「正直言って、このクルマの仕上がりにはショックを受けたよ」 第12戦・ハンガリーGPを6位でフィニッシュして、ピエール・ガスリーはそう言った。6位入賞で笑顔を見せるピエール・ガスリー ハンガロリンクにおけるトロロッソ・ホンダSTR13は…

「正直言って、このクルマの仕上がりにはショックを受けたよ」

 第12戦・ハンガリーGPを6位でフィニッシュして、ピエール・ガスリーはそう言った。



6位入賞で笑顔を見せるピエール・ガスリー

 ハンガロリンクにおけるトロロッソ・ホンダSTR13は、すこぶる快調だった。金曜からセットアップが決まり、そこからの微調整もすべて正しい方向へと進んだ。ウェットコンディションの予選では渾身のアタックで6位・8位を手にした。そして決勝では、ガスリーがハースのケビン・マグヌッセンとルノーのカルロス・サインツを寄せつけないどころか、さらに引き離す走りで中団のトップを走り、最後までその座を守り切った。

 70周のレースを終えて、3強チームと同一周回でフィニッシュしたのは、ガスリーだけだった。F1に来て初めて、前のクルマを周回遅れにする場面に直面し、自分のためにブルーフラッグが振られたことにも感動したという。

「今日は(3強チーム以外の)”Bクラス”で唯一、周回遅れにされなかったドライバーだったし、僕のために周回遅れに青旗が振られるのなんて初めての経験だった。他車を周回遅れにするのもね。あれはいい気分だったね(笑)! まさに自分がいいレースをしている証(あかし)だからね」

 では、ガスリーは何にショックを受けたのか――。

 それは、STR13のフィーリングと速さが予想を大きく上回るものだったことだ。

「ここ数戦の苦しい状況からすると、今回6位になれたのはものすごく衝撃的だったよ。先週だって、僕らは予選Q1敗退でウイリアムズより遅かったんだ。それなのに今週は、彼らを周回遅れにしてしまったほどだ。今回はマシンが予想を上回る仕上がりだったんだ」

 ハンガロリンクはパワー感度が低く、パワーユニットの出力差がラップタイムに表れにくい。そのため、トロロッソ・ホンダにとってはここ数戦よりも有利なサーキット特性であることは間違いなかった。

 とはいえ、低いと言っても全開率は55%は下らないし、出力がほぼ同等のルノー製パワーユニットを積む3チームとは同じ条件であることも変わらない。ルノー以外を積むハースやザウバー、フォースインディアとの差が縮まるという意味でしかなく、ルノーユーザーとの位置関係は変わらないのだ。

 そして、ここ数戦の不振はパワー不足もさることながら、マシン開発の停滞とセットアップの迷走によるものだ、というのがチームとしての結論だった。コーナーの入口で不安定、コーナーのなかでフロントが逃げていく、コーナーの出口でトラクションがない。それをなんとか補うためにウイングを削ることができず、ストレートも遅くなる……。そうして、何もいいところがないクルマ作りで妥協せざるを得なくなってしまっていた。

 それが解決していなければ、いくらパワー不足の不利が小さいハンガロリンクでも好位置に浮上することはできないと考えていた。

 だからこそ、トロロッソ・ホンダとしてもハンガリーGPに向けて楽観視していたわけではなく、金曜のフリー走行を終えた時点でさえ、Q3進出はそう簡単ではないという見方をしていたくらいだった。

「フェラーリ製パワーユニットがかなり強力になってきていることは事実だけど、ホンダも進歩しているよ。それよりも、今の僕らが後れを取っている大きな理由は、オーストリアGPに投入した空力パッケージがきちんと機能していないということだ。ハンガロリンクが僕らにとって合っているサーキットであることは間違いないけど、空力アップデートが期待どおりのパフォーマンスを発揮してくれなかったことで、僕らのポジション自体は5戦前に比べれば後退している。ここでどのあたりのポジションにいけるかを予想することはかなり難しいよ」(ブレンドン・ハートレイ)

 予選のウェットコンディションでは、ホンダのドライバビリティのよさが生きたとドライバーたちは語った。しかし、それはメルセデスAMGやフェラーリが当たり前のように実現しているレベルであり、特別大きな武器になったというわけではない。6位とはいえ、ポールポジションのルイス・ハミルトンとは1.933秒の差があり、ルノーのカルロス・サインツ(5位)にも0.848秒差をつけられていた。

 だから、ウェットコンディションの予選では走行タイミングのよさもあって2台揃ってQ3に進出し、6位・8位という好結果を手にしたとはいえ、ドライコンディションの決勝では後ろから追いかけてくるハース勢やルノーのもう1台を抑えることも簡単ではないだろう、という見方をしていた。

 それが、フタを開けてみれば予想を大きく上回るパフォーマンスを発揮し、ハースを引き離して危なげなく6位でフィニッシュした。そのことに、ガスリーはショックを受けたと言ったのだ。

「普段はとても難しいけど、今週末は(マシンとタイヤの)スイートスポットに合わせ込むことができたんだ。だからマシンバランスがよくて、タイヤを長く保たせることができた。僕自身もできるかぎりスムーズにステアリングを切って、スムーズにドライビングすることを心がけたけど。

(タイヤを長く保たせるには)マシンバランスもその要件のひとつで、マシンバランスがよくて、安定感があって、スナップオーバーステアが出ないようなマシンでなければならない。今日のマシンバランスはバーレーンのときを少し思い出させるようなところがあって、すごく気持ちよく走ることができたし、アタックしてもタイヤの前後ともそんなに失わない状態だった」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、マシンの仕上がりについてこう説明する。

「今週末は金曜からずっとマシンバランスがよくて、今日もグリッドにいくときからバランスがいい状態で、レース中もよかったですね。予測できないようなクルマの動きや、コーナリング中のマシンバランスの変化もなかったので、非常に安定した走りができていました」



トロロッソのマシンはハンガロリンクのコースにハマった

 フリー走行では直線主体のセクター1が遅く、コーナー主体のセクター2~3が速かった。しかし、決勝ではどのセクターもまんべんなく速かった。

 チーム内では、3つのセクターをもっと細かな比較で分析している。セクター1が遅いのはパワー不足によるものではなく、下りの低速ターン2からさらに下っていく高速ターン3の挙動が思わしくないためだとわかっていた。

「ターン1~2~3で、『おっとっと……』っていう感じになるんですよね(苦笑)。下り坂で入っていって切り返していくというあそこ(ターン2から3への切り返し)は、クルマがよくないと中に入っていけなくてうまく走れないんです。ターン3への立ち上がりが遅くなってしまって。昔のなんとかホンダっていうクルマもそうでしたね(苦笑)」(田辺テクニカルディレクター)

 実は、ステアリングを切り返しながらの立ち上がりでスタビリティ(安定性)が不足し、トラクションがかからないという状況は、STR13がシーズン序盤からずっと抱えてきた弱点のひとつだ。しかし今回は、金曜から日曜にかけてこうした弱点を潰し込めたことがハンガリーGP決勝での好走につながった。

 ごくごく表面的な部分だけを見れば、ハンガロリンクでの好走は非力さの証明とも捉えられかねない。マシンはいいが、普段は非力さのせいでそのよさが生かされないだけではないか、と――。

 しかし、それが間違いであることは、ルノー勢の苦戦を見ても明らかだ。レッドブルは2強チームに差をつけられ、ルノーは決勝で後退、マクラーレンはレース戦略を当てて入賞圏に駒を進めたものの、純粋なペースでは金曜から中団の下位に沈んでいた。

「(好調の理由として)パワー感度が低いというのも当然あるとは思いますが、相対的に言うと、クルマの仕上がりが非常によかったのだと思います。トラクションも今回はここ数戦に比べると、(ドライバーからは)非常によかったというコメントでしたしね」(田辺テクニカルディレクター)

 こうして何戦も苦しみ続けてきたマシンの仕上がりという点で光明が見えたトロロッソ・ホンダだが、エンジニアたちは問題点を本当に解決することができたのだろうか?

 そう尋ねると、ガスリーは慎重な見方を示した。

「スパ(第13戦)でどうなるか、見てみないとね。まだいくつかはっきりと理解できていないところがあるんだ。今週のように予想以上のパフォーマンスを発揮したり、予想を大きく下回ってしまったりというのが、それだ」

 バーレーンGPやハンガリーGPのように、予想を上回る速さはうれしいものではあるが、その理由がはっきりと究明できていないのであれば、喜んでばかりもいられない。「予想が外れた」という意味では、事象を自分たちでコントロールできていないのと同じだからだ。逆方向に予想が外れれば、ここ数戦のようにアンコントローラブルな不振が続いてしまう。

 それこそが、シーズン前半戦におけるトロロッソ・ホンダのアップダウンが大きかった理由だ。

 今回はたまたまいいほうに外れたからよかったが、悪いほうに外れたら……。そう考えれば、ガスリーが「ショックを受けた」と語る理由もわかるだろう。

 逆に言えば、STR13は予想を上回る速さを常に発揮する力も秘めている可能性がある。田辺テクニカルディレクターは言う。

「『いいクルマだったね。じゃあそれを毎戦、手に入れるためにはどうしたらいいの?』というのを、これから考えないといけません。バーレーンGPのときもレース週末を通してよかったし、今回もよかったのですが、次のスパやモンツァでも同じようにいくかというと、これからデータを紐解いて答えを見つけていかなければならない。そう簡単なことではないと思っています」

 トロロッソ・ホンダのシーズン前半戦はこうして終わった。後半戦にショックを受けるようなアップダウンを減らし、一歩前へと進むために、チームはこの夏休みの宿題に取り組まなければならない。