大会前のテストマッチで全選手を起用し、3バックと4バックを試すなど周到な準備をしていたかと思えば、ラウンド16のベルギー戦に向けた公式会見では、「そこ(PK戦)に至る前に決着を着けたい」という理由で「PKの練習はしない」と宣言してみた…
大会前のテストマッチで全選手を起用し、3バックと4バックを試すなど周到な準備をしていたかと思えば、ラウンド16のベルギー戦に向けた公式会見では、「そこ(PK戦)に至る前に決着を着けたい」という理由で「PKの練習はしない」と宣言してみたりする。
ベルギー戦に向けて最終調整を行なう日本代表の面々
リアリストなのか、ロマンティストなのか、よくわからない。両者が絶妙なバランスで混ざり合う、夢見がちなリアリスト――。それが、西野朗監督の本質だろう。
一方、ラウンド16に勝ち進んできたなかで思うのは、日本人監督が指揮を執ることのメリットが色濃く出ている、ということだ。
そのメリットのひとつに、「日本代表の歴史を熟知している」ということがある。
たとえば、グループステージ最終戦のポーランド戦。周知のように西野監督は、0-1のまま試合を終わらせるために、長谷部誠を投入した。
そこで思い出すのは、2006年ドイツ大会初戦のオーストラリア戦である。1-0とリードして迎えた後半途中、オーストラリアがパワープレーを敢行してきた際に、小野伸二が投入された。
しかし、ピッチの選手たちには、この交代に込められたメッセージがわからなかった。追加点を奪って試合を決定づけるのか、中盤でボールをキープして落ち着かせるのか、セカンドボールを積極的に回収するのか……。
混乱をきたしたチームは結果、オーストラリアに逆転を許してしまう。
一方、今大会で混乱することはなかった。
現チームにおいて長谷部は、アンカーやセンターバックまでこなす、守備に強みを持つ選手という共通認識がある。その長谷部をアンカーに入れること、長谷部自身が最初の2、3プレーでボールを下げることで、「このままの状態で終わらせる」というメッセージが共有されたのだ。
ポーランド戦におけるスタメンの選考も同様だ。
日本代表は過去2回、決勝トーナメントに進出している。自国開催だった2002年日韓大会と、2010年南アフリカ大会である。そのふたつの大会について、西野監督はこんな感想を話している。
「すばらしい戦いでグループステージを勝ち抜いた大会でしたが、すべてを出し尽くした感があって、チームに余力があったのかどうか。2002年は初めて(グループステージを)突破した満足感とか、貪欲に(ラウンド)16に対して挑んだのかどうだったのか。南アフリカもグループステージでチーム力をすべて投げ出して勝ち取ったと思う」
当時の目標は決勝トーナメント進出。そのミッションを成し遂げるためにグループステージで全精力を使い果たした。その結果、ミッションは達成できたが、ラウンド16で力尽きた――という見解である。
一方、今大会のポーランド戦では、長谷部、香川真司、原口元気、大迫勇也、乾貴士、昌子源をスタメンから外し、これまで出場機会の少なかった選手たちをスタメンで送り出したのだ。
「トーナメントに入ってフレッシュな戦いができるようなメンバー選考でしたし、チーム力として疲弊していない、いい状況が作れた」という指揮官の言葉を聞くと、3度目の決勝トーナメント進出を狙った今大会では、いかに余力を残して勝ち上がるか、がテーマだったことがわかる。
優勝を狙う強豪国のように、「ここからワールドカップが始まる」というほどの余裕はないが、それでも、ベルギー戦にフレッシュなメンバーを送り出せるという点で、日本代表は初めてベスト8進出を現実的に捉えてラウンド16を戦うことができるわけだ。
2010年南アフリカ大会におけるグループステージ突破と、2014年ブラジル大会における惨敗の両方を経験した長谷部、本田、長友佑都、岡崎慎司、川島永嗣の5人に対する厚い信頼からも、いかに指揮官が歴史と経験を大事にしているかがうかがえる。
彼らがどんな想いでこの4年間取り組んできたのか、技術委員長時代からよく知っているのだろう。彼らのリベンジの想いを尊重し、それをチームにうまく組み込んでいる。
たとえば、川島はガーナ、スイスとの親善試合、コロンビア戦、セネガル戦と不安定なプレーをのぞかせていたが、指揮官はポーランド戦のスタメンから外さなかった。それどころか、セネガル戦のあとにじっくり話し合う機会を設けると、ポーランド戦に向けた公式会見に出席させ、キャプテンマークまで託すのだ。
その期待に川島はプレーで応えてみせた。安定した守備でチームを救い、不調を払拭するのである。
ポーランド戦のあと、「こういう状況で託されたことには、いろんな意味があったと思う。その想いを汲み取らないといけないし、それに応えないといけない」と語った川島は、話し合いについても「気持ち的にすっきりした部分は大きかった。新しい体制になってから、迷惑しかかけていなかったので、そういうことも話ができたのはよかったと思います」とあらためて振り返った。
日本代表は1998年大会フランス大会で初出場を飾り、2度の決勝トーナメント進出を経験して今がある。
2010年南アフリカ大会でグループステージを突破し、2014年ブラジル大会で惨敗を喫して今がある。
今の日本代表は、こうした流れ、歴史の上に成り立っているということを、強く感じさせてくれる。過去を知り、未来にどう結びつけるのか――。歴史を塗り替える準備は整った。ベスト8進出という未知の領域へのチャレンジが、いよいよ始まる。
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