昨季のJ1王者と、初めてJ1に参戦したチームの一戦であることを考えれば、ワンサイドゲームになることはある程度予想できた。ポゼッション型とカウンター型、そのスタイルのかみ合わせもあって、ホームの川崎フロンターレがV・ファーレン長崎を一方…

 昨季のJ1王者と、初めてJ1に参戦したチームの一戦であることを考えれば、ワンサイドゲームになることはある程度予想できた。ポゼッション型とカウンター型、そのスタイルのかみ合わせもあって、ホームの川崎フロンターレがV・ファーレン長崎を一方的に押し込む時間が長く続いた。


川崎フロンターレの攻撃の起点となる

「背番号10」大島僚太

 それでもボールを支配しているほうが勝利を手にするとは限らないのが、このスポーツの面白いところ。先のワールドカップでも、むしろカウンターをうまく操ったチームのほうが大きな成果を手にしている。

 そう考えれば長崎にも勝機がなかったわけではないが、両者の間には埋めがたい実力差があったのも事実。スコアは1-0と僅差だったが、川崎Fが”横綱相撲”で長崎の挑戦を退けた。

 記者席に座っているだけで、汗がしたたり落ちる酷暑のなかでの試合だった。ナイトゲームだというのに気温は30度を軽く超え、ジメジメとした湿気が不快指数を高めていく。

 見ているだけでつらいのに、サッカーをするなんて! 選手たちに労(いたわ)りと尊敬の念を抱く一方で、プレーのクオリティを求めるのはあまりにも酷だった。ましてや、前節から中3日のタイトなスケジュールである。選手たちの動きがやや緩慢に見えたのは、決してワールドカップの観すぎで目が肥えてしまったわけではないだろう。

 それでも、川崎Fは持ち前のパスワークでハイプレスをかわし、じりじりと相手を押し込んでいく。3バックの陣を敷く長崎は、ウイングバックが最終ラインの位置まで下がり5バックになるだけでなく、時にはボランチまでもがそこに組み込まれ、6バックとなる時間も少なくなかった。

 そんな相手をいかに崩していくのか――。それが、川崎Fのこの日のテーマだった。

 注目したのは、川崎Fの背番号10だ。ロシアワールドカップの日本代表メンバーにも選ばれた大島僚太の出来が、そのミッションを完遂する重要なカギを握ると考えていたからだ。

 実際に川崎Fの攻撃のほとんどは、大島から始まった。後方でシンプルにボールをさばきながら相手の隙をうかがうと、味方もそれに呼応するかのように動き出しを繰り返す。簡単にサイドに展開して幅を生み出しつつ、ここぞという場面でくさびを打ち込んで、フィニッシュシーンを導いた。

 ボールを奪われないボールコントロールの巧みさも特筆すべきで、ボールロストを犯したのは、カウンターからドリブルで持ち出したところを止められた13分の場面くらいだっただろう。

 レギュラーと目されながら、大会直前にコンディションを落とし、結果的にワールドカップの舞台には立てなかった。大島が人知れず、その悔しさを抱えていることは想像に難くない。淡々としたプレーからはその感情は読み取れないものの、中村憲剛、小林悠、家長昭博と”大御所”たちを巧みに操りながら、クールかつ正確に攻撃のビートを刻んでいく様は、まるで職人のようであり、むしろすごみすら感じられた。

 後半に入ると大島は、存在感をさらに高めていく。後方でボールをさばく機会が多かった前半とは対照的に、バイタルエリアへの進入機会が増加。より後ろ体重になった長崎の守備ブロックを崩そうとする意識の表れだった。

 目を見張ったのは、66分のシーン。中央から左に流れながらパスを引き出すと、振り向きざまに左足でエリア内に走り込んだ小林にピンポイントスルーパスを供給。惜しくもオフサイドとなり、得点には結びつかなかったものの、高い技術とセンスを見せつけるプレーだった。

 もっとも、きらりと光る能力を披露しながらも、この日の大島は主役とはなり得なかった。67分、一瞬の隙を突いた中村のスルーパスに抜け出した小林が、一度はGKにストップされたものの、こぼれ球を豪快に蹴り込んで決勝ゴールをマーク。川崎Fが誇るふたりの”千両役者”が結果的に、チームに勝利を呼び込んだ。

 大島にもスポットライトが当たる場面がなかったわけではない。73分、エウシーニョとの連係でゴール前に抜け出し、決定的なシーンを迎える。

 シュートを打てば――と思われたこの場面で、しかし、大島は左にいた小林へのパスを選択。小林のシュートは相手DFに防がれて、追加点は生まれなかった。

 パスを選んだのは”らしさ”と言えるかもしれないが、大島がもうひとつ殻を打ち破るためには、うまさだけでなく、怖さも求められる。あるいは、それは「自我」と言い換えることができるかもしれない。「自分で試合を決めてやる」という自己主張こそが、大島をさらに成長させるキーワードとなるのではないか。

 酷暑の消耗戦を制した川崎Fは、これで4連勝を達成。昨季王者にようやくエンジンがかかってきた。この日、首位を独走するサンフレッチェ広島が名古屋グランパスと引き分けたため、両者の勝ち点差は8に縮まった。

 今シーズンも折り返し地点を迎え、これから優勝争いはますます本格化してくる。そのなかで大島は、いかなる存在感を放つのか――。その双肩に川崎Fの連覇がかかっている。