母国フランスGPの”惨敗”から立ち直るのに、ピエール・ガスリーは2日かかったという。「乗り越えるのは大変だったよ。日曜も月曜も落ち込んで、火曜日になってようやく気分がマシになったので、今週末のことを考えられるよ…

 母国フランスGPの”惨敗”から立ち直るのに、ピエール・ガスリーは2日かかったという。

「乗り越えるのは大変だったよ。日曜も月曜も落ち込んで、火曜日になってようやく気分がマシになったので、今週末のことを考えられるようになった。なんといっても、フランスGPは今シーズンの最初からずっと待ちわびていたレースだったから。ものすごくワクワクしていたので、いいレースができなかったことに本当に落ち込んでいたんだ」



取材陣の質問に答えるホンダの田辺豊治テクニカルディレクター(右から3番目)

 それは待ちに待った母国グランプリで結果を出せなかったというだけでなく、カナダで投入したスペック2パワーユニットならば中団の上位を争うことができるはずだ、という期待が大きく裏切られたからでもあった。

 ストレートの車速が伸びないことが、とくに決勝での競争力不足に響いた。スペック2の出力向上に手応えを感じていただけに、トロロッソ・ホンダには激震が走った。問題は、その原因究明がオーストリアGPまでのわずか4日間のインターバル期間に果たせたかどうかということだ。

 実は第8戦・フランスGPの土曜日の時点から、チーム内では原因究明を急ぐための議論が進められていた。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「チーム内でのミーティングでもスピードの話は出ていました。ですから、我々も予選後にチームと別途ミーティングを行なって、チーム側で(セッティングについて)考えられることとパワーユニット側で考えられることを突き合わせて、セッティングが間違っていなかったことをまずは確認しました。そして、車体のセッティングとパワーユニットの使い方でどうすれば速くできるのかを考え、今回のレースに向けてお互い解析を続けて持ち寄ろうということです」

「セッティングが間違っていなかった」というのは、STR13の持つポテンシャルを最大限に引き出し、ラップタイムが最速になるセッティングだったという意味だ。

 ただし、それが決勝でも正しいセッティングだとは限らない。予選でいくら速く走ることができても、決勝でバトルができず、抜かれてしまうセッティングでは意味がないからだ。

 この点に関して、田辺テクニカルディレクターは「ダウンフォースのつけすぎではなかった」とチームを擁護したが、ガスリーは空力パッケージのドラッグが大きすぎたという見方をしている。チーム内でまだはっきりとした答えが見いだせておらず、見方は分かれているのだろうが、ガスリーサイドとしてはストレートを重視して、もっと薄いウイングをつけるべきだったと考えているのだろう。

「僕たちはセットアップ面で正しいウイングではなかったと考えているし、ダウンフォースと最高速のバランスという点で、もう少しいい妥協点があったはずなんだ。ポール・リカールでもっと高いパフォーマンスを期待していたと同時に、解決しなければならない問題がいくつかあった。正しいウイングでなかったのは初めてのことではなくて、バクー(第4戦・アゼルバイジャンGP)でもそうだったしね。

(最高速不足は)間違いなくパワーユニットだけの問題ではなくて、車体面でももっといい仕事ができたはずだった。どうしてポール・リカールでそれができなかったのか、いくつかのアイデアはあるけれど、まだはっきりとした答えには辿り着いていない」(ガスリー)

 また、ブレンドン・ハートレイも、「空力や風などいろんな要素が複雑に絡み合うことだし、何かひとつこれだという明確な理由があるわけではない」との見方を示している。

 STR13は風の影響を受けてダウンフォースを失いやすい特性があり、シーズン序盤の第3戦・中国GPではこの問題に苦しんだ。その特性は改善されてきているとはいえ、フランスGPの週末にはチームがそれを意識すぎてしまった面もあった。

「ある意味ではそこに注力しすぎて、風への対応が優先になってしまった感はあります。他のセッティングに振ってみてどうかという確認ができなかったり、FP-3(フリー走行3回目)が雨で走れなかったり。過去に経験のないサーキットですから、シミュレーション上では『これがベストだ』というセッティングで走り始めましたが、風向きが180度変わったことに対してああだこうだやっているうちにセットアップを煮詰めきれなかった」(田辺テクニカルディレクター)

 今週末のオーストリアGPには、ノーズやフロントウイング、フロアなどに細かなアップデートが持ち込まれている。フランスGPで見失ったセットアップの妥協点をきちんとおさらいし、STR13のポテンシャルをしっかりと引き出すことが重要になる。

 ホンダにとっては、カナダとフランスで立て続けに起きたトラブルは、アップデートに起因するものではなく、やはり品質管理上の問題だったようだ。

 だが、「同じトラブルが続発して、火種(ひだね)が増えているのはよくないことですし、それを完全に消せていないのもよくありません」と不安の火種はくすぶっている。その問題をファクトリーで究明するのと同時に、車体側のセットアップが万全な状態で、この全開率の高いレッドブルリンクでスペック2をきちんと評価することも重要になる。

 ガスリーは言う。

「ふたつのトラブルは別々のものだし、カナダで僕に起きたトラブルはもう起きないものだ。ブレンドンのほうはまだ詳しく情報を聞いていないけど、それほど心配してはいない。今週末は車体面に少しアップデートも入るし、前進できるはずだ。

 マシンとしては、今シーズンここまででもっともコンペティティブな状態になっていることは間違いない。それをきちんと引き出して、トップ10に少しでも近づけるように願っているよ。新スペックエンジンの性能を確認するうえでも、今週末はとても重要だと思っている」

 トロロッソにとっても、ホンダにとっても、このオーストリアGPは極めて重要な意味を持つ。シーズン後半戦に向けて、コース上での成績のみならず、今後の開発計画をも大きく左右する大事な試金石となるはずだ。