前節終了時点で首位の松本山雅FCと、7位の大宮アルディージャ。順位こそ少し離れてはいるものの、勝ち点差は6と大きな差はなかった。 そして、どちらもシーズン序盤は出遅れていたが、徐々に本来の力を発揮し始め、順位を上げてきたことでも共通す…

 前節終了時点で首位の松本山雅FCと、7位の大宮アルディージャ。順位こそ少し離れてはいるものの、勝ち点差は6と大きな差はなかった。

 そして、どちらもシーズン序盤は出遅れていたが、徐々に本来の力を発揮し始め、順位を上げてきたことでも共通する。今季開幕前には、ともにJ1昇格の有力候補と目されていた実力者同士である。

「大一番だと思っていた」

 松本のMF石原崇兆がそう語ったように、J2第25節、NACK5スタジアム大宮での両者の直接対決は、両チームにとって、今季の行方を占う重要な一戦だった。

 試合は序盤から一進一退で進んでいた。だが、膠(こう)着状態にあった試合は前半35分、突如大きく動き出す。

 大宮のMFマテウスが両足で挟み込むようにして抱え込んだボールを、松本のMF中美慶哉が強引に蹴り出そうとして、ボールと一緒にマテウスの下腹部のあたりを蹴ってしまう。これが乱暴な行為とみなされ、レッドカードによる退場処分を受けたのである。

 ひとり少なくなった松本に対し、攻勢を強めた大宮は前半アディショナルタイムの48分、MF大山啓輔がミドルシュートを決めて先制。大宮は試合の主導権をがっちりと握ったまま、1-0で前半を終えた。

 ホームの大宮が前半のうちに先制し、しかも松本はひとり少ない。注目の大一番も、意外な形であっけなく決着がついてしまうのかと思われた。

 ところが、ハーフタイムを挟んで、松本が大きく息を吹き返す。

 リードを許した松本は「辛抱強くやりながら、どこかで点を取らなければならない」(松本・反町康治監督)。そのためには、「スペースへ出ていくエネルギーのある石原と、サイドで仕掛けられるMF下川陽太を使うしか、他に選択肢はなかった」(反町監督)。

 退場者が出るまで、前線は1トップ+2シャドー、中盤は2ボランチで戦っていた松本だったが、2シャドーのひとりが退場になったことで、1トップを前線に残し、中盤は3ボランチに。左アウトサイドMFに下川を投入し、同ポジションの石原を3ボランチの左に移した。

 石原は3ボランチの右に入ったMF藤田息吹とともに、守備ではDFラインの前のスペースを埋めながらも、攻撃のときには前線へ飛び出して1トップのサポートに入ることが求められた。反町監督が「相当大変だったと思う」と振り返ったように、石原や藤田にはかなりの負担があったはずだが、まずは守備を固めて速攻、あるいはサイド攻撃という狙いが徹底されたことで、松本の攻撃はむしろ前半以上に円滑になった。石原が誇らしげに語る。

「まずは失点しないことを意識しながら、前にいけるときはいこうと思った。(攻撃に)出ていって、また(守備に)戻るのはキツかったが、そこを走れるように日々練習している。それが山雅の強みでもあるから」

 ひとり少ないながら、試合の主導権を大宮から奪い取った松本は56分、CKのセカンドボールを拾った石原が倒されて得たPKを、FW永井龍が落ち着いて決め、まずは同点。さらに64分、カウンターでDFラインの背後に抜け出した永井が、粘り強いボールキープから自らシュートに持ち込み、勝ち越しゴールをねじ込んだ。

 大宮は、気の緩みが出たとは言わないまでも、有利な状況になったことで無理せず、安全に試合を進めたいという意識が働いたのかもしれない。「(大宮のDFが)あまりガツンとこなくなったので、(前線がひとりでも)意外とボールを収められた。前半よりもサポートの距離が近くなって、自分が孤立することなく、プレーすることができた」とは、2ゴールを決めた永井の弁だ。

 対照的に大宮の石井正忠監督は、「前半と同じようにハードワークできなかった」と後半の戦いを振り返り、「ひとり多いことでちょっとスキができた」と嘆くしかなかった。

 最後はFWロビン・シモヴィッチを中心とした大宮のパワープレーを、松本が必死にはね返し続けてタイムアップ。反町監督は、敗戦濃厚の試合をひっくり返した満足感を漂わせ、選手たちを称えた。

「(松本は)最後まで死に物狂いでやるチーム。その片鱗は見せられた」

 松本にとっては、大きな、大きな勝ち点3だった。



J2で首位に立っている松本山雅

 一昨季はわずかの差でJ1自動昇格を逃し、プレーオフでもアディショナルタイムの失点に泣いた。昨季は最終節で敗れ、最後の最後でプレーオフ進出圏内からこぼれ落ちた。悲劇的な幕切れが2シーズン続いている松本は、今季ここまでの戦いも決して楽なものではなかった。

 しかも、ようやくチーム状態が右肩上がりになってきた矢先、今季前半戦でチームの主力を務めてきたMF前田直輝が名古屋グランパスへ移籍し、MFパウリーニョは負傷離脱。再び不安要素が生まれてきたなかでの、昇格争いのライバルを振り切っての逆転勝利である。ひょっとすると、およそ4カ月後に今季を振り返ったとき、シーズン全体の流れを決める分岐点として語られる試合になるかもしれない。

 つい2節ほど前までは超のつく混戦だったJ2の上位争いも、首位を堅持した松本は、プレーオフ圏外の7位・東京ヴェルティとは勝ち点8差、自動昇格圏外の3位・横浜FCとは勝ち点4差と、じわじわと差を広げ始めている。

「本来は11人対11人で、自分たちがやりたいことをやりたかった。だが、アウェーゲームで、(週末と水曜日の試合が続く)連戦で、ひとり退場になっても逆転できた。次の試合は、最初から10人で戦おうと思う」

 最後まで全開だった”反町節”。いつにも増して饒舌な指揮官の様子が、この勝利がどれほど大きなものであるかを物語っていた。