甲子園100回大会の出場をかけた地方大会は、次々と代表校が決まるなど、日に日に熱さを増している。そんな中、最も注目を集めているのが、史上初となる2度目の春夏連覇に挑む大阪桐蔭(北大阪)だろう。7月21日に行なわれた常翔啓光学園との3回…

 甲子園100回大会の出場をかけた地方大会は、次々と代表校が決まるなど、日に日に熱さを増している。そんな中、最も注目を集めているのが、史上初となる2度目の春夏連覇に挑む大阪桐蔭(北大阪)だろう。7月21日に行なわれた常翔啓光学園との3回戦では、わずか1時間23分でコールド勝ち(18-0)。初戦から2戦続けてコールド勝ちを収めるなど、「さすが」の戦いを見せている。



北大阪大会初戦で公立校の摂津相手にサヨナラ勝ちした履正社

 その大阪桐蔭の最大のライバルと目されているのが履正社だ。大阪桐蔭が圧巻の戦いで常翔啓光学園を下した約1時間後、豊中ローズ球場では履正社の岡田龍生監督がベンチで珍しく左拳を突き上げていた。

 汎愛(はんあい)との3回戦、1-1の同点で迎えた8回裏、一死一、二塁から履正社の4番・白瀧恵汰がライトへ勝ち越しの3ランを放ったときだった。

 汎愛は公立校ながら体育科を持ち、近年は各大会で上位を賑わしている実力校。さらに今年は、最速147キロの本格派右腕・羽田野温生(はるき)を擁するなど、前評判は高かった。

 履正社としては、簡単に勝てない相手ということは百も承知だったはずだが、ここまで苦しむとは思っていなかっただろう。結局、このあとさらに1点を追加し5-1で勝利するも、指揮官の渾身のガッツポーズは、この試合がいかに苦しい戦いであったのかを如実に物語っていた。

 履正社は初戦(2回戦)でも、公立校の摂津にサヨナラ勝ちの6-5と辛勝。大阪桐蔭とは対照的に苦戦を強いられている。

 汎愛戦のあと、岡田監督が「今年のウチは弱いですから」と苦笑いを浮かべていたが、らしからぬ大会序盤からの”苦戦”に、履正社の「打倒・大阪桐蔭」への可能性が広がったのではないか……そんな思いを強くした。
 
 大阪桐蔭と履正社――近年の大阪で”2強”を形成してきた両雄だ。昨年のセンバツでは、史上初となる大阪勢同士による決勝も戦った。

 あらためて、ここ10年の両校の夏の戦績を振り返ると、甲子園出場は大阪桐蔭の5回に対し、履正社は2回。ただ、履正社の安定感は特筆すべきものがあり、10年のうちベスト4以上は実に9回を数える。大会序盤での唯一の敗退は、大阪桐蔭と初戦対決で敗れた2015年のみ。

 しかも敗れた相手はほとんど大阪桐蔭で、それ以外の学校に負けたのは2009年のPL学園のみ。これは全国屈指の激戦区・大阪にあって、極めて秀逸にして稀な戦績といえる。

 そんな大阪桐蔭以外には”無敵”状態だった履正社だが、今年は初戦から苦戦。近年の大阪の戦いからすれば”大異変”と言えるが、そもそも今年はいつもと空気が違っていた。

 毎年、大会が近づくと”2強”の話題で持ち切りとなるが、今年は根尾昂(あきら)、藤原恭大(きょうた)を筆頭に注目選手が多く揃う大阪桐蔭の”1強”ムードが漂っていた。

 とはいえ、昨年秋、履正社が近畿大会で敗れた相手は、今年春のセンバツで大阪桐蔭と好勝負を演じた智弁和歌山。相手エースの平田龍輝から17安打、8点を奪うなど大乱打戦を演じており、智弁和歌山の高嶋仁監督も「打線なら(大阪桐蔭よりも)履正社の方が上とちゃうか」と語っていたほどだ。

 事実、濱内太陽、西山虎太郎、白瀧恵汰、筒井太成ら前チームからのメンバーに新戦力が加わった打線は高い攻撃力を持つ。

 ところが、春の大阪大会は4回戦で興国に完封負けするなど、自慢の強力打線は鳴りを潜め、チームも不安定な戦いを繰り返した。

「練習試合でも大差で負けたり、ここ数年にはなかったような戦いが結構ありました。だからこの夏、どう戦おうかと……頭が痛いです」

 岡田監督の不安は的中したが、その一方でチームに備わった大きな武器もあった。岡田監督は言う。

「こういう厳しいゲームをやっていると、当然、チームとしての一体感や粘りは増してきます。特に夏は、この粘りが大事なんです。粘り強く戦って、試合を積んでいくなかで選手もチームも成長していく。このようなケースはこれまでに何度もありました」

 汎愛との試合中、選手たちからは思いの込もった熱い声が飛び、夏特有の「負けられない戦い」のなかで、チームが一丸となっている雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。そしてその空気感こそ、ここ数年、履正社に足りないと感じてきた部分でもあった。

 現在、夏の大会における両者の対決は、大阪桐蔭が10連勝中だ。初対決となった1997年、2度目の対戦となった1999年は履正社が勝利。しかし、2005年の夏に大阪桐蔭が勝利すると、以降は一度も履正社に敗れていない。秋と春はほぼ互角の戦いをしているにも関わらず、夏に限っては大阪桐蔭の圧勝である。

 この結果について、何人かの両校OBに話を聞くと、行き着くところは目に見えない部分での差だった。あえて言葉にするなら、「一体感」「一丸」「まとまり」……。それが生まれる理由を考えると、まず頭に浮かんだのが大阪桐蔭の寮生活である。

 単に寝食をともにしているから……というレベルではなく、心と体を鍛えながら、仲間との絆も深め、チーム一丸の空気をつくっていく場としての寮生活だ。

 ほとんどの選手が自宅から通う履正社にとっては、変えようのない環境のなかでもがいてきた部分でもある。だが、この夏の思いもよらぬ戦いのなかで、仲間を思う熱い気持ち、勝利への執念が生まれ、チームに一体感が生まれた。

 21日の試合後、4回戦、準々決勝までの組み合わせが決まった。履正社は24日に大阪電通大高と4回戦を戦い、ここに勝てば25日に春の大阪大会で大阪桐蔭をあと一歩のところまで追い詰めた寝屋川と春日丘の勝者と対戦。大阪桐蔭は24日に常翔学園、勝てば25日に金光大阪と同志社香里の勝者と対戦する。

 北大阪には他にも実力校や伏兵が揃い、先の読めない戦いではある。しかし、両校とも勝ち上がり、準決勝以降での対戦が実現したとすれば、これまでとは違う状況での”2強”の戦いは要注目である。

「ウチは1日でも長い夏になるように、ひとつひとつやるだけです」

 終始柔らかな表情で語っていた岡田監督だが、指揮官が「今年は弱い」と言い続けたチームが、気がつけば大きな結果をつかんでいた、という話は高校野球の世界ではよくあること。

 選手層の厚さ、経験値の高さで大阪桐蔭に分があることは間違いないだろうが、瀬戸際の勝負をしのぎ、これまでにはない一体感を生み出した履正社の底力。両校の対決は実現するのか。北大阪大会から目が離せない。