日本対ベルギー戦で、ベルギーはふたつの違う顔を見せている。 ひとつは前半15~30分、後半20~30分、ラストシュート。もうひとつはそのほかの時間帯。ふたつはまるで異なるチームのようだった。それは乱戦で「制御不可能」だったことも示して…
日本対ベルギー戦で、ベルギーはふたつの違う顔を見せている。
ひとつは前半15~30分、後半20~30分、ラストシュート。もうひとつはそのほかの時間帯。ふたつはまるで異なるチームのようだった。それは乱戦で「制御不可能」だったことも示していた。
「タクティカルなゲームではなかった。すべて選手次第というのか。我々は0-2でリードされていて、解決策を探す必要があった。そこで、状況を変えられるのはベンチでの采配だったと思う。それでも、すべては選手たちの力量に委ねられていた」
ベルギーのスペイン人指揮官、ロベルト・マルティネスはそう明かしている。
「我々はW杯の歴史のなかで、0-2というスコアを覆すのがどれほど難しいか、知っていた。しかし、信念と希望を持ち続けて戦った。これは選手たちが決してあきらめず、戦い抜くことで得た勲章である」
ベルギーの選手たちは、どのポイントで日本をわずかに上回ったのか。
後半ロスタイム、ベルギーは底力を見せて逆転に成功した
「日本はとてもいいチームだった。戦術的にとても整然としていた。我々は容易にスペースを見つけられなかった」
ベルギーの守護神で、この試合の殊勲者のひとりであるティボー・クルトワはそう試合を振り返っている。
立ち上がり、ベルギーは少し面食らった様子を見せた。グループリーグを3連勝で勝ち上がった勢いのまま、攻撃に出ようとしたが、ビルドアップもままならない。
左サイドに強みのあるベルギーは、ヤニク・カラスコ、エデン・アザールという強力なアタッカーが、酒井宏樹のサイドを攻撃した。サイドでの優勢から全体の勝利に結びつけるのが、ベルギーの戦法だった。ところが、この攻撃が不発。酒井のダイナミックなディフェンスに封じられ、連係を作る前に潰される。これによって後ろでボールがつまって、むしろ日本に押される時間が続いた。
しかし、15分前後からベルギーは優位に立っている。ベルギーにはもうひとつ、攻め手があった。マンチェスター・ユナイテッドの大型FWロメル・ルカクがバックラインでボールを受け、ハイボールを呼び込み、日本の守備陣をたわませる。そこをベルギー攻撃陣がえぐった。ペナルティエリア内でボールを受けたルカクは三方を囲まれながらも、強引にシュートを放っている。
これでベルギーは一斉に攻勢を開始した。右サイドからクロスを呼び込んだルカクが合わせ、バンサン・コンパニが川島永嗣ともつれながらきわどいシーンを作り、アザールが抜け出してシュートを打つ。しかし、チャンスは作るものの、決めきれない。
すると31分、日本は香川真司のヒールパスを受けた長友佑都のクロスを、乾貴士がヘディングで狙う。これで呆気なく潮目は変わった。ベルギーは攻め疲れて動きが鈍くなったのか、日本の攻撃に警戒したような空気もあった。慎重な球回しになったことで、プレーがスローになり、日本のプレスに捕まるようになった。前半は膠着したまま終わった。
迎えた後半の立ち上がり、ベルギーのリズムは悪いままだった。ボールを持てず、後手に回る。サイドで高い位置を取れず、押し込まれて中盤でプレスがきかない。
48分だった。センターサークル付近でボールを受けた柴崎岳に自由を与え、完璧なスルーパスを左サイドで通されてしまう。守備ラインを突破された状況で、ヤン・ベルトンゲンは原口元気を止められず、クルトワはファーサイドを破られている。
先制された直後、ベルギーは日本の右サイドを崩し、折り返しをアザールが蹴り込み、シュートはポストに直撃する。攻撃で地力を見せたが、守備の混乱は消えない。コンパニを中心にしたバックラインは臆したのか、ズルズルと下がる。そして52分、バックラインの前で香川にボールを持たれ、落としたボールが乾に渡ったとき、誰もシュートブロックにいけていない。悪夢のような失点だった。
「2点差は厳しいが、必ず追いつけると信じていた」と、ベルギーの選手たちは語っているが、彼らの反発力とともに、日本が受け身に回ったことで、戦局は一変した。
サイドは深くまで侵入できないものの、ルカクがそびえ立って、日本DF陣を消耗させる。そして65分、ベンチがカードを切った。高さのあるマルアヌ・フェライニ、フィジカルスピードのあるナセル・シャドリを投入。クロスやハイボールで先手を取る策に打って出た。
69分、クロスに対して川島が中途半端なパンチングをすると、こぼれ球をベルトンゲンがヘディングで当て、前に出ていた川島の頭上を越した。2-1。さらに74分だった。フェライニが左からのクロスを長谷部誠に競り勝ち、同点弾を叩き込んだ。
「ベルギーの本気を感じた」
日本の選手たちはこの瞬間について、そう口を揃えている。ただ、ベルギーが本当の底力を見せたのは最後の最後だった。
アディショナルタイム、クルトワは本田圭佑の左CKをキャッチすると、ボールをそのままフリーのケビン・デブライネへ。日本が前がかりになっていたことで、デブルイネは無人の野を行くがごとく駆け抜け、バックラインのほころびを見透かすようなパスを右のトーマス・ムニエに入れた。ムニエがクロスを折り返すと、これをニアでルカクがスルーし、裏から猛スピードで入ってきたシャドリが合わせ、逆転のゴールが決まった。
「幸いなことに、我々の高さを生かしたゴールを決めることができた。逆転のシーンは、最後のコーナーキックをよくキャッチできたと思う。デブライネが走るのは見えたから、『絶対にゴールしろよ!』と叫んでいたよ」
クルトワはそう試合を振り返っている。緊迫のラストプレーは、関わったどの選手も、ディテールの技術と駆け引きが秀逸だった。
ベルギーは試合をリカバリーするカードを持っていた。それは監督の采配でもあるが、総力戦になったときの戦力差でもある。高さやスピードを武器にする選手がいる、メンバーの多様性の賜物(たまもの)ともいえるだろう。その点、2枚しか交代カードを切れなかった日本とは対照的だった。ベルギーは苦しんだが、わずかに日本を上回っていた。
「日本はルカクをコントロールしていたが、フェライニ、シャドリの投入で状況は逆転した。我々はチームとしてよくなり、アザールが躍動し始めた。そして多くのチャンスをつくることができたんだ」
ロベルト・マルティネス監督の言葉である。