挨拶がてらの一発は強烈だった。ミーガン・ラピノーからの速いダイレクトパスに合わせてニアに走り込んだアレックス・モーガン。鮫島彩(INAC神戸)も予測はしていた。マークにもついていたはずだった。しかし、次の瞬間ゴールネットは揺らされてお…

 挨拶がてらの一発は強烈だった。ミーガン・ラピノーからの速いダイレクトパスに合わせてニアに走り込んだアレックス・モーガン。鮫島彩(INAC神戸)も予測はしていた。マークにもついていたはずだった。しかし、次の瞬間ゴールネットは揺らされており、彼女は吹っ飛ばされていた。



アメリカ選手の速いスピードにも、しっかりと体を寄せて対応していた鮫島彩

 アメリカ、ブラジル、オーストラリアと戦う「トーナメント・オブ・ネイションズ」の初戦。アメリカに4失点を食らった。2ゴールを返すもその差は歴然だった。

 前日、鮫島は本職ではないセンターバック(CB)での起用に覚悟を決めていたが、ひとつ前のWボランチは、有吉佐織、三浦成美(ともに日テレ・ベレーザ)の初ペアで、すぐ隣にはこの日初めてサイドバックに挑戦する攻撃型の阪口萌乃(アルビレックス新潟)が入るということで頭を抱えていた。相手は世界ランク1位のアメリカである。

「この段階では、あれもこれもはできない。でも両サイドのスペースにあのトップスピードで入られては太刀打ちできない。何としてもスピードを落とさせないと。モーガンは中で私が潰す」(鮫島)

 試合序盤から自らに言い聞かせるようだった。

 完全に抑え込めるとは考えていなかったが、立ち上がりから鮫島は体を寄せて、とにかくFW陣に食らいついた。キラーパスをことごとくかき出し、体ごと当てて侵入をブロックする。モーガンであろうが、ラピノーであろうが、クリスティン・プレスであろうがCBとして鮫島が止めなければならない。彼女が崩れれば、若い最終ラインは一溜まりもない。そうなれば後はサンドバック状態。そこでゲームは壊れてしまう。ある意味、鮫島がゲームの行方を握っていたと言っていいだろう。

「わかっていてもやられる。4失点、そのやられ方も今までの相手とは違う」(鮫島)――。

 両サイドに早めにプレスに入り、そのサポートも最大限にギアを上げて臨んでいた。ラインコントロールもあの状況下で手放すことはしなかった結果、オフサイドを取ることもできていた。アメリカが容易(たやす)く奪ったように見える4得点も、他国であればゴールに結びついたかは疑問だ。そこにアメリカの強さがあるのだと鮫島は言う。

 対応できていた時間帯ももちろんあった。だからこそ、”4失点で済んだ”とも言える。その一因として、サイドバックデビューの阪口の光るプレーがあった。阪口に課せられた使命はアメリカの強烈なスピードを落とさせること。奪えなくていい。あくまでも安易にサイドのスペースを使わせないベターな策であり、今の日本にできるベストな策でもあった。

 その阪口がマッチアップしたプレスを抑え込んだのだ。「そこまでやられている感じはなかった」と、何が正解か分からないながらも手応えはあった。鮫島のラインコントロールにもしっかりとついていき、モーガンにつく鮫島のこぼれ球をカバーする動きも見せた。生まれたてのサイドバックが、右サイドからのクロスをほぼ封じていたのだ。

 だが、54分に満を持して登場したトビン・ヒースが厄介だった。彼女の恐ろしさはこれまでサイドバックとして、そのスピードを受けてきた鮫島の体に叩き込まれている。投入された直後、ヒースはあっさりと仕事をやってのけた。ドリブルで一気に右サイドを駆け上がる。一度は抜かれた阪口も何とかコーナー前で足止めするまで粘り続けた。右に左に駆け引きを繰り返すヒースが選んだコースは、狭いライン際からのクロス。それをモーガンに決められた。

 阪口にしてみれば、スピードを落とさせるという使命は果たしている。そこからの駆け引きで完全に経験値の差が露呈した。しかし、それはそのまま今後の期待値に置き換えられるだろう。この失点後も阪口なりに調整をし、近づき過ぎず相手のスピードを殺す動きを自然に見出し、わずかではあるが成功例も手にし、失敗の中から成功のピースを拾っていた。

 その阪口の本領が発揮されたのは76分。3プレーほど前から、じわじわとシュートの打てる位置を伺っていた。直前にはミドルシュートを放ってみた。そしてついに、後半途中から出場した増矢理花(INAC神戸)が下げたボールをそのままドリブルで持ち込んだ。お返しとばかりにヒースをかわして「ハッキリと見えた」コースに振り抜いた。

 本人曰く「イメージ通りにいき過ぎた」と言う。失敗も成功も阪口のポテンシャルの高さを認めるに十分な90分だった。

 それでも阪口が試合後に思い返すのはヒースにやられた失点シーン。鮫島も「久しぶりにヒースの怖さを感じた」と苦笑いだ。

 日本にもチャンスはあったが、世界女王の前ではまだまだ未熟だった。

「これがアメリカだなって。そこが(日本と)違うところなんですよ。ペナルティエリア以外のところではまだできるところはあっても、結局ペナルティエリア内でやられる」(鮫島)

 ここが日本の守備の一瞬の脆さであり、決めきれない攻撃の絶対的な決定力の差だ。何もできない訳ではないが、勝利を決定的にする力はまだない。2-4のスコアは、今のなでしこジャパンを見事に現したスコアだった。

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