フランスの5大会ぶり2度目の優勝で幕を閉じたロシアW杯。モスクワのルジニキ・スタジアムで行なわれたフランス対クロアチアとの決勝には、世界中のメディアが集まった。はたして各国のジャーナリストの目に、今大会はどう映ったのか。 イタリアの日…

 フランスの5大会ぶり2度目の優勝で幕を閉じたロシアW杯。モスクワのルジニキ・スタジアムで行なわれたフランス対クロアチアとの決勝には、世界中のメディアが集まった。はたして各国のジャーナリストの目に、今大会はどう映ったのか。

 イタリアの日刊紙『La Repubblica』のエンリコ・クーロ記者。国内では大会前、イタリアが予選敗退したこともあって、ロシアW杯への関心は著しく低かったというが、終わってみれば、有料テレビが記録的な視聴者数を獲得するなど、おおいに盛り上がったという。

「ピッチ内で目新しい戦術の進化が見られたかといえば、そうではなかった。目立っていたのは、FKやPKによるセットプレーからの得点。それに大会序盤からサプライズ含みのアップセットが多く、小国といわれるチームが守備を固めて、そこで奪ったボールを素早いカウンターにつなげて得点するといったシーンも多かった。その戦い方がいいか悪いかは別にして、それが効果的だったということだ。攻撃ではなく、守備に勝るチームが勝ち残った。



強豪国が次々と敗退し、最後に残ったのがフランスだった photo by Sano Miki

 また、ベスト4にベルギーとクロアチアという優勝経験のない国が2つも入ったという点で、民主的だったともいえる。大会前は誰もクロアチアが決勝に進むとは考えていなかった。終わってみればベルギーとともにクロアチアをベストチームに挙げる声は少なくないはずだ」

 強豪のスペインやアルゼンチンは最後まで調子が上がらず、早々に姿を消すことになった。だが、多くの記者にとってもっとも衝撃だったのは、前回優勝国ドイツのグループリーグ敗退だった。

「ブラジルは、前回1-7とドイツに大敗していただけに、誰もがドイツとの再戦を恐れていたんだ。それが、決勝トーナメントに進めないなんて……」(ブラジル『UOL』のラビエリ・ダニーロ記者)

「私は大会前から、強豪国のなかであまりよくないのはどこかと問われれば、ドイツと答えていたんだ。なぜかといえば、ひとつの世代の終わりが近づいているのを感じていたからね。ただ、初戦のメキシコに敗れたのはやむを得なかったとして、第3戦で韓国に敗れるとはね……。まあ私にとっては準々決勝でベルギーが優勝候補のブラジルを破ったことが、それ以上のサプライズとなったけど」(ベルギーの日刊紙『La Derniere Heure』のミシェル・フランケン記者)

 当のドイツの記者は自国の敗退をどう見ていたのか。

「正直、ベスト4に残れないなんて思ってもみなかった。サプライズが多い大会になったとはいえ、これ以上の驚きはなかったはずだ。なぜ敗退したか? ハングリーさを欠いていたことも否めないが、ミロスラフ・クローゼ、バスティアン・シュバインシュタイガー、フィリップ・ラームが去って、4年前と比較してチームは小粒化し、真のリーダーが不在だった。

 トニ・クロースがチームを引っ張ってはいたが、トーマス・ミュラーの調子が上がらず、彼ひとりに負担がかかりすぎていた。メスト・エジル、サミ・ケディラ、ジェローム・ボアテング……経験ある選手はほかにもいたが、彼らのパフォーマンスにはがっかりするばかりだった」(ドイツの日刊紙『Fuldaer Zeitung』のクリスチャン・ハリング記者)

 優勝したフランスにはこんな評価がある。

「チームとしての面白さは欠いたが、バランスのよさが光った。アントワーヌ・グリーズマン、キリアン・ムバッペ、オリヴィエ・ジルー、ポール・ポグバ、エンゴロ・カンテ、ラファエル・ヴァラン、サミュエル・ウムティティ、ウーゴ・ロリスと、各ポジションに完璧ではないが、好選手がいた」(前出:ドイツのハリング記者)

「ときおり芝居がかった演技でファウルをもらいにいくプレーはまったく好きになれないが、ムバッペのスピードは脅威。いまはまだ成長過程にあるが、近い将来世界ナンバーワン選手に登りつめる可能性を秘めた選手」(前出:イタリアのクーロ記者)

 一方でフランスは、初戦のオーストラリア戦に続き、決勝のクロアチア戦でも今大会から導入されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の判定で得たPKで勝ち越すなど、VARの恩恵を受けたことが優勝につながったとする声もある。

 そのVARについては、導入を歓迎する声も多いが、否定的な意見もないわけではなく、評価は割れている。

「うまく活用されていたと思う。すでに導入されているブンデスリーガではVARの判定が論議の的となったこともあったが、今大会はそれほど問題になることもなかった。判定までの過程もスムーズで、私は好きだ」(前出:ドイツのハリング記者)

「大会序盤には多々問題もあったけど、仮にVARがなければ、韓国がドイツに勝つことはなかった(韓国の先制ゴールは一時オフサイドと判定されたが、VARの結果、ゴールが認められた)。もちろん、まだどの場面でVARが行なわれるかなど、はっきりしないこともあり、不透明な部分はある。

 ラグビーならレフェリーの声はすべてオープンにされているが、サッカーではレフェリーの無線でのやり取りはクローズだ。たとえば、テニスのチャレンジシステム(※)のように、各チームに決まった回数のVARのリクエストをする権利を与えることを検討してもいいだろう。ただ、現状でもマイナス面よりプラス面のほうが多いとは思っている」(ロイター通信のイングランド人記者デイビッド・ホール氏)

*テニスでは試合中に、主審が下した判定に不服な場合、選手は1セット3回までビデオ判定を要求できる

「課題はある。たとえば決勝のフランスの2点目は、グリーズマンのキックがクロアチアのイヴァン・ペリシッチの腕に当たっていたとして、VARの結果、ハンドでPKとなった。たしかに手には当たっていたが、故意には感じられず、プレー自体に影響があったとも思えない。おそらく、VARがなければハンドを取られることはなかっただろう。しかし、VARで見ればハンドは免れない。

 考え方によっては、サッカーの面白さを奪っているということにもなる。ハンドひとつ取っても、何がよくて何がダメなのか、曖昧になっている。もちろん、大きな判定ミスを修正するのはいいことだ。だが、その使用については改善が必要だ」(前出:ブラジルのダニーロ記者)

 日本についての見方も気になるところだ。決勝トーナメント1回戦では3-2で日本を下し、ベスト4まで進出したベルギーの前出・フランケン記者は、こんな感想を持ったそうだ。

「昨年11月に対戦(1-0でベルギーが勝利)したときのことを考えれば、ベルギーにとって日本は難しい相手ではないと思っていた。ベルギー人はみんな、日本には楽に勝てると思っていたんだ。それが0-2にされたわけだから、焦ったよ。

 もちろん、あの試合の日本は本当にいいプレーをしていて、日本に足りなかったのは経験だけだったと思う。ラストのワンプレーは、日本のCKからのベルギーのカウンターだったけど、経験があればあれほどリスクを冒すことはなかったと思うし、(簡単にGKにキャッチされた)本田圭佑のキックもマズかったよね」

 そして、前出のイタリア人のクーロ記者はこんな話をしてくれた。

「ベルギーをあと一歩まで追いつめた日本の戦いは見事だった。大会のベストチームを敗退寸前まで追いつめたわけだからね。

 日本では、次の監督を外国人にするか日本人にするかといったことが議論になっているようだが、なぜ日本はそこまで外国人監督を招きたいのかがわからない。自国の監督のほうが言葉は通じるし、メンタリティは一緒だし、実際、自国の監督のほうが結果を出しているじゃないか。日本の歴史でも、W杯の歴史でも、それは証明されている。

 日本もロシアでの戦いでそれはわかったと思う。選手だって母国語を話す監督のほうがやりやすいに決まっている。過去のW杯の優勝監督は全員その国の出身者だ。日本はもう外国人監督に頼る必要はないと思うけどね」

 ロシアの11都市12会場で行なわれた32日間の決戦は、多くのサプライズを起こしながら、あっという間に過ぎ去っていった。次回の開催地はカタール。ロシア大会とは対照的に、首都ドーハの6会場を中心に7都市12会場という狭い範囲での開催となる(カタールの国土は秋田県よりもやや狭い)。

 北半球では初めての冬開催(2022年11月21日開幕、12月18日決勝)、同大会から出場枠が32から48チームに拡大される可能性も依然として残っているなど、課題も多い。4年後はどのような戦いが繰り広げられるのだろうか。

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