【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(5) スーパーGTにフル参戦しているジェンソン・バトンは、第3戦を終えた時点で2度の2位表彰台を獲得。チームメイトの山本尚貴とともにRAYBRIG NSX-GT(ナンバー100)を駆り、シ…

【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(5)

 スーパーGTにフル参戦しているジェンソン・バトンは、第3戦を終えた時点で2度の2位表彰台を獲得。チームメイトの山本尚貴とともにRAYBRIG NSX-GT(ナンバー100)を駆り、シリーズランキングでトップに立つことに成功する。しかしながら、6月30日~7月1日のタイで行なわれた第4戦では、苦しいレースを強いられることになった。

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ジェンソン・バトンにとって第4戦は苦しいレースとなった

 スーパーGTでは、前戦までに獲得したポイントに応じてマシンに重りを載せる「ウェイトハンデシステム」を採用している。このルールによって、どんなに強いチームでもシーズンを通してひとり勝ちすることが困難となり、チャンピオン争いは最終戦までもつれ込む白熱した展開となる。

 さらにバトンの参戦するGT500クラスでは、ウェイトハンデが50kgを超えた車両は燃料リストリクター(エンジンに入れるガソリンの量を制限する装置)によって出力が抑えられ、マシン全体のパワーが落とされる。今年はその制限数値が改訂され、ハンデがより大きく反映する仕様となった。

 バトンも第4戦の開幕前から、「今回はタフなレースになるだろう」と予想していた。しかも土曜日の予選では、直前に降った雨の影響で路面コンディションがウエットからドライに変わっていくという難しい状況となる。それでもQ1は、山本が早めにスリックタイヤに履き替えてタイムアタックを行ない、4番手でQ2へと進出した。

 続くラウンドを走るのは、チャーン・インターナショナル・サーキットが初めてのバトン。しかしバトンは、そんな不安要素を感じさせない走りで5番手タイムをマークする。苦戦するだろうと言われていた100号車は、予想外の好タイムで上位グリッドを獲得した。

「今回のウェイトハンデ量で5番手を獲得できたのはうれしい。でも、ライバルたちは手強いけど、決勝は周りを気にせずに自分たちのレースに集中したい」

 この予選の結果にバトンは笑顔を見せ、4戦連続でポイント獲得の可能性を大いに期待させた。だが、そう簡単にレースが進んでくれないのが、スーパーGTの面白いところだ。決勝レースは一転して、今季一番の苦戦を強いられることになる。

 スタートを担当したバトンは、ウェイトハンデと燃料リストリクター制限の影響で大きく序盤から順位を落とし、10番手まで後退。24周目にKEIHIN NSX-GT(ナンバー17)をパスして9番手に浮上するも、26周目でピットインして山本へと交代した。

 ところがピットアウトの直後、山本はマシンの動きに違和感を覚え、状況確認のために28周目にふたたびピットインすることになる。大きな問題はなかったものの、このピットインで40秒近くタイムをロスして13番手まで後退。最終的に11位でフィニッシュできたものの、残念ながらポイントを獲得することはできなかった。

 レース後、バトンは第4戦をこう振り返った。

「今週末は全体的に、NSX-GTとブリヂストンタイヤのパッケージがうまく機能していない感じがあった。その原因を早急に追究し、もう一度ピットに入らなければいけなかった件も含めて、次も同じようなことが起きないように対処したい」

 F1でもチャンピオン経験のあるバトンは、苦しいレースでも着実にポイントを獲得し続けていくことが一番重要だということを、誰よりも知っている。それだけに今回、ノーポイントで終わってしまったことに関しては、かなり悔しい表情をしていた。

 それでも、ドライバーズランキングは首位から3ポイント差の2位につけており、まだまだ逆転のチャンスは残っている。果たして、バトンは年間チャンピオンを獲得することができるのか――。後半戦に待ち構えているさまざまな要素を考えると……その可能性は「五分五分」といったところだろうか。期待できる要素もあれば、一方で不安な要素もあるからだ。

 シーズン前から「今年の課題」と語っていたGT300クラスとの混走や、フォーミュラカーとは違うGT500マシンの走らせ方など、今のバトンはどう感じているのか。前半戦4レースを終えたところで再度質問をぶつけてみると、かなり前向きな答えが返ってきた。

「だいたいのことは慣れたと思うし、自信を持ってマシンに乗れている部分もあるから問題はない。ただ、スーパーGTのマシンはメカニカルグリップが非常に強くて、タイヤのグリップ力も高いクルマだから、他のカテゴリーのマシンと比べても動きは非常に特殊だ。さらにウェイトハンデもあるので、そこに合わせたドライビングをしていかなければならない」

 たしかに走行経験のないコースでは、今回のようにバトンは決勝で苦戦する傾向がある。そう考えると、後半戦はスポーツランドSUGO(宮城県/第6戦)やオートポリス(大分県/第7戦)といった難易度の高いサーキットが控えているだけに、そこでの走りに注目したい。

 スーパーGTはふたりで1台のマシンをシェアしなければならないうえに、レースウィーク中の走行時間も非常に限られている。少ない走行時間のなかで、いかにコースを攻略していけるかが、後半戦のキーポイントとなりそうだ。

「今回のタイのコースは、短時間で学べる簡単なサーキットだった。ランオフエリアが広いから、攻め過ぎてしまったり、ミスを冒しても、コースオフして復帰することが可能だったから。でも、日本のSUGOや岡山、オートポリスなどは、ひとつのミスがすぐクラッシュにつながってしまう。

 それはチャレンジングな要素ではあるけれど、慎重にいかなければいけない部分でもある。だから、限界値を見極めるポイントが難しい。後半は経験のないサーキットもあるから、シミュレーターなどでしっかり練習して臨まないといけないね」

 後半戦に向けて、バトンは気を引き締める。

「今年のホンダ勢は非常に競争力があると思うが、ウェイトを積むと、かなり苦しくなる。きっと、次回の第5戦・富士も、タフなレースになるだろう。ただ、第7戦・オートポリスは搭載ウェイトが半分になるし、最終戦のもてぎはウェイトが全車ゼロになる。そこが勝負だと思っているので、(NSX-GTが得意としている)第6戦・SUGOや第7戦・オートポリスでパフォーマンスを上げられるようにしなければならない」

 2018シーズンのスーパーGTも残り4戦。今後は、1戦たりともポイントを取りこぼすことができないシビアな戦いが待ち構えており、ここからがバトンにとっては正念場となるだろう。だが、元F1王者の経験と底力が100%発揮されれば、困難な状況を切り抜けられる可能性も高まるはず。残り4戦でバトンがどんな結果を残せるか、その走りにますます注目が集まっている。