前戦イギリスGPで飛び出したピエール・ガスリーのホンダ批判は、ファンの間でさまざまな議論を呼んだ。その騒動を、ホンダの人たちはどのような心境で見ていたのだろうか。 シルバーストンで田辺豊治テクニカルディレクターは、「予選パッケージの作…
前戦イギリスGPで飛び出したピエール・ガスリーのホンダ批判は、ファンの間でさまざまな議論を呼んだ。その騒動を、ホンダの人たちはどのような心境で見ていたのだろうか。
シルバーストンで田辺豊治テクニカルディレクターは、「予選パッケージの作り方と我々の出力を上げていくしかありません」とセットアップの問題点を示唆しながらも、真摯にドライバーの苛立ちを受け止めていた。だが、あらためてその心境を聞くと、サバサバとした答えが返ってきた。
ガスリーのホンダ批判発言は大きな波紋を呼んだ
「『0.9秒』ですか? この前、お話ししたとおりです。それは事実なんで」
田辺テクニカルディレクターの言う「事実」とは、全開区間で0.9秒失い、コーナリングで0.4秒を取り返し、ラップタイムで0.5秒遅れまで盛り返していたのは事実だということだ。
ただし、それはチームとして、「あえてそういうセットアップにしていた」ということだ。ダウンフォースを削れば、ストレートはいくらだって速く走ることができる。しかし、それではコーナーを速く走ることができないから、最高速を追求するよりもコーナーで稼ぐマシンに仕上げただけだ。
言い換えれば、「コーナーで0.4秒を稼ぐためにストレートで0.9秒の犠牲を払った」ともいえる。
もちろん、もっとパワーがあればその分だけストレートは速くなっただろうが、そうだったとしても、「ストレートで0.9秒」の部分だけを抜き出すのは、あまりに理不尽すぎた。
チーム内でもガスリーの発言は問題視され、ガスリーも含めてミーティングできちんとコンセンサスを取ったという。
「チームのミーティングで彼も入って話をしたのですが、ラップタイムの取り方に対してコンセプト(考え方)が違うよね、という話になりました。その(ストレートという)1点だけを取り出して0.9秒と言っても意味がなくて、1周全体として速く走るためにそういうセッティングにしていたということですから」
そのため、トロロッソ・ホンダ自身がガスリー発言に端を発した騒動に浮き足立っているところはなく、チーム内は落ち着いているという。つまり、ガスリー発言は間違いではないが、あのような表現をすべきではなかった、ということだ。
一方、チームはあらためて自分たちのパフォーマンス不足を見つめ直し、危機感を持っている。
「フェラーリユーザーがとくに予選でパフォーマンスを上げてきているのは明らかですから、その点はチームとしても我々としても真摯に受け止めています」
イギリスGPでのSTR13は、低速コーナーからの出口でトラクションが不足し、ドライバーがスロットルペダルを踏めないという問題も抱えていた。それが最高速不足に大きな影響を及ぼすことになった。
「踏み始めが遅くなるし、踏み始めのスピードも遅いから、ストレート全体にわたってその差を引きずります。そうすると、全部(の区間で速度差に)効いてきてしまうんです」
結論から言えば、イギリスGPのセットアップの方向性は失敗だったとチームは認識している。レース後の分析で、その結論に達しているという。
そして今週末のドイツGPの舞台となるホッケンハイムリンクも、セットアップの妥協点が難しいサーキットである。トロロッソ・ホンダはその課題をいかに解決できたかが問われることになりそうだ。
全開率は前回開催の2016年の時点で、すでに60%に達していた。マシン性能が大幅に向上した今のF1ならば、ターン1はかなり高速になり、スタジアムセクション入口のターン12はほぼ全開、メルセデスアリーナからのターン9~10は全開になるため、全開率は65%を超えるのではないかと見られている。
そのため、パワーがラップタイムに与える影響は全21戦のなかでも6番目と高く、非力なホンダ製パワーユニットを積むトロロッソとしては、セットアップが難しいところだ。
長いストレートで最高速がほしい反面、低速コーナーでのメカニカルグリップもほしい。そのバランスをきちんと見極められるかがカギになる。
イギリスGPのみならず、フランスからの3連戦ではすべてにおいてセットアップを外した感のあるトロロッソ・ホンダだけに、今回は慎重にその善し悪しを見極めようとしている。
「課題は、低速コーナーでのメカニカルグリップと高速コーナーでの空力バランスの両立。低速コーナーからのトラクション不足に悩んでいますし、ここは低速コーナーからの立ち上がりがかなりの部分を占めるサーキットでもありますから、そう簡単にはいかないと思っています。
低速コーナーからのメカニカル面のトラクションレベルと、高速コーナーでのエアロバランスとトップスピード。いつも同じなんですけど、そのあたりのバランスを微調整していく必要があるという前提で、(FP-1での感触を)きちんと見ましょうということになっています。シミュレーションで『これがベストだ』っていうセッティングを出して持ってきてはいるんですが、最初の詰めはまずFP-1を走ってからという感じです」
苦戦が予想されるなかでセットアップをいかにうまく仕上げ、現状のマシンパッケージの性能をフルに引き出すことができるか。パッケージ自体のポテンシャルで、中団グループのライバルたちに後れを取り始めているトロロッソ・ホンダだからこそ、マシンの速さを限界ギリギリまで引き出す必要がある。
今ならまだ、それを果たすことで中団グループの上位へ手が届く可能性も残されているのだから。
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