アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)とフェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)のJリーグデビューに注目が集まったJ1第17節。前節終了時点で首位のサンフレッチェ広島を勝ち点9差で追う2位のFC東京は、10位の横浜F・マリノスと対戦し、…
アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)とフェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)のJリーグデビューに注目が集まったJ1第17節。前節終了時点で首位のサンフレッチェ広島を勝ち点9差で追う2位のFC東京は、10位の横浜F・マリノスと対戦し、5-2で勝利した。
「たくさん点が入ってよかった。見ている人は楽しんでくれたのではないか」
そう語るFC東京の長谷川健太監督の顔にも、笑みがこぼれる大勝である。
指揮官が「最後をしっかり締められれば、何も言うことない試合だった」とも語っているように、5-0になってから2点を失ったことは、たしかに反省材料ではある。しかし、異常とも思える今夏の暑さを考えれば、多少の緩みはやむを得ない。
それよりも、今後の優勝争いを占ううえで注目すべきは、FC東京が”自分たちの形”を確立しつつあるということだろう。
では、”FC東京の形”とは何か。
敗れた横浜FMのピーター・クラモフスキーヘッドコーチ(家族の事情で一時的にチームを離れたアンジェ・ポステコグルー監督に代わり、この試合の指揮を執った)が、FC東京の特長として「規律を守った守備と、脅威となるカウンター」を挙げていたが、その言葉がすべてを表している。
極端なまでにボールポゼッションを重視する横浜FMに対し、FC東京は相手選手をマークしつつも、それだけにとらわれることなく、確実にスペースを埋めることで応戦。パスコースを消された横浜FMが手詰まりになったところで、ボールを奪い取った。「(プレスに)行くところと、(引いて)ブロックを作るところを、うまく使い分けられた」とは、MF東慶悟だ。
そして奪ったボールを、FWディエゴ・オリヴェイラを中心としたカウンターへとつなげた。
とりわけ目を引いたのは、ボールを奪ったあと、ディエゴ・オリヴェイラにボールをつなぐまでの流れである。
横浜FMのように短い距離のパスをつないでくるチームは、必然的に選手間の距離が近くなる。FC東京がボールを奪っても、すぐに人数をかけて奪い返しにくるため、もしもそこで奪い返されれば、大きなピンチになりかねない。
ところが、FC東京は「(誰かが)ボールを奪ったときに、(周りの選手が)しっかりポジションを取ってサポートしてあげることができた」(東)。
ボールを奪った瞬間、パスをつないで相手のプレスをかいくぐり、密集状態からオープンスペースへとボールを運ぶ。これができたからこそ、FC東京は面白いようにカウンターが決まったのである。
もちろん、FC東京のカウンターにおいては、ディエゴ・オリヴェイラに依(よ)る部分が大きいことは否定できない。得点ランキング2位につけるブラジル人ストライカーの、際立つキープ力や突破力があればこそ、だ。
チームの得点源として活躍するディエゴ・オリヴェイラ
しかし、だからといって、闇雲に蹴ったボールをディエゴ・オリヴェイラが拾って、独力で何とかしているわけではない。今のFC東京は、相手から奪ったボールをディエゴ・オリヴェイラまでつなぐルートを、そのときの状況に応じていくつも用意できるのである。
長谷川監督も、「どうディエゴを生かすか」がチームの重要課題であることは認めつつも、「ディエゴがいい形で動き出すことで、周りの選手のよさも生きる」と語る。
東が手応えを口にする。
「(ボールを)取ったあとのファストブレイク(速攻)は、今年チャレンジしているところ。それがうまくハマった。キャンプから攻撃の部分で取り組んできたことが、かなり出せた試合だった」
加えて、「危険な暑さ」とまで言われる今夏、選手をうまく使い回せていることも、FC東京の好材料だろう。
横浜FM戦でも、MF田邉草民(たなべ・そうたん)が先発出場。ワールドカップ開催による中断前までは先発出場がわずか1試合だった背番号27は、高速カウンターに何度も絡み、自身も1ゴールを決めている。
「ケガ人が戻ってくるなかで、試合に出ている選手には『チャンス(出場機会)をものにしよう』という気持ちが芽生えているのかもしれない」
そう話す長谷川監督は、中断前にはあまり出番のなかった田邉やMF米本拓司の活躍に目を細める。「(暑さが厳しい)夏場はどういう状況になるかわからない」というなかで、「(選手起用の)カードが切りやすくなった」のは間違いない。
今季のJ1は、今節終了で全34節のちょうど半分を終えた。
折り返し地点での首位・広島と2位・FC東京との勝ち点差は7。決して小さな差ではないが、広島にしても盤石の強さで独走しているわけではないだけに、優勝争いは予断を許さない。
東が「まだまだよくなると思う」と語るように、FC東京は自分たちの形を確立するなかで自信も芽生え、追走スピードは徐々に上がり始めている。
背後に迫る足音は、すでに広島の耳にも届いているはずである。