一見するとクールに見える。だが中身は「男気あふれる熱い男」と、深い仲の多くの関係者が口にする。そんな中央学院・相馬幸樹監督が感情を露わにしたのは、西千葉大会準決勝の習志野戦だ。

 サヨナラ勝ちが決まると、相馬監督は拳を握りしめ両手でガッツポーズ。さらに応援席へ挨拶に向かうと、目からは涙がこぼれた。

 習志野の小林徹監督は自身の市船橋時代の恩師であり、夏に勝つのは初めてだった。それだけに「青春時代に自分を作ってくれた監督。尊敬している存在ですから、自然と涙が出ました」と目を真っ赤にした。



春夏連続甲子園出場を果たし、満面の笑みを見せる中央学院・相馬監督(写真中央)

 そして、この試合で中央学院の選手たちは相馬監督のもとで積み上げてきたものを遺憾なく発揮した。

「焦るな、気持ちだけでいくな」

 西千葉大会準決勝の習志野戦、7回表を終えて1対5のビハインド。しかも習志野はまだプロ注目右腕の古谷拓郎も控えている。そんな劣勢のなか、相馬監督は選手たちに声をかけた。選手たちも冷静だった。

 7回裏、無死から主将の池田翔(かける)がソロ本塁打を放ち1点を返すと、続く田中大輝は内野安打で出塁。さらに西村陸がカウント2ボール2ストライクからエンドランを敢行。打球は三遊間を抜け、レフトが深いのを事前に確認していた田中は一気に三塁を陥れた。これで一気に流れが傾いた。

 この場面を試合後、相馬監督に尋ねると「僕からのサインではなく選手たちの判断です。普段からやっていることをやってくれました」と話す。この後、四球や2本の犠飛で1点差に迫ると、平野翔の三塁打でついに同点に追いついた。

 8回途中から習志野は古谷をマウンドに送ったが、中央学院も2番手の西村陸が踏ん張って延長戦に持ち込み、最後は1年生・青木優吾が古谷からレフトスタンドに飛び込む本塁打を放ってサヨナラ勝ちを挙げたのだった。

 相馬監督は、試合後の取材で感情の高ぶりを抑えきれなかった理由を語った一方で、決勝戦への意気込みを問われると「普遍性をテーマにしてきているので、初戦と同じ気持ちで臨みたいです」と冷静に答えた。

 昨秋に関東大会初優勝を果たしセンバツに臨む際も、「舞台が上がれば上がるほど、変わらないようにしようって言ってきました。どこで野球をしてもダイヤモンドの大きさは変わらないですから」と語っていたように、それは甲子園であれ、甲子園をかけた一戦であっても変わらない。

 ただ、その普遍性を揺るがす事故が、5月下旬にあった。

 投打二刀流でプロのスカウトからも注目を集めていた大谷拓海(たくみ)が、練習試合で頭部に打球を受けて負傷。長期離脱を免れない状況になり、大谷中心の戦いからの方向転換を迫られた。練習試合でも苦しい試合が続いたが、そのなかで相馬監督の必要以上に管理はしない指導方針が生かされた。

 たとえば「こちらから精神的支柱は作らない」とかねてから口にしており、自然とそうした選手たちが出てくるようにじっと我慢する。練習中の指導は主に4人いるコーチおよび部長が行ない、相馬監督は大きな声を張り上げることはほとんどなく、統括する立場だ。

 こうして指導者や選手に責任を与え、自覚を促していく。

 大谷を欠いた練習試合は当初苦しい結果が続いたが、選手たちが自発的にミーティングを重ね課題克服に取り組み、コーチ陣も選手に寄り添いサポート。チーム内では「長く勝ち残り、大谷を復帰させよう」という機運が自然と生まれた。

 冷静でどっしりとしている一方で、面倒見のいい一面もある。

 今大会、大谷は野手として4回戦で復帰し、準々決勝の八千代戦で投手復帰を果たしたが、3回が終わったところで降板。準決勝も4回途中で降板し、さすがに本調子とは言えなかった。

 その両試合で好投し、決勝の東京学館浦安戦で2失点完投勝利を挙げたのが、3年生のサイドハンド右腕・西村だった。

「大谷だけではなく、西村もいるんだという存在感を示せました」とはにかんだ西村だったが、彼もまた5月はどん底にあった。

 調子が上がらず、そのストレスもあったのか生活面も乱れていたのを見かねていた相馬監督は練習から外し、西村を部室の掃除や防球ネットの修繕にあたらせた。

 その一方で、彼が中学時代に所属していた江戸川中央リトルシニアの池田颯平コーチには「彼にとって高校最後の試練だと思いますので、お力を貸してください」とケアを依頼するとともに、「必ず男に育てあげます」と誓うなど、細やかな気配りを見せた。

 そして、池田コーチを通して相馬監督の真意を感じ取った西村は、朝の自主練習で連日ネットに向かって投げ込みを黙々と行ない、コントロールや緩急を磨き上げて夏の活躍につなげた。

 この成長に相馬監督も「入り込むことも大事ですが、俯瞰(ふかん)して見ることも大事。そういう出し入れができるようになりました」と称えた。

 また大谷についても両親を交えて慎重に協議し、復帰の時期をギリギリまで遅らせた。そんなぶっつけ本番で大会に臨んだが、決勝戦では先制の適時打と勝ち越し本塁打を放つなど、突出した才能を大一番で発揮した。

 センバツ初戦の明徳義塾戦では9回二死まで1点をリードしながらも、サヨナラ逆転3ランを浴びて敗退しただけに、まず目指すのは甲子園1勝だ。

 そして相馬監督は「千葉県の代表としての自信と意地を持って戦います。たとえ個々の能力で相手より劣っていたとしても、流れや運といった野球の本質を掴んで勝ちたいです」と、甲子園でも心は熱く、頭は冷静に戦うことを誓った。

 千葉の高校野球界に吹かせた新風は、高校野球の聖地にも吹き荒れるのか。その勇猛果敢な戦いに注目したい。