「メッシ・ロナウド時代」 10年以上も続いた2人の時代は、「ロシアW杯で終わりを告げた」と言われる。そう断じるのは誇張に過ぎるが、ひとつの区切りになったのは確かだ。リオネル・メッシを擁したアルゼンチンは前回大会準優勝のリベンジを遂げるど…
「メッシ・ロナウド時代」
10年以上も続いた2人の時代は、「ロシアW杯で終わりを告げた」と言われる。そう断じるのは誇張に過ぎるが、ひとつの区切りになったのは確かだ。リオネル・メッシを擁したアルゼンチンは前回大会準優勝のリベンジを遂げるどころか、痛々しくロシアを去っている。クリスティアーノ・ロナウドが牽引した欧州王者ポルトガルも、ウルグアイに力負けした。
では、新たに世界サッカーを引っ張る「新エース」の称号は、どの若者に与えられるべきか?
決勝でも活躍が期待されるフランスの若き10番、キリアン・ムバッペ
ベスト16以上に進んだチームのなかで、ブラジルのガブリエル・ジェズス(21歳)、スペインのマルコ・アセンシオ(22歳)、ポルトガルのゴンサロ・ゲデス(21歳)、イングランドのラヒーム・スターリング(21歳)の4人は、気鋭の片鱗を見せたといえるだろうか。しかし、そもそも高かった下馬評以上のプレーを見せることはできなかった。むしろ先駆者たちに埋もれ、目立っていない。
一方で、現場で見た試合で異彩を放っていたのは、ウルグアイのMFロドリゴ・ベタンクール(20歳)とメキシコのFWイルビング・ロサーノ(22歳)の2人だろうか。
決勝トーナメント1回戦のポルトガル戦。ベタンクールはルーカス・トレイラと組んだ中盤で、球出しのうまさを見せ、決定的な仕事をしている。ボールを運んでスペースと時間を作ると、マークを外したエディンソン・カバーニのゴールをアシスト。流れるようなプレーに淀みがなかった。ボールプレーのセンスは申し分なく、すでにユベントスで出場時間を得ていることで、物怖じすることもない。飛び立つ直前の鷲の雛のような、初々しさと力強さを感じさせた。
もうひとりのロサーノも、次世代のサイドアタッカーとして輝きを放っている。ハイライトはグループリーグ初戦のドイツ戦だろうか。ペナルティエリアでボールを受けると、鋭い切り返しで食いついてきたディフェンダーを難なく置き去りにし、名手マヌエル・ノイアーの牙城を崩している。
ロサーノは昨シーズン、オランダリーグのPSVアイントホーフェンに移籍して、1年目でいきなり17得点の大暴れ。サイドから鮮烈に切り込み、右足でコントロールショットを決めている。マルク・オーフェルマルスやアリエン・ロッベンなど、偉大なサイドアタッカーを生み出してきたオランダで、ポテンシャルが開花した。独特の得点感覚があるだけでなく、ウィング的にタッチラインで幅と深みをつくり出せる。バルサやバイエルンのような攻撃を好むクラブが注目し始めた逸材である。
しかし、今大会最高のルーキーといえば、フランスのFWキリアン・ムバッペ(19歳)だろう。
「立ち上がり、自分たちはムバッペのスピードに対し、あまりに慎重になりすぎた」
準決勝後、ベルギーのGKティボー・クルトワは振り返っているが、試合で手合わせした選手たちが抱いた畏怖の念は相当なものなのだろう。
決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦では、場数を踏んできた敵のディフェンダーたちも、対応に四苦八苦していた。捕まえた、そう思った瞬間に速度が上がる。なおかつ、ボールコントロールも乱れないのだ。
ゴールに向かったビジョンの明晰さも、ムバッペの特長だろう。ベルギー戦では、ゴールに背を受けたボールを、一度止めてから、すかさずヒールを使って後方にいたオリビエ・ジルーにパスしている。「背中に目がついた」という表現は言い古されているが、速さオンリーのアタッカーではない。
もっとも、若さも露呈した。
アルゼンチン戦とはうって変わって、準々決勝のウルグアイ戦ではもうひとつの顔を見せている。ラフなディフェンスを受けていたのはあったが、少しファウルをされただけで痛そうに倒れ込み、「パリ・サンジェルマンでネイマールに悪いことを教えられた。早くもスター気取りだ」と、辛辣な批判を受けている。不必要なイエローカードをもらった場面では、ディディエ・デシャン監督からもたしなめられた。
「キリアンは賢い子だ。聞く耳を持っている。メディアはスター扱いするが、まだ19歳で、いろいろ学んでいるところさ」
デシャンはそう説明しているが、ムバッペは、どこかで熱くなってしまい、自分を見失うところがまだ見られる。試合の流れから完全に消えてしまう時間も目立った。それでも、10代でこの存在感は、久々に「怪物」の称号が与えられるのではないか。
メッシ、ロナウドは特別な存在といえる。不世出のプレーヤーだろう。しかし、時代はうねりのなかで新たな怪物を生み出すはずだ。