実力はベルギーが上。結果は妥当。冷めた見方をすれば、そういうことになる。 だが、そんなことは承知のうえで、単純に面白かった。日本はよく戦った。そう言っていい試合だったと思う。 ワールドカップ決勝トーナメント1回戦。日本は1998年フラ…

 実力はベルギーが上。結果は妥当。冷めた見方をすれば、そういうことになる。

 だが、そんなことは承知のうえで、単純に面白かった。日本はよく戦った。そう言っていい試合だったと思う。

 ワールドカップ決勝トーナメント1回戦。日本は1998年フランス大会に初出場して以来、6大会連続で本大会に出場しているが、グループリーグを突破し、ここまで駒を進めたのは3回目のことだ。

 しかし過去2回は、2002年日韓大会がトルコ、2010年南アフリカ大会がパラグアイと、比較的対戦相手に恵まれてきたにもかかわらず、日本は何とも煮え切らない戦いで、いずれも敗れてきた(2010年はPK戦決着ではあったが)。

 それに比べて今回の対戦相手であるベルギーは、優勝候補のひとつにも挙げられる、正真正銘の世界トップレベル。そんなチームを向こうに回し、最後まで勝負の行方がわからない接戦を演じたのだから大健闘だった。

 それも、終始守備に追われ続けただけの、スコア上だけの接戦ではない。日本はかなりの時間でボールを保持して試合を進め、劣勢の時間はあったものの、一時は2-0とリードした。

 加えて、両チームともにファールが少なく、特に前半はほとんどプレーが切れず、互いが絶え間なく攻守を入れ替えて進む試合は、見ていて気持ちがよかった。

 結果的に「最後の30分は本気のベルギーに対抗できなかった」(西野朗監督)ということになるのだろうが、試合が終わるその瞬間まで勝利を期待させてくれる試合だった。




乾貴士のゴールで一時は2-0とリードしたが...

 強豪相手に善戦した満足感など、当事者たちにはない。西野監督は「結果については残念のひと言」。キャプテンのMF長谷部誠も、「こういう結果に終わって、手応えよりも失望というか、悔しさが上回っている」と話している。初のベスト8進出に、そしてブラジルとの対戦に、もはや指先が触れていただけにもったいない試合ではあった。

 だが、今回の敗戦が過去2回の同じステージでの敗戦に比べて価値が高いのは、日本が至って”普通に”戦い、それでも勝負になっていたからだ。

 日本は引いて守りを固めたわけでもなく、玉砕覚悟でハイプレスに打って出たわけでもない。いつものようにパスをつないで攻め、ボールを失ったら切り替えを速くして奪い返し、奪ったボールは安易にクリアせず、落ち着いてつないで再び攻撃に転じる。その繰り返しを丹念に続けただけだ。

 長谷部は「8年前(の南アフリカ大会)はかなり守備的にやっていた」と言い、こう続ける。

「今回は受け身にならず、守備でも自分たちからアクションを起こしていこうとやっていた。勇気を持ってかなりいけた部分があるので、8年前より手応えがあったし、戦えた」

 もちろん、ワールドカップ2カ月前の監督交代という、ある種のショック療法が選手に意識変化をもたらしたことはプラスに作用しただろう。

「監督が選手の自主性(を尊重する)というか、選手と一緒に作っていくという形を取ったことで、(選手は)自分たちがやらなきゃという気持ちが芽生えた」

 長谷部がそう語るように、選手の中に生まれた危機感は、間違いなくチームを強くした。

 しかし、意識が変わったからと言って、急にボール扱いがうまくはならないし、どこでどう動けばいいかが判断できるようにもならない。技術的にも戦術的にも、日本サッカーがこれまでに築き上げてきたベースがあったからこその結果である。

 最終的なボールポゼッション率は、ベルギーの56%に対し、日本は44%。後半早々に日本が2点のリードを奪ったことで、その後はベルギーが必死で猛攻を仕掛ける展開が続いたことを考慮すれば、ほぼ互角と言っていい数字である。

 ベルギーのゴールネットを揺らした2本のシュートに関して言えば、出来すぎだったかもしれない。しかし、そこに至る過程については、何も特別なことはしていない。日本で日常的に行なわれているサッカー、すなわち、前任の監督が決して認めようとしなかった日本のスタイルを貫いて、優勝候補相手にこれだけの試合ができたことの意味は大きい。

 もちろん、改善すべき点、もっと伸ばさなければいけない点は数多くある。

 例えば、MF香川真司が「最後の局面での個の力をもっと上げないといけない」と語ったように、選手個々の能力不足を組織力だけでカバーすることには限界がある。また、長谷部が「カウンターについてはチームでかなり話していたのに、最後はカウンターでやられている。試合巧者ではなかった」と語ったように、せっかくの2点リードを守り切れなかった試合運びの拙(つたな)さにも課題は残る。

 わずか1試合の結果だけで、世界の背中が見えたなどと言うつもりは毛頭ない。

 それでも4年前の惨敗をきっかけに、選手やスタッフだけでなく、ファンやメディアも含め、自分たちが目指すスタイルに迷いが生じていた日本サッカーは、ベルギーを土俵際まで追い詰めた一戦で大きな自信を手にしたはずだ。

 負けはした。だが、日本代表の試合を見ていて、こんなにも楽しかったのはいつ以来だろうか。少なくとも、過去に日本代表がワールドカップで見せたどの試合よりも痛快だった。