7月15日、サガン鳥栖に新加入した元スペイン代表FW、フェルナンド・トーレスの記者会見が都内で開かれた。そのなかでトーレスは「できるだけ早くプレーしたい」と、不振に喘ぐ鳥栖の救世主になるべく闘志を燃やしている。 鳥栖は今季、クラブワー…

 7月15日、サガン鳥栖に新加入した元スペイン代表FW、フェルナンド・トーレスの記者会見が都内で開かれた。そのなかでトーレスは「できるだけ早くプレーしたい」と、不振に喘ぐ鳥栖の救世主になるべく闘志を燃やしている。

 鳥栖は今季、クラブワーストの7連敗を記録するなど、J1中断前の15節終了時で17位。W杯を3度経験したスペイン人ストライカーと共に、後半戦での巻き返しのキーマンとして期待がかかるのが、今年3月にブルガリア1部リーグから鳥栖に移籍した加藤恒平だ。

 立命館大学を卒業後に町田ゼルビアで1年間プレー。その後、モンテネグロ、ポーランド、ブルガリアをわたり歩き、昨年5月には日本代表に初選出された。そんな異色のJリーガーに、移籍秘話、日本代表への思い、リーグ後半戦の展望を聞いた。




鳥栖の巻き返しのキーマンとして期待される加藤

――今年3月、シーズン途中にブルガリア(PFCベロエ・スタラ・ザゴラ)から鳥栖への移籍を決めて周囲を驚かせましたね。

「昨年末に契約延長を打診されたんですが、そのときには『これ以上ブルガリアでプレーしてもステップアップできないかもしれない』と思っていました。結局、移籍先として希望していたヨーロッパ5大リーグのクラブからのオファーはなかったんですが、実はそれまでにも、アジアのクラブからは好条件のオファーをいくつかもらっていたんです。

 提示してもらった金額はかなりの額で、自分でも驚くくらいでしたけど、当初は条件がよくてもアジアに移籍するつもりはありませんでした。ブルガリアで契約を更新せず、フリーで移籍を考えているときに鳥栖からオファーをいただいた。かなり迷いましたが、その時点で約4カ月も実戦から遠ざかり、試合の感覚を忘れかけている状況だったので、単純に『もう1回サッカーをしたい』という気持ちになったんです。今は、毎日サッカーができる喜びを噛みしめています」

――ブルガリアでは半年間ほど試合に出場できない苦渋も味わいましたね。

「そういうことも覚悟はしていたのですが、やはり試合に出られないのは選手としてマイナスな部分が大きい。一方で、これは語弊があるといけないんですが、試合に出る出ない、試合に勝つ負けるということに一喜一憂はしませんでした。僕は『自分が成長すること』がもっとも重要だと考えています。1試合1試合に重きを置きすぎると、『試合に出ること』自体がモチベーションになってしまう。

 試合に出て満足、勝って慢心することがないように意識していました。『自分が成長したい』という思いが根底にあれば、極論ですが『細かいことはどうでもいい』とも思えるようになっていましたね。僕は器用ではないので、まず考えるのは自分のこと。自分が成長しないとチームに貢献できないし、勝利を掴むことはできませんから。プロとして試合には出たいですが、それよりも大切な芯が僕のなかにあります」

――そういった考えを持つようになったのはいつ頃ですか?

「ポーランドでプレーしているときですね。監督交代が多くて出場機会に恵まれないこともあったんですが、そこで『自分にとって何が一番大切か』を見つめ直しました。僕のゴールはポーランド、ブルガリアでプレーすることではない。いつも『もっともっと上に行きたい』と思っていましたし、それは今でも変わりません。目標に向かってやるべきことを積み重ねていけば、自ずと結果がついてくると信じています」

――ヨーロッパでプレーすることに強いこだわりを感じますが、その理由は?

「僕はずっと、チャンピオンズリーグ(CL)に出ることを目標にサッカー人生を歩んできました。そのためには、ヨーロッパのクラブにいることが最低条件。年齢的には29歳になり、周りから見れば難しいと映るかもしれませんね。所属先が決まらないときも『CLに出る』と言い続けて笑われてきましたが、僕としては周りに何を言われても、CLへの思いが捨てられない。もちろん、今は鳥栖で活躍することを第一に考えていますが、また欧州でチャレンジしたいという気持ちは持ち続けています」

――昔から海外志向は強かったんですか?

「小学校のときに、中田英寿さんがペルージャで活躍してるのをテレビで見てから、ずっと憧れを抱いていました。だから、『Jリーガーになりたい』というより、『ヨーロッパでサッカーがしたい』というのが僕の原点なんです。大学を卒業してから1カ月だけドイツに行ったこともあるんですが、うまくいかないことだらけで。英語もドイツ語も話せないし、日々の生活も困難なことばかりでした。

 それでも、ピッチ上でいいプレーしたら、国籍は関係なく認めてくれるということを体感したんです。アルゼンチンにも行きましたが、あそこほどサッカーに熱い国はないんじゃないかと(笑)。そんな経験から、『サッカー文化が根づいていて、その熱を感じられる環境でプレーしたい』という思いが強くなったんです」




インタビュー中は終始笑顔で質問に答えてくれた

――昨季は日本代表にも選出されるなど、環境に大きな変化がありましたね。

「周りの方からはいろんな言葉を頂いたのですが、僕自身は特に変わったことはなく、舞い上がるという感覚もなかった。結局、試合には出られなかったですし、まだまだ力が足りないと痛感しました。かといってまったく何もできなかったかというと、そうでもない。

 僕は、日本にいたときは代表からは見向きもされない選手でしたが、ヨーロッパに行ったことで成長できている手応えを感じました。また、通用したところ、通用しなかったところ、今後やるべきことを定めるキッカケにもなった。これまでのプロセスやアプローチは間違っておらず、今後もコツコツ積み上げていくことで上を目指せるという確信を持ちました」

――通用した部分、課題に感じた部分を具体的に教えてください。

「手応えを感じたのは、相手への厳しさ、激しさ、ボールを奪う意識など、守備の部分ですね。僕は守備でも攻撃でもチャレンジしたいタイプで、そういった姿勢やサッカーへの考え方の部分も含めてです。どの国でも、チャレンジしたうえでのミスは怒られませんでしたが、チャレンジしないプレーは激しく咎められた。この感覚はヨーロッパでの経験がないと、なかなか身につかないものだと思います。一方で課題は、そういった要求をこなせる技術を身につけることです」

――鳥栖でも、守備での貢献が求められているのでしょうか?

「そうですね。守備の激しさ、強さはストロングポイントで、僕が貢献できる部分です。そういう自信を持っているスタイルはしっかり出していきたいですね」

――ヨーロッパとJリーグではプレーの感覚が異なる部分もあるかと思いますが。

「少しずつ慣れてきましたが、ボールを奪う概念、奪い方はやはり違いますね。僕は、『守備ではボールを奪いにいくチャレンジがしたい』という気持ちが強いんですが、奪いにいくとそのスペースを使われることも少なくない。自分では、『まだ行きたい』とも思うのですが、チームとして待つべきところは待たないといけません。そこのバランスを見極めていきたいです」

――ロシアW杯が終わってJリーグが再開されますが、鳥栖は前半戦を終えて17位と苦しい戦いが続いています。

「結果だけ見れば、正直なところいい状態ではないですね。プロなので、結果とは真摯に向き合わないといけません。ただ、チーム全体が沈んでいるかというと、そんなことはない。監督を中心に、試合に向けてしっかりと準備できていて雰囲気は悪くないので、結果は必ずついてくると信じています。

 試合を重ねるにつれてチャンスは増えていますから、あとは決めるべき所で決める。また、不用意な失点をなくすという当たり前のことを突き詰めていく必要があります。前期の最後の3試合では勝ち点を積み上げられましたし、改善されてきている実感はあります」

――後半戦へ向けて状態は上向きになってきた?

「そう捉えています。まだまだ改善点はありますがですが、7連敗した最悪の状態から持ち直してきているので、後期はさらによくなるはずです」

――少し先の話になりますが、今後、どのようなキャリアをイメージしているのでしょうか。

「今は鳥栖でのプレーに100%集中できている状態です。鳥栖で活躍し、成長しないとその先はない。今やるべきことを真摯にやって、その先に選択肢が生まれればいいと考えています。CLを目標にするなら、欧州の5大リーグ以外の上位チームも、選択肢として魅力がある。これは僕に限ったことではなく、日本人選手にとってという意味です。

 実際、2016-2017シーズンのCLでは、ブルガリアのルドゴレツ・ラズグラドがアーセナルやパリ・サンジェルマンといった”メガクラブ”に善戦して評価された。そういったクラブの細かい情報は日本に入りにくいですが、そこにも選択肢があることを多くの日本人に知ってほしいと強く思います。監督、国、クラブによって選手の評価は180度変わるし、今の評価だけで自分の可能性を決めつけてしまうのは本当にもったいない。実際に僕よりうまい選手でプロになれなかった選手は山ほどいる。僕の場合は、あきらめが悪く、粘ったからこその結果ですから」

――加藤さんの場合は、引退後も少し異なるキャリアプランを描ける気もします。

「自分にしかできないことは絶対あるとは思いますが、それが何なのか今はわからない。これまでにプレーしてきたクラブにも、『戻ってきてほしい』と言ってくれる人がいて、それは本当にありがたいことです。しかし、将来のことを考えて今を疎かにしたら意味がないし、必ず後悔する。僕は、『明日サッカー生命が終わるかもしれない』と危機感を持って毎日を過ごしていますし、常にベストを尽くしてきたつもりです。

 加藤恒平という名前を聞いて、『うまい選手』というイメージを持たれたいと思ったことは一度もない。『常に100%で、真面目に泥臭く、やるべきことをやっている選手』と思ってもらえたらうれしいですね」

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