ロシアW杯開幕前、イングランドはあくまでダークホース的存在だった。優勝争いの本命からは遠く外れていた。早期敗退を予想する人も少なくなかった。 しかし7月7日、準々決勝で難敵スウェーデンを2-0で下し、準決勝へと駒を進めている。 なぜ、…
ロシアW杯開幕前、イングランドはあくまでダークホース的存在だった。優勝争いの本命からは遠く外れていた。早期敗退を予想する人も少なくなかった。
しかし7月7日、準々決勝で難敵スウェーデンを2-0で下し、準決勝へと駒を進めている。
なぜ、下馬評の低かったイングランドは1990年イタリアW杯以来のベスト4に進めたのだろうか?
スウェーデンを破り、28年ぶりにベスト4進出を果たしたイングランド
理由のひとつとして、「グループリーグの組み合わせに恵まれた」というのはあるだろう。パナマ、チュニジアは戦力的にやや落ちる相手だった。おかげでベルギーとの1位争いには敗れたものの、比較的楽に勝ち抜けることができた。
ただし、「セットプレーは迫力があるが、中盤の守備が弱く、ろくにボールもつなげない」と、イングランドの戦いへの評価は、低いままだった。
グループリーグでは大量8点を奪ったものの、6点がPKを含めたセットプレー。マンチェスター・シティでメキメキと実力をつけたジョン・ストーンズを中心にした3人の大型センターバックと、エースであるハリー・ケインがゴール前に飛び込む様子は、確かに凄みがあった。しかしながら攻守は不安定で、戦術的に成熟していない印象を与えた。
それがラウンド16になると、コロンビアを敵に回して互角に戦っている。ケインがPKを決め、1-1の接戦。延長戦からのPK戦で、ベスト8に勝ち上がった。
それでも、まだ盤石には程遠い。
「(国内は沸き立っているようだが)優勝を云々するのは気が早いよ。地に足をつけて戦うべきだ」
6得点で大会最多ゴールを記録中のケインも慎重な発言をしていた。
そうして挑んだスウェーデン戦も、ビルドアップはしばしば滞っている。左サイドのアシュリー・ヤングに預けるくらいしか、選択肢がなかった。守備に関しても、ポジション的優位を保てていない。中盤の背後のスペースにスウェーデンの選手に入られ、ディフェンスラインは何度も無防備な形で攻撃に晒(さら)されている。GKジョーダン・ピックフォードはそのたびに味方を叱咤したが、修正が施されることはなかった。
つまり、戦い方としては粗(あら)が目立っていた。
「なぜうまくいかなかったのか、私にはわからない。CKからの1点が入るまで、試合は拮抗していた。しかしそれを決められて、5バック気味になった相手を攻めあぐねてしまった」
スウェーデンのヤンネ・アンデション監督がそう振り返っているほどだ。
イングランドは前半30分、左CKを得た。ヤングが蹴ったボールを、ケインの背後に入ったセンターバックのハリー・マグワイアが高い打点から叩きつけ、先制点を奪っている。それは得意の形だった。
イングランドの攻撃は単調だったが、自分たちの武器で戦局を有利に動かした、ともいえる。
その後は、やや劣勢になりながらも懸命にしのぎ、後半14分には、波状攻撃からのクロスをデレ・アリがヘディングで合わせた。待望の、流れからの得点だった。反撃に打って出てきたスウェーデンに対して、真っ向から挑みながら、力強くゴールを突き刺した。
この2点目こそ、イングランドが勝者として経験値を積み重ねていることの証左だったかもしれない。
「コロンビア戦は偉大な夜になった。(若いチームである)我々は、このような苦しい試合を乗り越えていかねばならない。その経験が必要なのだ」
ガレス・サウスゲート監督はそう語っていた。イングランドは今も、大会前と同じく、戦術的な弱点を抱えているのだろう。中盤はジョーダン・ヘンダーソンの才覚に頼り切り。業を煮やしたケインが中盤に落ち、パスをつなぐことで、どうにかボールを前に運べていた。守備に関しても、中盤で防御壁となるブロックを作れていない。プレー全体のクオリティは低いままだ。
しかし、大会前と同じチームではない。
スウェーデン戦、ストーンズを中心にしたバックラインは勇敢そのもので、激しいエアバトルを耐え切っている。ヘンダーソンが自陣からディフェンス裏に走り込むラヒーム・スターリングを見つけ、ダイレクトで出したパスは秀逸だった。そしてケインはエースストライカーとしてのエゴを出さず、献身的にチームのために戦っている。
そうしたストロングポイントで勝利を収めながら、真の強さを身につけつつあるのだろう。2017年、U―17W杯とU―20W杯で優勝しているイングランドには、勢いがある。「フットボールの母国」は長い眠りから覚めたのか。
「我々は勝利を積み重ね続けなければならない。今はチームとして、自信に満ちている。プレーをとても楽しめているよ」
キャプテンでもあるケインの言葉は頼もしい。