マックス・フェルスタッペンがレッドブルに初の地元優勝をもたらした熱狂の陰で、姉妹チームであるトロロッソはおよそ本来の実力とはほど遠いレベルのレースしかできなかった。 要因のひとつとなったのは、皮肉にもようやく完成した新スペック空力パッ…

 マックス・フェルスタッペンがレッドブルに初の地元優勝をもたらした熱狂の陰で、姉妹チームであるトロロッソはおよそ本来の実力とはほど遠いレベルのレースしかできなかった。

 要因のひとつとなったのは、皮肉にもようやく完成した新スペック空力パッケージだった。



トロロッソはオーストリアGPに新しい空力パッケージを用意してきた

 フロントウイングの翼端板は3つに分かれ、ノーズ下の整流フィンもさらにアグレッシブなフォルムに進化。モナコで投入したフロアのスリットにも、さらなる改良を加えてきた。金曜のフリー走行では、今週末の”空力担当”だったブレンドン・ハートレイのマシンに新型パーツを装着してデータ収集を行ない、想定どおりの性能を発揮しているかどうかの確認を進めた。

 しかし、ハートレイは新旧ノーズを交換して比較走行を行なっても、「正直言って、違いがわからない」と言わざるを得なかった。1日を通してマシンバランスが悪く、コーナーの入口ではリアが不安定で、スムーズにコーナリングしていくことができなかったからだ。

「ダウンフォースが出ている」というデータを信じて、土曜からは2台ともにアップデート仕様の空力パッケージを投入したが、どちらもマシンバランスは思わしくないまま予選に臨むことになってしまった。その結果が12位・19位だった。

 特に19位に沈んだハートレイの声は暗かった。

「エントリーでのオーバーステアのひどさと、コーナリング中の正しいマシンバランスとの間でうまく妥協点を見つけ出すことができなかった。データ上ではコーナリング中のダウンフォースは増えているけど、マシンバランスがまとめ切れていないから、コーナリング時の各フェイズでそれをうまく使うことができない。

 コーナリング中のダウンフォースを稼ぐためにフロントフラップを立てれば、コーナーの入口でスタビリティ(安定性)が失われてオーバーステアがひどくなる。今週末はずっとその妥協点が見つけられなくて、気持ちよく走れる状態になっていない。だから、マシンに自信を持って走れていないんだ」

 増えたダウンフォース量をコーナリング時に使えるようにするのは、そう簡単なことではない。

「チームは(データ上では)ダウンフォースが増えていると言う。でも、それをラップタイムにつなげることができなかった。というのも、ダウンフォースが増えれば増えるほど、マシンをいかにセットアップすべきかという選択肢は大幅に増える。空力だけでなく、車高も関連してくるし、とても複雑なんだ。その点で今週末の僕らは、マシンのポテンシャルを最大限に引き出すことができなかった。これから膨大な分析が必要だよ」

 ハートレイは土曜午前のフリー走行時、縁石に乗った際の振動でフロントウイングのフラップが壊れ、スペアがひとつしか残されていなかったために旧型ウイング&ノーズで予選・決勝を戦わなければならなくなった。

 決勝に向けてフロントのフラップを寝かせ、空力バランスを大きくリア寄りにしたハートレイは、マシンバランスが大幅に改善したという。一方で新型パッケージのガスリーは、スタート直後のターン3でストフェル・バンドーン(マクラーレン)に接触されて右リアサスペンションとフロアに大きなダメージを負い、マシンはまともに走れる状態ではなくなってしまった。

「接触されて右リアサスペションが曲がり、フロアも半分ダメージを負ってしまったんだ。だから、クルマは(ダウンフォースを失って)あちこちでスライドしまくるようになってしまったし、常にクルマと格闘しているような状態だった。

 左コーナーはすべて、ターンインするとゴーカートのようにリアが流れるのでカウンターを当てていたし、あるコーナーでは超アンダーステア、あるコーナーでは超オーバーステアっていうような状態。コースオフしそうになったことも20回くらいあったし、最後まで走り切れたのが不思議なくらいだよ」



戦略ミスでタイムを落とす結果となったトロロッソの2台

 実力を発揮しきれなかったもうひとつの要因は、戦略の未熟さだった。

 14周目にバルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)がストップしてVSC(バーチャルセーフティカー)が出た瞬間、多くのチームはピットインしてタイヤ交換を済ませ、最後まで走り切る戦略に出た。そうしなかったメルセデスAMGがレース後にルイス・ハミルトンに謝罪したように、それが今回は定石(じょうせき)といえる戦略だった。

 ところが、この状況になったとき、トロロッソは手負いのガスリーにその定石を与え、後方スタートのハートレイにはスーパーソフトのままレース終盤までステイアウトさせる粘りの戦略を指示した。

 そのため、レース再開後に一旦はチームオーダーで順位を入れ換えてガスリーを先行させたが、ガスリーのペースは伸びずにハートレイが抑え込まれるような状態になってしまった。ハートレイは最後の数周でウルトラソフトに履き替えて猛プッシュをする予定で、タイヤを労(いたわ)るためにも前走車とは2秒程度の差を開けて走らなければならず、不満を訴えた。

「ピエール(・ガスリー)の後ろでタイムを失っているんだ!」

 しかしチームは、「問題ない。このまま走ってくれ」と指示。今にもコースオフしそうな際どいドライブを続けるガスリー優先の戦略を採った。

「ピエールを先行させなければならなくて、戦略が違うからそれ自体は理解できるんだけど、実際のところ僕のほうがペースがよくて、僕は彼の後ろに引っかかるような形になってしまったんだ。(ガスリーに)譲ったときにはまだ大きく(前走車と)離れていたし、その後のペースもよくなかった。それによって、僕のレースはかなり妥協を強いられることになってしまった。もし違う戦略を採っていれば、僕はもっと前のポジションにいただろう」(ハートレイ)

 メルセデスAMG勢の2台とダニエル・リカルド(レッドブル)がリタイアし、ルノー勢がリタイアとタイヤのブリスター(※)で後退したため、ガスリーは8番手まで浮上した。しかし、スライドしながら走っているガスリーのタイヤが厳しいのは当然だった。最後はタイヤがタレ、次々と抜かれてポイント圏外まで脱落した。

※ブリスター=タイヤの温度が上昇し、タイヤ表面が膨れ上がったり気泡ができること。

 結果的にハートレイはウルトラソフトのアタックを見せる前に、リアサスペンションのトラブルでリタイアを余儀なくされた。だが、トラブルに見舞われていなければ、計算上はポイント圏内まで挽回することができたはずだという。もしくは、ペースのよかったハートレイもVSC時にピットインさせていれば、リスクを冒すことなくザウバー勢の前後でポイントを獲れていたはずだ。

「いずれにしても、今日はポイント獲得が可能な速さがあったとチームも認めてくれているよ。だからこそ、とてもガッカリしている。レース序盤は、ザウバーはとても速かった。でもレースが進むにつれて、どんどん僕のほうが速くなっていったんだ。昨日の予選ではマシンバランスがまったく満足できる状態じゃなかったけど、今日はエアロバランスを大きくリア寄りに変更したことで、レース後半は特に気持ちよく走れる状態になっていたんだ」

 戦略面で何を優先すべきか、それを読み誤った結果がノーポイントというリザルトだった。

 加えて、新空力パッケージをうまく機能させられなかったことにも不安が残る。

 新スペックのガスリーはダメージを負っており、決勝のデータは参考にならない。旧スペックのハートレイ車のデータも使えない。金曜のハートレイ車と土曜のガスリー車のデータのみで、改めて分析を進めて新パッケージを使いこなすための方策を見つけ出さなければならないのだ。おそらくは、イギリスGP金曜日のフリー走行までその作業は続くことになるだろう。

 そこまでいって初めて、新空力パッケージの是非が判断できる。勝負はそれからだ。

「パワーユニット側のスペック1と2の性能差は明らかに見えていますから、それはいいと思います。今回はトロロッソの新空力パーツも加わりましたが、まだまだ結果を明確に出せるレベルのものにはなっていません。さらに理解を深めなければ使いこなせませんが、使いこなせたときにどこまでいけるかどうかというのは、また次の問題だと思います」(田辺豊治テクニカルディレクター)

 オーストリアGPのトロロッソ・ホンダは、スタートラインにすら立っていなかった。次戦イギリスGPまでの4日間で、早急な改善と再出発が必要だ。