畑岡奈紗(19歳)の勢いが止まらない。 今季女子メジャー第3戦、KPMG全米女子プロ選手権(6月28日~7月1日/イリノイ州)の最終日に、強風で多くの選手がスコアを伸ばせずにいるなか、「64」という圧巻のスコアをマーク。驚異的な追い上…
畑岡奈紗(19歳)の勢いが止まらない。
今季女子メジャー第3戦、KPMG全米女子プロ選手権(6月28日~7月1日/イリノイ州)の最終日に、強風で多くの選手がスコアを伸ばせずにいるなか、「64」という圧巻のスコアをマーク。驚異的な追い上げを見せてトップに並んだ彼女の姿は、米女子ゴルフ界に大きな衝撃を与えた。
最終的に畑岡は、トップに立った3人によるプレーオフ1ホール目で脱落。韓国のパク・ソンヒョンが栄冠を手にして、惜しくも快挙達成はならなかったが、メジャー勝利も確実に手が届くところにあることを証明してみせた。
畑岡が言う。
「プレーオフまでいったのはよかった。(メジャー制覇へ)あとやるべきことは、ひとつだけ」
全米女子プロ選手権では惜しくもプレーオフで敗れた畑岡奈紗
畑岡はこの試合の前週、ウォルマート NW アーカンソー選手権で米ツアー初優勝を挙げた。通算21アンダー、2位に6打差をつけての圧勝劇だった。
予選落ちが続いたルーキーイヤーの昨年とは打って変わって、今季はツアー序盤から安定した実力を発揮。4月以降の大会では上位争いにもたびたび絡むようになって、周囲はもちろん、彼女自身も「まもなく勝てるだろう」と確信していた。
では、畑岡は昨季とは何が違うのか。その強さの秘密はどこにあるのだろうか。
躍進著しい19歳。技術面と精神面、その両面で大きな成長を見せているが、まずは技術面から見てみたい。
第一に、飛距離。昨季はツアー85位だった平均飛距離(251.12ヤード)が、今季は263.05ヤードでツアー26位(7月2日時点。以下同)。12ヤードも伸びている。
ただし、これはスイングプレーンが乱れていた昨年が悪すぎた、というのが実際のところ。そんな昨年の轍を踏まないためか、今季はスイングチェックを頻繁に行なっている。
3月末の起亜クラシックから翌週のメジャー初戦、ANAインスピレーションのときには、日本ナショナルチーム時代から畑岡を見守り、現在もコーチを務めるガレス・ジョーンズ氏(日本ナショナルチーム・ヘッドコーチ)が米国入り。同氏の指導とスイングチェックを受けた。
また、畑岡がジュニア時代に鍛えられた『トミー・アカデミー』の主宰である中嶋常幸プロがマスターズの観戦に訪れた際には、同地を訪問。中嶋氏の宿舎の庭でアドバイスを仰いだ。
その結果、4月のロッテ選手権では最終日最終組でのプレーを経験。さらに、4月末のメディヒール選手権で米ツアー初のトップ10入り(7位タイ)を果たすと、5月のキングズミル選手権では優勝争い演じてプレーオフに進出した(結果は2位)。
アイアンショットの精度も格段に進歩している。
とりわけ目覚しい数字を残しているのは、パーオン率。今季は70.56%(ツアー37位)で、昨年の60.66%(ツアー152位)から10%近くも向上しているのだ。
5月のキングズミル選手権、6月のメイヤークラシックと、2カ月で2度達成したホールインワンも、決して偶然の結果ではないだろう。
一方で、平均パット数は昨年が28.71(ツアー5位)、今季が29.32(ツアー26位)と、昨年の成績のほうがいい。
しかしこれは、昨年はグリーンを外すショットが多かったため。グリーン周りから寄せて、セーブしてきた回数が多かったにすぎないのではないか。パーオン率70%を誇り、バーディーチャンスを多く迎えている今季と昨季とでは、そのプレー内容は明らかに違う。
ちなみにパッティングについては、(優勝した)ウォルマート NW アーカンソー選手権でキャディーからいいアドバイスがあったという。
「(キャディーの)デイナが、『テークバックが速く、短くなっている』と言ったんです。それで、ゆっくり、長めな感じでやるようにしたら、(ボールの)転がりもすごくよくなった」(畑岡)
同大会を含めて、勝負どころで次々に沈めていく畑岡のパッティングは本当に見事だ。
技術面の向上に関しては、他にもある。キャディーのデイナ・ドリュー氏が語る。
「僕がバッグを担いだ今季だけを見ていても、(畑岡は)ショットの種類が格段に増えている」
身近で見守っている畑岡の母・博美さんもこう話す。
「(今季の)グリーンを外したときのパーセーブやチップインを見ていて、本当にプロらしくなったな、と」
そして、畑岡の精神面の成長は、技術面以上だ。
今季の畑岡は、ずっと充実した表情を見せている。その最大の要因は、母・博美さんの存在だ。今季は一緒にツアーを転戦し、各トーナメントに動向。畑岡にとっては、非常に大きな支えとなっている。
昨年は日本にいる妹さんの受験などもあって、畑岡はひとりでツアーを転戦。「ホテルに帰っても、話をする相手もいなくて、ただ苦しかった」と漏らす。日本の母に電話をして、涙したこともあったという。
その母・博美さんが、今季は食事面もサポート。炊飯器は自ら購入し、それで炊いたご飯がまた、大きな活力となっているようだ。
さらに、今年は運転免許も取得。アメリカという地で、だんだんとやりたいこともできるようになって、だいぶ不自由さはなくなってきたという。やはり、アメリカの転戦に慣れるには、時間が必要だったのだ。
全米女子プロ選手権では、最終日に首位との差がどんどん縮まっていくと、「15番のバーディーパットくらいからドキドキしてきた」と、メジャー勝利への重圧も味わった。
プレーオフの1ホール目、ユ・ソヨン(韓国)が先にバーディーパットを決めた。畑岡は、「これを入れないと負ける」というカラーからの5mのバーディーパットを果敢に狙っていった。ボールは残念ながらカップの右を通り抜けていったが、メジャー勝利はたしかに目前に迫っていた。
「(メジャー勝利は)見えてきた。(今後も)4日間、強い気持ちを持って戦っていきたい」(畑岡)
1977年の全米女子プロ選手権を制した樋口久子以来、41年ぶりとなる日本勢悲願のメジャー制覇。それが現実になる日が近い――ガッツある畑岡のプレーを見てそう確信した。
今季は、まだメジャー2戦が残されている。勢いに乗る19歳がそこでチャンスをつかんでもおかしくない。
まずは、8月2日に開幕する全英リコー女子オープン(8月2日~5日/イングランド、ロイヤルリザム&セントアンズ)の畑岡のプレーに注目である。