川島永嗣はポーランド戦後、ピッチで涙を流したという。それも仕方がないかもしれない。コロンビア戦、セネガル戦と、ここまで決定的なミスが相次ぎ、チームをピンチに陥れてきたからだ。プレッシャーもあっただろうし、批判も耳に届いていた。「それは…
川島永嗣はポーランド戦後、ピッチで涙を流したという。それも仕方がないかもしれない。コロンビア戦、セネガル戦と、ここまで決定的なミスが相次ぎ、チームをピンチに陥れてきたからだ。プレッシャーもあっただろうし、批判も耳に届いていた。
「それはこの立場、このポジションにいる以上、いろいろなことを言われるのは仕方ないし、正しく批判されているところもあるし、正しくなく批判されているところもあると思う。でも、それを覆せるのは、結局、自分しかないですし、何より監督がこういう形で信頼してくれて、チームメイトも含めて信頼してくれているという、その気持ちに応えなきゃいけないというのが自分にはあった。やっぱり戦っているのは自分だけじゃないし、そのなかでチームに貢献したいなという気持ちでした」
ポーランド戦では落ち着いたプレーを見せた川島永嗣
西野ジャパンの立ち上げの頃から、川島は微妙なプレーが絶えなかった。初陣となったガーナ戦では、長谷部誠との連係ミスから相手にPKを献上。相手DFを倒してしまうという最悪のシーンだった。慣れない3バックのトライアルを行なった試合ではあったが、システムが不調だった以上に、川島の状態が懸念された。
「(W杯に入ってからの)この3試合というよりは、やはりこの新しいチームになってから、自分のパフォーマンスにはまったく満足してなかった」(川島)
川島の意識のなかには、このガーナ戦のパフォーマンスが残っていったのだという。続くスイス戦では、後半29分、カウンターを狙って早いタイミングでスローイングを試みたが、これが見事に相手選手の足元へと届いてしまった。直接、失点にこそつながらなかったものの、「川島、大丈夫か?」と言わざるを得ないシーンだった。
「やっぱり自分のなかで、断ち切らなきゃいけない部分というのはあって、それがなかなかできないまま、ズルズルきてしまっていた」
西野ジャパンは3戦目のパラグアイ戦でようやく勝利を挙げているが、この試合に川島は出場せず。東口順昭と中村航輔が45分ずつプレーしている。ただ、この2人のパフォーマンスも安定しているとは言えず、ともに1失点ずつ喫している。
この時点で、川島の正GKは決まったようなものだった。2人を同じ時間試したということ自体、あくまで2番手、3番手のバックアッパーの域を出ないという西野朗監督の意思表示だろう。たとえ川島がミスを繰り返していても、総合力で外せないという判断が見て取れた。
そして迎えたW杯。コロンビア戦ではFKを決められている。FKでグラウンダーのボールがくる可能性は、スカウティングで把握していたはずなのに、壁をつくっていた選手たちは飛び上がった。その影響もあっただろうが、川島の反応の悪さは否定できなかった。続くセネガル戦では、シュートをパンチングしたボールが目の前のサディオ・マネに渡り、先制ゴールを決められた。
西野監督は、ポーランド戦前日の公式記者会見に川島を同席させた。大幅な先発メンバーの変更が囁(ささや)かれていたなかで、あたかも川島の先発を予告したようなものだった。それはもしかしたら、指揮官からのエールだったのだろうか。
「普通に監督の指名で、会見(に出席)するようにと言われたから……。監督もいろいろな意図があって指名してくれたのかもしれない。選んでもらうというのは、何か意味があるはずだし、それを自分は汲み取って、やらなきゃいけないという気持ちでいました」
そのポーランド戦、川島は前半32分、ゴールラインにかかった相手のシュートをギリギリでかき出している。また、この試合ではゲームキャプテンも任されており、先発6人が代わってオートマティズムを失ったフィールドプレーヤーたちに、コーチングの声を送り続けた。
「ピンチになる場面は、ポーランドはカウンターが多かった。自分たちがボールを動かしているときも、ボールを奪われたらどうなるかというのを意識して話してました。ディフェンスラインでマキ(槙野智章)にもマヤ(吉田麻也)にも見えてないところは、声をかけるようにしていました」
試合に敗れはしたが、この一戦で川島は、「断ち切れないもの」を少しは断ち切れたのではないだろうか。
「自分らしいプレーをしなければ、チームに貢献できないとは思っていましたし、前回の試合でチームメイトに助けてもらったように、自分もチームを助けなければいけない。まあ、自分はひとりで戦っているんじゃないと思えたのは、大きかったと思います」
大会に入って、フィールドプレーヤーたちは徐々に自信を深めているように見える。そんななかで、不安を引きずっていたGKが自信を取り戻していたら、日本代表はもう一歩、前へ進めるかもしれない。