「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は見た!」 ネイマールのロシアW杯は、そんなタイトルがつけられそうな形で終わった。サンバのリズムも、底抜けの陽気さもない。ずるく姑息な印象だけが残ってしまった。ベルギーに敗れ、ベスト8で姿を消…
「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は見た!」
ネイマールのロシアW杯は、そんなタイトルがつけられそうな形で終わった。サンバのリズムも、底抜けの陽気さもない。ずるく姑息な印象だけが残ってしまった。
ベルギーに敗れ、ベスト8で姿を消したブラジルのネイマール
きっかけはラウンド16のメキシコ戦だろう。タッチライン際、ネイマールは接触されてファウルを受けた後、大袈裟に倒れている。そして踏みつけられたようなリアクションで、悶えながら転がった。ところがビデオで再生すると、何もされていない。被害者を演じていたのだ。
「(メキシコの選手は退場になっていたかもしれず)ひどく恥ずべき行為だ。ひとりの選手が倒れただけで、こんなに時間を使うなんてあり得ない。フットボールは道化師のものではない」
敗れたメキシコのファン・カルロス・オソリオ監督は、憤懣(ふんまん)やるかたない様子だった。
ネイマールがメキシコ戦までのW杯4試合で倒れていた時間は、13分50秒と計算されている。
5試合目となる準々決勝、ベルギー戦でも、ネイマールは何度もピッチに倒れ、PKを主張する場面もあった。しかし、この日の主審は最初からシミュレーションを疑っているように見えた。VAR判定に持ち込まれこともあったが、ビデオ再生されたとき、どれも軽い接触でダイブしていたことが確認されている。
やはり、VARは見ていたのだ。
「ネイマールはわざと倒れる”ダイバー”だから。(スペインの)ラ・リーガでプレーしている選手ならみんな知っている。たいしたことないファウルで派手に転ぶ。彼の”プレースタイル”なんだろうけど、審判には公正にジャッジしてほしいよ」
ベティスでプレーし、メキシコの主将でもあったMFアンドレス・グアルダードは苦々しげに語っている。
フェアプレーに関して、ネイマールの評判は著しく悪い。
選手の間で彼をリスペクトする声が乏しい理由は、「一流選手にあるまじき、欺く行為で得をしようとする」というあざとさにある。昨シーズンまでプレーしていたバルセロナでは、相手選手が怒りを募らせる場面が試合ごとにあった(突然、退団を決めてフランスリーグに移籍したのは、そういう自分を理解しない風潮に耐えかねたからだとも、一部で言われている)。
「技術的にはすばらしいが、人間性でメッシには永遠に及ばない」
それがピッチ内外の評価として定着してしまった。もっとも、ブラジル人としては特別、非難されるようなことはしていないのだろう。
「ネイマールよ、他の国からの批判など気にするな。ゴールするべきときはゴールし、ファウルで倒れるべきときは倒れたらいい。誰もがやっていることだ」
かつてセレソンで10番をつけたリバウドは、ネイマールにエールを送っている。ブラジルでは、人を欺くことも勝つための手段なのだろう。彼らが好んで使う「マリーシア」だ。
しかし、世界最高のフットボーラーとして認められるには、それなりの行動規範があるだろう。
「勝ち負けというのはプレーの一部だ。しかし、シミュレーションで得をしようとするというのはどうか。子供たちの模範にはならない。少なくとも、自分の子供には」
ブラジル代表を率いるチッチ監督は、ブラジル国内リーグで、当時サントスにいたネイマールと対戦したとき、はっきりと苦言を呈していた。その振る舞いを問題視していたのだ。
しかしネイマール自身に、少しも悪びれたところはない。そして、不必要に敗者を挑発してしまう。今回の一件でも、批判に対して「帰った人間たちのたわごと」と言い切っている。当然、これも反発を買う。一介の選手ではないだけに、発言の与えるインパクトは大きい。
ネイマールは試合中も、ときにその悪辣さを見せる。たとえば、ほぼ負けが決まった相手に対し、また抜きを仕掛けるようなプレーだ。
それが、2015年のスペイン国王杯決勝では大きな問題になった。ビルバオ戦の終盤、すでに3-1でバルセロナが勝利をほぼ手中にしていたときに、LAMBETTA(ボールを両足で挟み、相手の頭上を浮かして抜けるフェイント)を繰り出した。敗者を嘲笑するかのような行為で、相手を激昂させただけでなく、このときはバルサの監督ルイス・エンリケまでネイマールの行為をたしなめている。
ネイマールは勝負になると、やり過ぎてしまうところがある。マリーシアに囚われてしまうのだろうか。
準々決勝のベルギー戦でも、ネイマールは審判の目を欺こう、と躍起になっているようにも見えた。そのせいで本来のプレーは冴えを失い、むしろチームのブレーキになった。終盤になってようやく集中力が高まると、左サイドを抜け出して中央のコウチーニョに戻したパスなどは出色だったし、アディショナルタイムに入ってからのシュートも際どかったといえる。
しかし、チームを勝利に導くことはできなかった。ブラジル自体が、ネイマールが起こした騒動に振り回された感もある。
「あれ、今度は誰がお家に帰るのかな?」
グアルダードは、自身のインスタグラムでメッセージを書き込んでいる。