情的にさせるのはわかるんですけど、ああいうので負けたらかっこ悪いですよね。

八重樫:世界タイトルマッチを10回以上やらせてもらってきましたが、世界戦でやる人間は、一部のパフォーマンスを除いて、ほとんどやらないです。どうせ明日殴り合いするから、パワーをためておこう、という感じです。競輪選手のレース前日は集中しますよね。

後閑:最近よくあるプロテイン系は使わないんですか。

八重樫:やらないですね。エネルギージェルをたくさん入れても体の吸収が追いつかない。いろんなことを試しました。カロリーの高いものを摂取すれば良いかと思って、計量後に2000キロカロリーくらいあるカップやきそばをたくさん食べてみたり(笑)、ケーキをすごいたくさん買ってきてメチャクチャ食ってみたり。大失敗でしたけどね(笑)。

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競輪で時速70キロで転ぶと…

後閑:レースの前って恐怖感しかないんです。時速70キロで転んで、命に関わる事故が2、3回ありました。落車する瞬間って、全部がスローモーションに見えるんです。脳が危険を感じて身を守るためとか言われているんですけど、そういう落車の不安が消えない。

 もしかしたら家族のもとに帰れないかもしれない。試合前日は家族と外食をするのが恒例行事。みんなの顔を見て、お前たちのために頑張ってくる。何かあったら、あとは頼んだぞと女房に言って、それくらいの覚悟をしていった。戦争にいく感じですよね。それを2000レース以上やってきました。

試合前夜の睡眠対策の試行錯誤

八重樫:腹をくくって、2000回以上も戦場に行っていたってことですよね。すごすぎる。 何回やっても慣れないですか。

後閑:慣れないですね。前日の宿舎に入ると4人1部屋。同じ地域でだいたい集まるんですけど、寝息とかいびきとか気になったり。買い物袋をがさがさやるヤツとか、目覚まし音を鳴らしたり、そういう無神経なヤツもいる。強制的に寝ないといけないと思って、睡眠薬も使っていました。それぐらい自分のことを追い詰めちゃっていましたね。

八重樫:睡眠薬と耳栓は、海外では必要と言いますね。タイなんかは国をあげて勝ちにくる。夜中に部屋のピンポンをずっと鳴らすとか、当日になって試合会場を変えるとか、露骨に嫌がらせしてくるそうです。日本人はタイの世界戦で何十連敗もしているんですよ。

後閑:八重樫さんがタイで試合をやるときは、おれがドアの前にボディーガードで立ちますよ(笑)。

八重樫:後閑さんがドアの前に立っていたら絶対に怖い(笑)。若いときは、自分の心臓の音で寝られなかったです。試合のこととか考えたくないのに、考えちゃう。心臓がバクバクして、一睡もしないで試合に出たときもある。試合が終わったら寝られると開き直っていったこともありますね。最近は普通に寝ています。そこまで先のことを考えなくなったというか。今は減量が終わって、やることをやったら、4歳の娘と一緒に「おやすみー」と言って寝る。最近は、へっちゃらになりましたね。

ベテラン選手のゲン担ぎ

後閑:極めましたね。験かつぎとかはやっていたりますか。グローブをどっちからはめるとか。

八重樫:ほとんど気にしなくなりました。リングに上がって、コールの時に突っ立ってるだけなのがかっこ悪いと思って(笑)、腕をグルグル回すくらい。若いころは何を食べて、この時間にこれをやって、とかあったけど、同じことをしても良い時も悪い時もあるのがわかったんで。自分の体に聞いて、やりたい事をやるのが一番ですね。

後閑:自分は験かつぎがひどかった人間なんですよ。靴は左から、家を出たら優勝した時のルートを通ったり。競輪の場合、締め切り何分前ってアナウンスがある。出走がせまって、験かつぎでやることが追いつかない時期があって。結局自分に振り回されて、勝率が良かったかと言うとそうでもない。大事なレーサーシューズを忘れて、どうにもならなくて、借りて勝っちゃったりするんですよ。「何だったんだ、おれの験かつぎ」って(笑)。すがるのは自分自身で良い、そう思うようになりましたね。

八重樫:簡素的なもので良い。3年前に亡くなったばあちゃんと一緒に撮った写真を試合にもっていくくらい。「ばあちゃん、今日もよろしく」って。それくらいシンプルでいい。

後閑:自年齢を重ねた俺たちにしかわからないことですよね。レース前の若い選手を見ていると、すごく慌ただしい。レースは4日間あるんですけど、3日目くらいになると疲れてドンヨリしているんですよ。命がかかっている事もあって、お守りを忘れたら大騒ぎする選手もいる。

八重樫:よくわかります。ベテランはアップをしっかりやって、試合までゆっくり迎えられる。違いますよね。

後閑:年をとると、経験が増えて、余計なものが省かれます。経験のほうがルーティーンより、自分のなかでしっかりしたものになる。いまは大事なルーティーンが、自分の首を絞めていることにいつか気付くと思う。でも失敗して、無駄なことはない。経験が引き出しを増やして、自分を知ることにつながっていくんです。

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

八重樫 東(やえがし・あきら)

1983年(昭58)2月25日、岩手県北上市生まれの35歳。拓殖大学在籍時に国体でライトフライ級優勝。卒業後、大橋ジムに入門。元WBA世界ミニマム級王者、元WBC世界フライ級王者、元IBF世界ライトフライ級王者と世界3階級制覇を成し遂げる。スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す。プロ通算32戦26勝(14KO)6敗。162センチ。右のボクサーファイター。

後閑 信一(ごかん・しんいち)

1970年(昭45)5月2日、群馬県前橋市生まれの48歳。前橋育英高校卒業後、65期生として日本競輪学校に入学。在校成績5位で卒業。90年4月に小倉でデビュー。96年G2共同通信社杯(名古屋)でビッグレース初V。GⅠ優勝は05年競輪祭(小倉)、06年寛仁親王牌(前橋)、13年オールスター(京王閣)。通算2158戦551勝。愛称は「ボス」。獲得賞金12億6420万4933円。176センチ、93キロ。