客観的に試合を見ることのできる第三者が、これだけモヤモヤしたものを感じるのだから、当事者であるクロアチアの選手たちは、さぞかしフラストレーションを抱えて試合をしていたに違いない。 4年に一度のワールドカップを締めくくる晴れ舞台は、しか…
客観的に試合を見ることのできる第三者が、これだけモヤモヤしたものを感じるのだから、当事者であるクロアチアの選手たちは、さぞかしフラストレーションを抱えて試合をしていたに違いない。
4年に一度のワールドカップを締めくくる晴れ舞台は、しかし、何ともスッキリしない幕切れとなった。
初の決勝進出を果たしたクロアチアは、ズラトコ・ダリッチ監督が「最初の20分間はいいプレーをし、ゲームをコントロールできた」と振り返ったように、序盤から主導権を握った。
決勝トーナメントに入って以降、クロアチアは3試合連続で延長戦を戦っていた。30分×3だから、決勝の相手であるフランスよりも1試合余計に戦っているも同然だった。加えてクロアチアは、準決勝からの試合間隔がフランスよりも1日短い。
そもそも実力的に上のフランスが、しかもコンディション面でも分があるとなれば、フランス有利の見方が大勢を占めるのは当然のこと。ところが、そんな戦前の予想を覆(くつがえ)すように、クロアチアは勇敢にフランス陣内に攻め入った。
ボールポゼッションで優位に立つクロアチアは、ショートパスをつなぐだけでなく、時おり相手DFラインの背後を狙うパスも織り交ぜて、フランスを後手に回らせる。今大会随一のカウンター巧者である相手に、まったくその機会を与えなかった。
しかし、残念なことにクロアチアの敵は、目の前にいる紺のユニフォームを着た選手ばかりでなかった。結果が出た今となっては、そんな泣き言を言いたくなるほど、クロアチアはこの試合、”ピッチ外の敵”に足を引っ張られ続けた。
まずは、18分のフランスの先制点――FWアントワーヌ・グリーズマンが蹴ったFKが、ゴール前の競り合いのなかでクロアチアのFWマリオ・マンジュキッチの頭に当たり、そのままオウン・ゴールとなったシーンである。
FKが蹴られる瞬間、フランスのMFポール・ポグバはオフサイドポジションにいた。そして、マンジュキッチを後ろから押すように接触もしている。当然、オフサイドと判定されても不思議はないプレーである。今大会はVAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)が導入されているのだから、当然判定は覆されるのだろうと思っていたら、そのままゴールは認められた。
クロアチアが同点に追いついたあと、フランスに与えられたPK――CKの競り合いのなかで、クロアチアのFWイヴァン・ペリシッチの左手にボールが当たったことへのVAR判定にも、率直に言って疑問はあるが、1点目の判定と合わせて考えると、なお一層、レフリーの判定がクロアチアに不利に働いた感が強くなる。
だが、クロアチアの”敵”はレフリーだけではなかった。
不運な2失点で1点のリードを許したクロアチアだったが、後半が始まっても主導権を握り続けた。パスをつないでフランスを押し込み、ボールを奪われてもすばやい守備への切り替えですぐに奪い返し、フランス陣内でゲームを進める。そんな理想的な展開に持ち込むことができていた。
しかし、追い上げムードは、突然の乱入者によって水を差される。
クロアチアがフランス陣内に攻め入っていた、まさにそのとき、クロアチアの攻撃方向から見て右ゴール裏付近から男女4人がピッチに乱入。警備員によって取り押さえられるまでの間、しばらく試合は中断となった。
もちろん、このアクシデントによって水を差されたのは、フランスも同じである。実際のところ、クロアチアの選手にどの程度の心理的影響を与えたのかはわからない。
だが、直後の59分に試合を決定づける3点目を失っていることから考えれば、クロアチアにとっては悔やまれるアクシデントだったことは間違いない。
はたしてその6分後、クロアチアは致命的な4点目を失い、事実上勝負は決した。
今大会のクロアチアは、常に見るものの胸を熱くするような戦いを繰り広げてきた。最後まであきらめずに走り続け、ギリギリのところでしぶとく勝ち上がる。そんな試合の連続だった。
しかし、彼らにも限界はあった。すでに心身両面でエネルギーが残されていなかった。試合終盤の20分ほどは、それまでのように足が前に出ず、フランスを押し込むことができなかった。
2-4。試合は結局、内容には似つかわしくないスコアで決着した。
準優勝に終わるも、最後まですばらしい姿を見せたクロアチア
試合後のダリッチ監督は、後半の乱入者については「コメントしない」。レフリーの判定については、「ひとつ言わせてもらうなら、ワールドカップ決勝の舞台で、あのようなPKは与えられるべきではなかった」と語るにとどめ、ここまで勝ち上がってきた選手たちを称えることに努めた。
とはいえ、前半、クロアチアが攻勢に立った時間帯でそのまま先制していたら、試合はどうなっていただろうか。あるいは後半、クロアチアが3点目を失う前に同点に追いついていたら、どうなっていただろうか。
ダリッチ監督の「我々は不運で敗れた。おそらく今大会でもベストゲームができていた。我々が成し遂げたことを誇りに思う」という言葉も、決して負け惜しみには聞こえない。判官びいきでクロアチアに肩入れするわけではなく、単純にワールドカップ決勝への興味という点において、クロアチアが”ピッチ外の敵”と戦わなければならなかったのは残念だった。
ワールドカップでは初めて導入され、大会序盤から物議を醸すことが多かったVARは、悪い意味で今大会を象徴するものだったと言っていい。
そんなVARが最後の最後に、いい意味で今大会を象徴する存在だったクロアチアの快進撃を止めてしまうのだから、あまりに皮肉な結末と言うしかない。