2018年の鈴鹿8耐は、ヤマハファクトリーレーシング(中須賀克行、アレックス・ロウズ、マイケル・ファン・デル・マーク)が優勝。前評判どおりの高い安定感を遺憾なく発揮し、チーム4年連続優勝の偉業を達成した。鈴鹿8耐を制したのは今年もヤマ…

 2018年の鈴鹿8耐は、ヤマハファクトリーレーシング(中須賀克行、アレックス・ロウズ、マイケル・ファン・デル・マーク)が優勝。前評判どおりの高い安定感を遺憾なく発揮し、チーム4年連続優勝の偉業を達成した。



鈴鹿8耐を制したのは今年もヤマハファクトリーレーシング

 7月最終週の日本列島は、週のはじめに記録的な猛暑が連日報道され、灼熱の週末になることも予測された。しかし、日を経るにつれて熱波が収まるのと呼応するように、週末には台風の直撃がほぼ確実な状況になった。

 これに伴い、安全上の見地から土曜のスケジュールが大幅に変更され、予選上位10組が個別にタイムアタックを行なう8耐名物のスーパーポール「トップテントライアル」も、通常の計時予選として行なわれることになった。

 この土曜までに強烈な存在感を発揮していたのが、カワサキ・チームグリーン(ジョナサン・レイ、レオン・ハスラム、渡辺一馬)だ。昨年2位を獲得したハスラムと渡辺のコンビに、今年はSBK(スーパーバイク世界選手権)王者で8耐優勝経験もあるレイを加えた強力なトリオで、事前の下馬評でもヤマハファクトリーとカワサキの一騎打ち、という見方が強かった。

 じっさいに、レイは金曜の計時予選で、過去のポールポジションタイムを大きく上回る2分5秒168という驚くべきタイムを記録。土曜午後のトップテンセッションでも、2分5秒403でポールポジションを獲得した。

 土曜の走行を終えた日没ごろから、次第に風雨は強さを増していった。台風は深夜に東海地方を通過したものの、日曜も不安定な天候は相変わらずの状態で、時折激しい驟雨が降り注いでは止む不安定な状況下でのスタートになった。

 フルウェットで始まったレースは、やはりヤマハとカワサキの一騎打ちで推移していった。やがて時間の経過とともに路面は乾いてフルドライへと移り変わっていくなかで、両陣営は互いに一歩も退かない熾烈なバトルを続けた。そこにまたもや強い雨が降り出したり、あるいは転倒車の処理でセーフティカーがコースに介入したりと、レースは荒れた展開になった。

 このような流れは十分に予測できたことでもあったので、土曜の午後、ロウズとファン・デル・マークに、ライバルのレイが発揮していたスピードへの印象や日曜のレースへの備えについて話を訊いてみた。

「僕たちが8耐で勝った過去2年はドライだったから、たしかに雨のレース経験はないけど、僕もマイケルもSBKではウェットコンディションで力強く走れている。それに僕はイギリス人だから、雨は慣れっこだよ」と、ロウズは冗談まじりで不安のなさを強調し、「ジョニー(・レイ)はSBKのチャンピオンだから、彼の速さは普段からよく知っている。でも、8耐の決勝を2分5秒台で走ったら、タイヤにも燃費にも大きく影響するだろうね」と話した。

 それを受けたファン・デル・マークも、「僕もオランダ人だから、雨は日常茶飯事だよ」と笑いながら、「雨になるとレースのマネージメントが難しくなるけど、条件は皆同じ。それに、2014年は決勝直前にすごい雨が降って、たしか8耐が6耐になったよね(決勝直前に豪雨になり、12時35分にスタートが順延されたことを指している。この年、ファン・デル・マークはホンダ陣営で参戦して優勝している)」と、不安定なコンディションでの走行を経験している自信ものぞかせた。

 ただし、彼らには別の不安要因があった。エースライダーの中須賀が土曜午前の走行で転倒した際に肩を痛め、日曜の決勝を走らないことがほぼ確実視されていたのだ。

 結局、中須賀が務める予定だったスタートライダーはファン・デル・マークが受け持つことになったが、中須賀を欠いた状態でもふたりは最後までまったく危なげなく走りきり、199周を終えてトップでチェッカーフラッグを受けた。

 ところで、鈴鹿8耐はMotoGPやSBKと同様に、世界中のファンから大きな注目を集めるレースイベントであるため、毎年、ワールドレベルの選手たちの参戦が話題になる。だが、特に近年ではMotoGPのトップライダーたちは、サマーホリデーの期間が事実上なくなることや負傷の危険性が増えるなどの理由から、8耐に参戦したがらない場合が多い。

 8耐で何度も表彰台に登壇し、今回はTeam KAGAYAMAの総監督として指揮を執ったケビン・シュワンツ氏に、このMotoGP選手たちの傾向について訊ねる機会があったので、氏のコメントを最後に紹介しておこう。

「甘えだと思うよ」と、シュワンツ氏はこの傾向を一刀両断した。

「彼らは世界選手権の頂点で緊密なチャンピオン争いをしているから来たくない、というのかもしれない。でも、私ならここに来てレースを走るね。バイクは厳密には違うし、タイヤも異なるだろうけど、8耐は間違いなく世界最高のバイクで走る機会なんだ。ここにきてプラクティスと予選とレースで1週間を過ごし、世界選手権の場に戻ると、実戦で鍛えた分だけ自分の実力は必ずアップしている。

 どんなにハイレベルの選手でも、必ずまだ向上の余地がある。全周回を完璧に走り切ることは絶対にできないし、タイヤが摩耗してきたときほどライダーの実力差が出る。その意味で、8耐は自分を磨く最高の機会なんだ。

 私は、体調が100パーセントではない状態で8耐に来たこともあった。8耐ウィークを休養に充てたり、トレーニングで過ごすこともできたけれども、私にとって最高のリハビリはレースバイクに乗ることだった。2ストロークと4ストロークの違いなんて関係ない。750ccのスーパーバイクから500ccのGPマシンに戻っても、何も問題はなかったよ。

 ヤマハでも、スズキでも、ホンダでも、ドゥカティでも、強いチームを作りたいのなら、ふたりのライダーを8耐で一緒に走らせるのが一番の方法だよ。このレースでは、シャンパンを浴びたかったら同じバイクで協力して走らないといけないんだ。それを経験すると、GPパドックでも選手の関係が近づいて、きっとさらにいい結果を生み出せるようになるよ」