平昌五輪のポストシーズンとなる今季、フィギュアスケートは4回転などジャンプの基礎点が低くなったり、GOE(出来栄え点)の加減点がプラスマイナス5の11段階になったりと、大幅にルールが改正される。ジャンプやエレメンツ(技)の質がこれまで…

 平昌五輪のポストシーズンとなる今季、フィギュアスケートは4回転などジャンプの基礎点が低くなったり、GOE(出来栄え点)の加減点がプラスマイナス5の11段階になったりと、大幅にルールが改正される。ジャンプやエレメンツ(技)の質がこれまで以上に問われるシーズンとなりそうだ。そんななか、長野県軽井沢町で行なわれた全日本強化合宿では、多くの選手が新たな取り組みに挑んでいることがわかった。

 昨季、大ケガから見事なカムバックを見せて平昌五輪で4位となった宮原知子は、さらにひと皮むけた演技を見せるつもりでいる。



軽井沢で行なわれた全日本強化合宿に参加した宮原知子

「いろいろなチャレンジをするシーズンにしたいと思っています。だから、いままでやったことがない曲で演技したり、ジャンプの跳び方を意識して変えたりして、小さなチャレンジに取り組んでいます」

 課題となっているジャンプの回転不足についても、「ジャンプがうまい人は、最後まで顔が残って回っている。それを自分も真似るように意識を変えて跳んでいます。それができれば、回転が速くなったりジャンプの高さも出やすかったりするので」と、意欲を見せた。

 宮原の新しいプログラムは、ショートプログラム(SP)が『小雀に捧げる歌(Song for the Little Sparrow)』(振り付け:ローリー・ニコル)で、フランスのシャンソン歌手、エディット・ピアフさんの生涯を描いたもの。そしてフリーはアストラ・ピアソラ(アルゼンチン)のタンゴ曲『ブエノスアイレスの冬』とビバルディ作曲の『四季~冬』を掛け合わせたプログラム(振り付け:トム・ディクソン)になるという。

「昨季のプログラムは両方とも和のイメージだったので、今季はまったく違うプログラムにしたかったです。フリーは情熱的でカッコいいイメージ。SPは、すごくいい曲をたまたまローリー・ニコルコーチから薦められたので、この曲にしました。フリーと雰囲気がかぶらないようにモダンな曲にしようということで決めました」

 透明感のある演技に定評がある宮原らしさ全開のプログラムになりそうだ。

 今回の合宿でとくに目を引いたのが、今季シニアデビューを飾る紀平梨花だった。武器となるトリプルアクセルの完成度が、ほぼ完璧なまでに向上していたからだ。

 氷上練習ではキレのよさと安定感のあるトリプルアクセルをバンバンと成功させ、曲掛け練習でもしっかりと跳び切っていた。さらに、昨季のジュニアグランプリファイナルで女子史上初めて成功させた3回転のアクセル+トーループの連続ジャンプも披露。一昨季、女子史上7人目となるトリプルアクセル成功者になって以降も、それ以上の大技を体得しているのは間違いない。

「(大きな大会で結果が出なくてもトリプルアクセルに挑み続けた)昨季は、エッジの研磨の具合やメンタルのこと、技術的なこと、調整の仕方などいろいろなことを学ぶことができたので、いまでは調子が悪くても、気持ちで跳べるようになりました」
 
 そんな紀平の新プログラムは、SPが夢の世界を演じるという『月の光』(振り付け:デビット・ウィルソン)、フリーは地球の誕生をテーマにしたという『Beautiful Storm』(振り付け:トム・ディクソン)になった。

 身長が少し伸び、スタイルのいい16歳の逸材は、シニアでもトリプルアクセルを武器に旋風を起こすことができるか。シニアデビュー戦を鮮烈に飾ることができれば、世界トップ選手の仲間入りも夢物語ではない。

「シニアデビューの今季は、グランプリシリーズで完璧な演技をして、多くの人たちに(自分を)知ってもらえるようにして、全日本選手権では昨季よりもいい成績を残して、自己ベストを更新することが目標です。トリプルアクセルはもう絶対に外さないと決めているので、どの試合でもどんな状況でもできるように練習から気合いを入れていきたいと思います」

 一方、昨季、悔しい思いをした樋口新葉は、オフシーズンから新たな挑戦に取り組んできた。

 平昌五輪の代表入りまであと一歩のところまでいきながら、最終選考会となった全日本選手権で表彰台に乗れず、五輪代表切符を逃した樋口は、その悔しさを今年3月の世界選手権にぶつけて見事銀メダルに輝いた。それでも、五輪に出場できなかった悔しさは消えなかった。

 だからこそ、次の北京五輪までの4年間をどう過ごすべきかを考えて、積極的にカナダやアメリカに出かけていった。これまでやったことがないようなプログラムを振り付けたり、習得を目指しているトリプルアクセルの練習をするために、羽生結弦のジャンプを指導するジスラン・ブリアン氏に指導を仰いだりしたという。

「カナダでジスラン先生に習いました。どんなアドバイスをもらったか、ですか? (踏み切るときに)乗るカーブのことだったり、『気持ちを強く持て』と言われました。感触は悪くないですが、いつ跳べるようになるかは、まだ自分でもわからないです。それから、(アレクセイ・)ミーシン(ロシア)コーチのところにも1週間行ってきて、タノジャンプ(手を挙げて跳ぶジャンプ)の練習がうまくできたので、すごくきれいに跳べるようになりました」

 充実したオフを過ごしている樋口は、さらなる脱皮を図るために意欲的な新プログラムを作った。SPはソフィー・タッカーの『エナージア』(振り付け:シェイリーン・ボーン)で、アップテンポなダンスナンバー。フリーは表現が難しいシャンソンの名曲『愛の讃歌』(振り付け:佐藤有香)となった。

「『愛の讃歌』を自分が滑れるとは思っていなかったんですけど、この曲を滑り切れたらいいプログラムになるよ、ということで決まりました。まだ全然イメージが浮かばないですが、うまく感情を出せたらいいですね。今季の新しいプログラムは、まだ滑ったことがない曲だったり表現だったりするので、『(樋口新葉も)こういう表現ができるのよ』とアピールできると思います」

 昨季は後半戦で失速したが、今季はシーズンに向けて調子を上げていくことができれば、結果は自ずとついてくるだろう。演技に余裕が出れば、精力的に練習している大技もプログラムに組み込めるようになるはずだ。