W杯期間中は、かつてサッカー界を彩った多くのレジェンドたちもロシアの地に集まっていた。彼らの多くは各国のテレビ局のコメンテーターとして、後輩たちのプレーを解説した。だが、放送では言いたくても言いたいことはたくさんあるようで……
W杯期間中は、かつてサッカー界を彩った多くのレジェンドたちもロシアの地に集まっていた。彼らの多くは各国のテレビ局のコメンテーターとして、後輩たちのプレーを解説した。だが、放送では言いたくても言いたいことはたくさんあるようで……彼らに突撃してみると、饒舌にいろいろなことを語ってくれるのだ。
今回、話を聞いたのは、1990年のイタリアW杯で世界の頂点に輝いたドイツのレジェンド、ユルゲン・クリンスマン。イギリスのBBCの解説者として、多くの試合を観戦していた。
クロアチア対イングランドの準決勝を観戦中のユルゲン・クリンスマンphoto by Shutterstock/AFLO
一時は日本代表の次期監督になるのではないかと噂されたクリンスマンは、今回、久々にW杯を堪能したと言う。
「2006年はドイツ代表、2014年はアメリカ代表の監督を務めていたから、他の試合をゆっくり見ることなど不可能だった。今回は純粋な気持ちでサッカーを楽しめてよかったよ。なぜなら、我々が知っているW杯はこれが最後になると思うからだ」
次回、2022年のカタールW杯は開催が11-12月、試合はほとんどがナイターになると予想されている。参加国も48に増える可能性があり、試合の方式も変わってくるかもしれない。いずれにせよ、これからのW杯はこれまでとは違うものになっていくのだろう。
それに呼応するかのように、「サッカーの勢力図も変わりつつある」とクリンスマンは指摘する。
「サッカー強豪国といわれるブラジル、アルゼンチン、ドイツ、イタリア、イングランド、スペインなど、数少ないチームがトップを占める時代は終わった。今後はクロアチア、ベルギー、ウルグアイ、セルビア、スイス、日本などといった国がサッカーを変えていくだろう。もう名前だけで勝つことはできない。今回のW杯は、それを証明していた」
変わるのはチームの名前だけでなく、プレースタイルやサッカー自体にも変化が起きているという。
「若い監督が、新しい力のある国に行き、新しいサッカーを展開する。まさにサッカーのグローバル化だ」
今大会、クリンスマンには気になったチームが3つあったという。コロンビア、ペルー、そして日本だ。
「コロンビアはいいチームだった。ただ運がなかったのと、いくつかの致命的なミスのために勝ち進むことはできなかった。ペルーもいいプレーを見せていたが、まだベストのプレーを引き出せないうちに大会が終わってしまった。それは残念だ」
では、日本は?
「今回の日本は大きなサプライズだった。W杯直前に監督が代わり、スター選手もいない。どうなることかと思っていたが、日本のスターはチーム自身だった。あの組織プレーは見事で、現代的だ。西野朗監督は今大会の5指に入る優秀な指導者だったと私は思う。
そしてとくに目を引いたのは、フィジカルの強さだ。この場合のフィジカルとは筋肉ではなく、体力、持久力などの強さだ。日本ほど、長い距離をハイスピードで走り続けたチームはなかっただろう」
だからこそ、クリンスマンは日本がベスト8に勝ち進めなかったことを残念に思い、その原因をこう分析する。
「日本は期待以上の活躍をして世界を驚かせたが、たぶん日本の選手自身も驚いていたのではないだろうか。そして期待以上のことをするときに、彼らは恐怖心を持ってしまった。コロンビアに勝っていいのか、ベルギー相手に2点もリードしていいのか……。実力があるのに、自分たちの力を信じ切ることができず、それが敗因となってしまったのではないか。本当に残念だ。
ベルギー戦の後半開始からの15分間の日本は、たぶん、今大会のなかでも決勝戦のフランスに次いですばらしいプレーをしたチームだったと思う。一番心が躍るサッカーを見せてくれた」
最後に、早すぎる敗退をしてしまった母国ドイツについては、かなり手厳しい指摘をしている。
「ドイツは自分たちに満足してしまっていて、必要なハングリー精神をまったく持っていなかった。AからZに至るまで、選手から協会、用具係に至るまで、全員がアプローチを誤っていた。その過程はアルゼンチンとまったく同じだ。ただ両者が異なったのはその後だ。ホルヘ・サンパオリはすぐにベンチを去ったが、ヨアヒム・レーヴは残った」
それが何を意味するかまでは、クリンスマンは口にしなかった。
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