サッカー選手として最高の名誉である、バロンドール獲得のチャンスが巡ってきている。 ワールドカップ優勝を成し遂げることは、すなわち、彼個人も世界最高の選手たる評価を得ることになるはずだ。 ワールドカップ準々決勝。クロアチアは、優勝候補ス…

 サッカー選手として最高の名誉である、バロンドール獲得のチャンスが巡ってきている。

 ワールドカップ優勝を成し遂げることは、すなわち、彼個人も世界最高の選手たる評価を得ることになるはずだ。

 ワールドカップ準々決勝。クロアチアは、優勝候補スペインを破って勢いに乗る地元ロシアを2-2からのPK戦で下し、準決勝進出を決めた。クロアチアのベスト4進出は1998年大会以来、5大会ぶり2回目。イングランドとの対戦が決まった準決勝では、初めての決勝進出を目指すことになる。

 そんなクロアチアにあって、まさに獅子奮迅の活躍を見せているのが、キャプテンにして背番号10を背負うMFルカ・モドリッチである。



準々決勝のロシア戦でもモドリッチの存在感は際立っていた

 モドリッチは、このロシア戦でもボランチとして攻撃を組み立てるだけではなく、ポジションを一列上げた後半途中からは、再三ペナルティーエリア付近まで進出し、ロシアの強固な守備網に挑みかかっていた。

 とりわけ、ピッチ上の誰もが疲労困憊だった試合終盤に何度も見せた長い距離のドリブルは、こう着した試合を大きく動かすきっかけになると同時に、疲れの見える味方を力強く鼓舞するものだった。

 今大会はすでにクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)が、リオネル・メッシ(アルゼンチン)が、ネイマール(ブラジル)が、チームの敗退とともに姿を消した。大会の顔となりうるスター選手の存在という点では、やや地味なワールドカップとなっているが、彼らに代わって大会の顔になる可能性を秘めているのが、モドリッチではないだろうか。

 言うまでもなく、モドリッチはこれまでレアル・マドリードの一員として、数々のタイトル獲得に貢献してきた。高い技術と豊富な運動量を誇るプレーメイカーは、スターぞろいのチームにあっても際立った存在ではあるが、スーパースターのC・ロナウドとの比較で言えば、玄人受けするタイプの選手である。

 だが、今大会では、アルゼンチン、ナイジェリアと同組という厳しいグループリーグを3戦全勝で首位通過するなかで、モドリッチは圧倒的な存在感を見せつけている。なかでもアルゼンチン戦で決めたミドルシュートは、間違いなく今大会のベストゴールのひとつに数えられるスーパーゴール。大会のクライマックスである準決勝以降の2試合の活躍次第では、2018年のワールドカップは「モドリッチの大会」として記憶されることになるかもしれない。

 モドリッチは今年5月、レアルでUEFAチャンピオンズリーグ3連覇を達成。これに続き、クロアチア代表としてワールドカップ制覇となれば、クラブと代表の両方で最高のタイトルを手にすることになる。

 そして、もしそれがかなったとき、有力視されるのが、モドリッチのバロンドール獲得である。

 このところのバロンドールは、メッシとC・ロナウドふたりの独占状態にあり、もしモドリッチが獲得すれば、2007年のカカ(ブラジル)以来、11年ぶりにメッシとC・ロナウド以外が受賞することになる。いわば、2大スーパースターの時代に終止符を打つのが、モドリッチになるというわけだ。

 モドリッチ自身はバロンドール獲得の可能性について聞かれても、「大切なのはクロアチア代表の成功であり、率直に言って個人のことは重要ではない」とそっけない。

「今はチームのことにフォーカスしている」と話すキャプテンは、「(ロシア戦の)最後に失点しているし、セットプレーの守備は改善しなくてはいけない」と、早くも準決勝へ視線を向けている。

「次の(準決勝の)イングランド戦はタフなゲームになるだろう。それでも、いいチームメイト、いいスタッフ、いいコーチとともに、(クロアチアがまだ成し遂げたことのない)決勝進出という次のステップに進めると思っている」

 クロアチアは120分間の試合を中5日の2戦連続でこなしており、疲労の蓄積が心配される。ズラトコ・ダリッチ監督も「全選手が長いシーズンを戦い終えたばかりで、技術的には問題がなくとも、エネルギー不足になっている。まずはリフレッシュさせる必要がある」と選手を気遣う。

 だが、初の決勝進出を目指し、モドリッチのモチベーションは高い。「いい準備をする時間は十分にある」と語る表情からは、不安はまったくうかがえない。

 はたして、クロアチアにとって初の決勝進出、そして初の優勝はなるのか。決勝が行なわれる7月15日(現地時間)、身長172cmの小さなキャプテンが黄金に輝くトロフィーを頭上にかかげることができたとき、黄金のボール(バロンドール)もまた、彼の足もとに転がってくるはずである。