パワーサーキットと化したホッケンハイムリンクで苦戦が予想されていたにもかかわらず、トロロッソ・ホンダはブレンドン・ハートレイが10位入賞で1ポイントを獲得した。雨の大波乱のなかで上位2台がリタイアし、中団でもギャンブルに失敗するドライ…

 パワーサーキットと化したホッケンハイムリンクで苦戦が予想されていたにもかかわらず、トロロッソ・ホンダはブレンドン・ハートレイが10位入賞で1ポイントを獲得した。雨の大波乱のなかで上位2台がリタイアし、中団でもギャンブルに失敗するドライバーが続出するなかでの入賞だった。



久々に入賞を果たしてポイントゲットしたブレンドン・ハートレイ

「雨が降ってきたとき、最初はチームから『ピットインしろ』と言われたんだ。でも、僕が『あと1周ステイアウトしてもいいか?』って聞いて、1周走って『ピットインする?』って聞いたら、チームは『雨は弱くなるはずだ』と言うから、さらにもう1周ステイアウトすることができた。チームと僕の間でとてもいいコミュニケーションができて、最高の決断を下すことができたんだ」(ハートレイ)

 一方のピエール・ガスリーは、他車がインターミディエイトに交換するなかでウエットタイヤを履くという、もっとアグレッシブなギャンブルに出て失敗。一時は2周遅れまで後退するなど入賞はならなかったが、本人もこれは納得ずくだった。

「僕らの置かれたポジションを考えれば、何かをトライするべきだった。それがうまくいかなかったというだけのことだよ。周りと同じ戦略を採るよりも、うまくいったときに得られるゲインが大きいと判断したんだ。

 成功率の低い大きなギャンブルだったけど、あのときの僕らはああいうポジションだったし、ポイントが獲れないなら11位だろうと13位だろうと、どちらでも同じだからね。もっと雨が降ってくれればうまくいったはずだけど、運がなかったんだ」

 トロロッソ・ホンダにとって、第6戦・モナコGP以来となるポイントを獲得できたことの意味は大きい。

 しかし、彼らが直面している問題から眼を逸らすべきではない。

 パワーサーキットのホッケンハイムリンクでは、ホンダ製パワーユニットの非力さゆえに苦戦を強いられるのではないかと予想されていたが、その予想は悪いほうに外れた。

 STR13は、パワーを云々(うんぬん)する以前の状態だったのだ。

「クルマのフィーリングがおかしい。ブレーキングでは左右に引っ張られるし、アンダーステアでトラクションもない。今までに経験したことがないくらい変なフィーリングだ」

 金曜のフリー走行でガスリーはそう訴え、土曜の予選までに大きな改善も見られず、17位・18位で第4戦・アゼルバイジャンGP以来の2台Q1落ち。

 あまりに走らないマシンに、ガスリーは頭を抱えた。

「全体的なグリップが不足していて、コーナーの入口ではスタビリティ(安定性)がないし、コーナーの中間ではマシンが旋回していかない。コーナーの出口では、トラクションがとてもプアなんだ。こうあってほしいという理想型の真逆の状態だよ。

 何らかの理由でこういう状況に苦しんでいるんだけど、それがなぜなのかはわからない。他のサーキットに比べてセットアップを大きく変えたわけではないのに、こうなってしまっているんだ」

 バーレーン(第2戦)で速さを見せたように、ストレートを低速コーナーでつないだような「ストップ&ゴー」のサーキットはSTR13にとって、決して苦手ではないはずだった。

 しかし、ホッケンハイムでタイヤのグリップが引き出せないのはなぜか――。考えられるのは、上海(第3戦)でもそうだったように、コーナーが組み合わさって右左(みぎひだり)とし、ステアリングを切り返さなければならないようなセクションでの挙動だった。

「考えられるのは、このサーキットには回り込むようなコーナーのコンビネーションがいくつかあるということだ。ターン2~3とかターン8~10とかね。そういうところでは、タイヤにすごく大きなストレスがかかって、なぜかグリップレベルがプアになってしまうんだ」(ガスリー)

 ダウンフォースが足りなければコーナリングスピードが遅く、リアのメカニカルグリップが足りなければ立ち上がりでスロットルを踏んでいけず、パワーをかけることはできない。メカニカルグリップによるトラクションがないからウイングを立ててダウンフォースをつけたくなり、そうするとストレートが伸びない。結果的にガスリーが言うように、いいところがひとつもないクルマに仕上がってしまう。



トロロッソのマシンはホッケンハイムのコースに苦しんだ

 もちろん、望んでそうなっているわけではないが、今のSTR13にとっては最良の妥協点がそこになってしまっているということだ。

 パワー不足が相対的なパフォーマンス差にどのくらい影響を及ぼしたのか――。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターに問うと、パワー不足を吟味できる状態になかった、という答えが返ってきた。

「それは(判断が)難しいですね……。予選の(各コーナーの)対他比較でいえば、パワーリミテッドというよりもグリップリミテッドでのロスがかなりありました。上海もそうでしたが、このクルマはコーナーのコンビネーション、切り返しがあるようなところは弱いみたいですね。フロントの入りが悪いと次の立ち上がりでリアに影響してしまって、というようなことですね」

 ガスリーがマシンのグリップ不足に不満を訴える一方で、ハートレイからはあまりそう言った声は出てこない。決勝のロングランにおいてはほとんど差がない両者だが、予選というマシンの限界を引き出す場面では、それだけガスリーのほうが限界ギリギリの領域で走っているということなのだろう。その限界点が高くなればその分だけ、ガスリーのほうが速く走れ、限界点が低ければ両者のタイム差はほとんどなくなる。今回のドイツGPがまさにそうだったというわけだ。

 下位に沈んだとはいえ、9位のシャルル・ルクレール(ザウバー)から17位のガスリーまでが0.7秒にひしめく中団グループのなかで、Q2突破までは0.04秒差。Q1で0.1秒差だったフェルナンド・アロンソ(マクラーレン)が予選11位に入るなど、見た目の順位ほどタイム差は大きくはない。

 そんななかで、3戦前のオーストリアGPで投入した新型フロントウイングをまだ使いこなせていないのは痛い。金曜のフリー走行では、新旧ウイングと新旧ノーズをそれぞれ組み合わせて4通りの比較データ収集を行なうなど、依然として迷走を続けている。

 また、パワーユニット面でも状況は芳しくない。メルセデスAMGやフェラーリは今季1基目を運用して使用後にコンポーネントを分解・分析したのち、2基目からはICE(内燃機関エンジン)の燃焼やMGU-H(※)を介した発電・回生などでさらに攻めた運用を施し、それを予選で採り入れてパワーアップさせている。それに対してホンダは、まだ手をこまねいている状態だ。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 マシンパッケージの開発が停滞しているなかでセットアップが決まらず、そのポテンシャルさえもフルに引き出せないとなれば、大接戦の中団グループのなかで下位に低迷してしまうのは当然だ。ドイツGP決勝でも雨が降り出すまでは、トロロッソ・ホンダにポイント獲得のチャンスはなかった。

 次のハンガリーGPが行なわれるハンガロリンクは曲がりくねった中低速サーキットであり、トロロッソ・ホンダのマシンに合っているといえる。しかし現状を考えると、それは「トロロッソ・ホンダに有利」というよりも、「不利が小さい」という表現をとるべきなのかもしれない。

 ガスリーもそれを心配している。

「ブダペストではこれまで以上にチャンスはあると思う。だけど、現時点で僕らのマシンパッケージは、思っていたとおりのパフォーマンスを獲得できていない。車体はシーズン序盤からほとんど変わっていないんだ。(オーストリアGPで投入した)アップグレードをうまく機能させるにはどうしたらいいのか、もっとしっかりと分析を進める必要があるよ」

 トロロッソ・ホンダに渦巻く停滞感を、シーズン前半戦最後のハンガリーでなんとか払拭したいところだ。